第114話 司馬昭動く
降伏した者が魏延の暗殺を試みた事は瞬く間に全軍に知れ渡った。
暗殺は失敗に終わったので事無きを得たものの降兵を受け入れる際の処遇は各軍の尖兵を務めさせるなど降兵にとって厳しい環境に一変した。
司馬昭によって息子を使い潰された形の賈逵は賈充惨死の知らせを聞いた後、濮陽から忽然と姿を消した。
晋の諸将は司馬昭が賈充惨死の知らせを聞いても顔色一つ変える事なく、役立たずめとだけ呟いた事に対して怒りと恐怖を覚えた。
司馬懿は晋王としての飾りで存在するだけであり、事実上司馬昭を頂点とする体制になっていた。
司馬昭は賈充以下子飼いの若者を諜報や暗殺を主任務とする暗部を設けており、諸将の行動や言動を逐一把握していた。
司馬一族に諫言した者が原因不明の理由で急死するなど司馬昭が暗部を使い裏で手を下していると思わざるを得ず、状況を憂う者が居ても暗部を気にするあまり行動を起こせない状況下にあった。
◇◇◇◇◇
「そのような部隊があるとは…。」
「司馬一族は人を何だと思っているのだ?」
「自らの野望を成し遂げる為なら他人を平気で使い捨てるような危うい性質の持ち主なのでしょう。」
「将軍の身辺警護を厳重にするべきだ。」
魏延の幕舎に集まった諸将は暗殺未遂事件の顛末を聞いて善後策を話し合っていた。
「上層部がどのように考えているか分からないが、司馬一族と暗部を逃がすような事になれば大変な事態になるぞ。」
「龐統先生から両者については助命しないと聞いている。法正軍師や陸遜将軍も同意している。反対意見は一切出なかった。」
魏延は少し離れた所で張郃と向かい合って話をしていたが二人の表情は暗かった。
張郃は袂を分かつまでは同胞として鎬を削っていた一族がとんでもないものに手を染めていた事に対して衝撃を受け、言いようのない怒りを覚えた。
魏延から軍議で今回の一件について話し合いをすると聞いていたので帰りを待ち構えていた。
張郃は龐統以下上層部が関係者に対して恩赦紛いの助命をしようものなら断固として反対するつもりでいたからである。
「若年の者が多く居ると聞いているが仕方あるまい。」
「そのような所に足を突っ込んだ者は抜け出す事は不可能だろう。」
「司馬一族、いや司馬昭だったか。奴はとんでもない物を作り上げてしまったな。」
二人は次代を担うべき若者から人格を奪い使い捨てる組織を作り上げた司馬昭に対して怒りの感情しか湧いてこなかった。
◇◇◇◇◇
包囲網が狭まった事で晋の食料調達は事実上不可能になった。
濮陽には将兵の他にも住民が居るので全体的に飢餓状態となり、兵士による略奪が散見されるようになったので住民から怨嗟の声も聞こえ始めた。
この状態を放置すれば軍民による蜂起も時間の問題になった事で司馬昭はようやく腰を上げて自ら出陣して包囲網を打ち破る事を決めた。
濮陽の様子が普段と異なり静まり返っている事を聞いた龐統は晋軍が動くと判断して各陣営に使者を立てた。
各陣営とも普段から即時対応可能な態勢にしていたので敵襲を万全の体制で待ち受ける事になった。
「張郃と徐晃には先鋒を任せたい。」
「承知した。」
「左翼は傅士仁、右翼は姜維に任せる。」
「承知致しました。」
「馬謖は馬忠、陳羣と共に中軍を任せる。」
「お任せ下さい。」
「私は殿軍を指揮する。各自その場の状況に応じて臨機応変に動いてくれ。」
魏延以下諸将はこの戦いである程度の目処がついて欲しいという思いを抱きつつ出陣した。
視線の先には濮陽城が聳えており不気味なくらい静かな状態で四軍をむかえいれようとしていた。
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