第85話 成都潜入
魏延は楊儀を伴い成都に入った。しかし魏延は姿を変えており楊儀の召使いとして入城している。
「諸葛丞相に帰還の挨拶を行わなければ。」
「楊儀殿、挨拶は明日にしよう。先ずは情報を集めなければならない。」
丞相府に復命しようとした楊儀を止めてある男の屋敷に向かった。
「兄弟、久しぶりだな!」
「胡車児も元気そうで何よりだ。」
「さあ、中に入ってくれ。」
ある男とは近衛軍大将の胡車児である。胡車児は魏延の義兄弟であり盟友でもあるので何か有れば協力を得やすく魏延にとって最高の味方である。
「誰が大元か分かっているのか?」
「済まんがそこまで知らされていない。諸葛丞相に荊州で変事の兆しありと報せがあったというのは聞いている。」
「誰かが丞相にあらぬ事を吹き込んだか。相手が分かれば締め上げるのだが…。」
「丞相から全く情報が流れてこないのだ。かと言って我が君に聞くわけにいかん。」
胡車児は荊州の件を耳にしてから方々に手を回して情報を手に入れようと動いていたが丞相府に箝口令が敷かれており誰かが諸葛亮に情報をもたらした事しか分からなかった。
「丞相府に出向いたところで玄関払いだろうな。」
「それなら丞相を引っ張り出すしかないが…。」
「成功する保証はありませんが丞相を誘い出す事が出来るかもしれません。」
楊儀は二人に諸葛亮を誘い出す計画を語った。諸葛亮が丞相府へ行き来する際に使う道沿いに楊儀の家があり、顔を合わせれば門の前で立ち話をする間柄になっている。楊儀は黄権の部下だが諸葛亮はその弁舌と才能を買って今回の使者に抜擢した。楊儀は立ち話を利用して諸葛亮を屋敷に誘い込むという計画を立てた。
◇◇◇◇◇
翌日楊儀は政庁で劉備と諸葛亮に帰朝報告を行った。荊州に何ら変化は無く、劉封から命令に従い成都に向かうと返事を預かった事だけを伝えて報告を終えた。二人から色々質問されたが楊儀は表情を変えず淡々と答えてその場を切り抜けた。
諸葛亮は自邸へ戻る途中、ふと思い立ち楊儀の屋敷へ寄る事にした。楊儀から荊州の様子を聞いたが平時と変わっていない事に疑問を抱いた。劉封を召喚する理由が叛乱の疑いありとしていたので龐統を始めとする荊州軍の将軍達が反論しなかったというのが腑に落ちなかったのだ。
「丞相様、お帰りですか?」
「そうです。」
「丞相様さえ良ければ一服されませんか?」
「折角の誘いを断れば失礼にあたりますので。」
楊儀の屋敷を通り掛かった時に本人が家人に指図しているところに出くわした。諸葛亮が要件を切り出そうとしたら楊儀から誘われたのでこれ幸いと一服させてもらう事にした。
「丞相様、某の友人が遠方から訪ねて来ておりまして機会があれば丞相様を拝見したいと申しております。図々しいのを承知で一度会って頂きたいのですが。」
「そういう事なら喜んで会いましょう。」
「ありがとうございます。連れて参りますのでお待ち下さい。」
諸葛亮は何ら警戒する事なく楊儀とその友人を待っていた。仮に変な真似を考えていたとしても部屋の外には近衛軍の腕利きが控えているので助けを求めれば急な対応も可能だと考えていた。
「丞相様、お待たせ致しました。」
「諸葛丞相様にお会い出来て光栄の極みで御座います。」
諸葛亮は何処かで聞いた事のある声だと思ったが何かの勘違いだとして頭の片隅に追いやった。
「お客人殿、顔を上げて頂かなければ挨拶が出来ません。」
「これは失礼致しました。」
「…!」
諸葛亮は楊儀が連れて来た友人の顔を見て言葉を失った。荊州の新野に居る筈の魏延が居たからである。
「久方ぶりです。諸葛丞相。」
諸葛亮を見る魏延は不気味な笑顔を浮かべていた。
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