第63話 唸る偃月刀
「さて呂蒙殿、貴殿は江夏へ向かうようだがここから先へ通す事は認められん。」
「ならば力づくで通らせて貰う!」
「良かろう。」
関羽は偃月刀を側に居た兵士に預けて剣を抜いた。
「貴殿は木々に覆われている所で長刀を振り回すのか?」
怒りで我を忘れていた呂蒙は関羽に指摘された事で周囲の状況に気が付いた。呂蒙は長刀を投げ捨てて剣を抜いた。
「久々の戦場、楽しませて貰おう。」
関羽は赤兎馬を呂蒙に近付けて剣を振り下ろした。
*****
呂蒙は智勇兼備の将と知られているが元々武人として自ら先頭に立って戦っていた。ある時、孫権から兵法を学んで自身の糧とせよと命じられたので渋々兵法書を読むようになった。孫権は三日もしないうちに根を上げるだろうと周囲に語っていたが予想に反して呂蒙は兵法にのめり込んだ。
数日後、様子を見るために訪ねてきた魯粛と対等に兵法談議を繰り広げた。驚いた魯粛に対して『士別れて三日ならば、即ち更に刮目して相待つべし』と語り感心させた。孫権も呂蒙の変貌ぶりに感心して重用するようになった。
呂蒙は大局を見る事なく呉至上主義に囚われて魯粛や陸遜と一線を画すようになった。その結果が劉備と孫夫人の襲撃未遂や今回の荊州侵攻に繋がった。呂蒙の思惑に反して結果は余りに無惨であり凄惨たるものだった。
*****
呂蒙が普段と同様の精神状態であれば関羽を相手にしてもある程度は抵抗出来たと思われるが荊州侵攻の失敗で精神状態が不安定なまま戦っていれば結果は知るまでも無かった。
「そのような気構えで勝てると思うな!」
関羽の鋭い剣撃に呂蒙は耐えきれず剣が手からすり抜けた。
「終わりだな。」
呂蒙は剣先を喉に突きつけられて勝負は終わった。
「こんな筈では・・・。」
呂蒙は恐ろしい形相で関羽を睨んだ。
「呂蒙を捕らえよ。江陵へ連行する。」
関羽は兵士が呂蒙を拘束したのを確認して剣を収めた。
*****
龐統は樊城を真剣に攻める気は無く、適当に動いた後は見切りをつけて襄陽に引き揚げた。その際に呉の水軍が荊州に向かっている知らせを受け、陳到に水軍を統括させて迎撃に向かわせた。
陳到は水軍を率いて東に下り、周泰率いる呉の水軍と激突した。陳到は川の流れを活かした攻め方で呉軍を翻弄して返り討ちにした。周泰が乱戦の最中に行方不明となり指揮系統が破壊された事が致命的となった。
*****
江夏に向かった趙雲は郊外に陣を構えて城を守る甘寧と睨み合いが続いた。しかし双方共に戦う意思は無く、端から見れば奇妙な状態だった。
やがて呉軍本隊と水軍の大敗という知らせが入り雰囲気は一変した。江夏は漢水沿いにあるので水軍が居なければ守りにくい城である。その守り刀的存在だった水軍は江夏から従った船を含めて全滅に近い大敗を喫した。加えて陳到率いる荊州水軍が江夏に向かっているという情報が入り城内は混乱した。
甘寧は副将を務める韓当と話し合って江夏放棄を決断した。盧江まで後退すれば建業に残っている水軍と連携が取れるので専守防衛が可能だと判断しての事である。また南西に位置する豫章から長沙を牽制すれば荊州軍も無謀な真似はしないだろうという思いもあった。
甘寧と韓当は夜半に城を脱出して甘寧が盧江、韓当が豫章に別れて退却した。翌朝異変に気付いた趙雲は城まで兵を進めて呉軍の退却を確認して占領した。程なく現れた陳到に慰撫を任せて趙雲は長沙に引き揚げて呉軍の再来に備えた。
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