第56話 魯粛の遺言
※時が少し遡ります
*****
陸遜は魯粛から呼び出されて屋敷を訪ねていた。魯粛は一月前から体調を崩して自邸で静養している。陸遜が訪ねた時は具合が良かったので身体を起こしていた。
「陸遜、魏はどうだ?」
「目立った動きはありません。」
「ゴホッ、ゴホッ。」
陸遜は慌てて魯粛に近付いて背中をさすった。
「大丈夫ですか?」
「今のところはな。おそらく治らんだろう。」
「療養に努めれば治ります。」
魯粛の顔色が悪かったので陸遜は励ましたもののその語気は弱かった。
「自分の身体は自分が一番知っている。」
魯粛は達観したかのように笑みを浮かべていた。
「魯粛様・・・。」
「私の事は横に置いてくれ。北方はどういう状況だ?」
陸遜が気落ちしたのを見て魯粛は話題を変えた。
「徐州は魏の反撃もなく今のところは平穏です。」
「魏は劉備が動くと思っているから反撃には出れないからな。」
孫劉同盟には他勢力を攻める際には事前通告する一文が記載されているので互いにそれを守りながら動いている。魏は劉備と孫権が手を組んで揺さぶりを掛けていると分かっているので動きにくい状況下にあった。
「我が君に劉備から知らせが来まして、近々漢中に兵を向けるようです。」
「龐士元が知恵を出しているのだろう。劉備は伏龍と鳳雛を得て漢朝復活という大業に乗り出すぞ。」
水鏡先生こと司馬徽が劉備に言ったとされる『伏龍(諸葛亮)と鳳雛(龐統)、そのいずれか一方でも手に入れば天下は手の中に落ちたも同然と言えましょう。』という言葉を魯粛は思い出していた。
「ちなみに龐統は成都を離れて荊州に戻り軍備を整えているようです。」
「諸葛亮は軍務には向いていない。おそらく二人に匹敵する者が劉備の下に居るのだろう。」
「劉備が動けば涼州の馬超と韓遂も連動するのではありませんか?」
「君は良いところに目を付けている。おそらくだが曹操を漢中に引き込んで挟撃するだろう。下手をすれば曹操は生きて許昌に帰れないかもしれない。」
魯粛と陸遜は漢中での魏軍大敗を予測していた。夏候淵の仇討ちという小事に囚われている曹操に勝ち目は無かった。前世の夷陵における劉備と全く同じ状況である。
「曹操が命を落として魏内部が混乱すれば我々にとって好機ですね。」
「その通りだ。君は軍を鍛えてその時を待てば良い。」
「承知致しました。」
魯粛と陸遜は曹操直卒の魏軍が大敗すれば混乱に陥ると予測。それを利用して西進すれば青州を制圧出来ると考えていた。
「ゴホッ、ゴホッ。」
「魯粛様!」
「大丈夫だ。こんな事で狼狽えるようなら私の後は務まらんぞ。」
魯粛は陸遜を一喝した。陸遜は気配りが出来る人物である。また傲慢不遜なところもなく普段は温厚篤実な青年として見られている。それに付け込まれる可能性があるのを魯粛は危惧していた。
「申し訳ございません。」
「君に言っておきたい事がある。張昭と呂蒙の動きに気を付けろ。連中が動けば劉備との同盟は簡単に潰れてしまう。孫劉同盟を保ち魏を滅ぼしてから後の事を考えれば良い。その時優勢を保っている方が覇権を握る事になるだろう。それと何かあって手に負えないと思った時には闞沢と徐盛に頼れ。手助けしてくれる筈だ。」
「分かりました。」
陸遜は魯粛との話を終えて屋敷を後にした。魯粛には何とか回復して欲しいと陸遜は願っていたが、それが叶う事なく数日後魯粛は亡くなった。
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