第54話 漢中王
諸葛亮は全員の賛同が得られたので推挙状を作成した。その場に居た者は次々と署名して魏延も最後の方に署名した。話し合いを終える直前に西涼刺史の韓遂が上庸にやって来た。劉備への挨拶を兼ねて成都に向かっている途中、南鄭で張飛から劉協が保護された話を聞いたので予定を変更して上庸にやって来た。諸葛亮から劉備推挙の話を聞いた韓遂は二つ返事で推挙状に署名した。劉備が領有する四州の刺史以上の者が全員推挙状に署名したので劉備を説得する下準備は整えられた。
その一方で劉備は劉協に対して再び帝位に就く事を提案した。心身衰弱と玉璽が無い事を理由に断ろうとしたが劉備の熱意に負けて復位する事を了承した。しかし政・軍については劉備に任せるとして自身は君臨すれども統治せずという体制を望み、劉備もそれを了承していた。
*****
翌朝、政庁に劉備以下全員が集まった。話し合いが終わった後、諸葛亮が劉備を訪ねて今後の対応について協議を行いたいと申し入れをしていた。
「陛下には別室で休んで頂いているが当面はここから動かすのが難しい。私もしばらく上庸に留まり陛下の傍に付こうと思っている。」
「分かりました。成都についてはお任せ下さい。」
政務は諸葛亮、軍務は法正にそれぞれ任せていれば問題が無いので劉備は劉協の傍に付いて体調が整い次第、二人を成都に迎える事になった。
「それで今後の事を話し合いたいと聞いているが。」
「帝を保護した事で何の憂いも無く我々は全方位に軍を進める事が可能になりました。この状況に置いて我が君が益州牧の地位に留まる続ける事が良いのかという疑問を持つ者が多く居ります。」
「待て。お前たちは私が曹操や孫権のように王か公になれとでも言うのか?」
「その通りでございます。」
「帝を蔑ろにするなど馬鹿な事を考えるな!」
劉備は怒りのあまり手元にあった令箭を諸葛亮に投げつけた。幸いにも諸葛亮には当たらず大事には至らなかった。諸葛亮はそれに動じる事無く劉備から視線を逸らさなかった。
「劉備様、あっしらは劉備様が魏や呉を倒して漢を復興させるという大義に賛同しているよ。それにね劉備様には益州牧の地位に留まらずより高い地位に就いて欲しいと思っているんだよ。」
「それとこれとは話が違う。」
「いや違わないよ。劉封様は別にして交州の士燮殿や西涼の馬超殿は本来なら劉備様と同格の地位になるんだよ。二人は劉備様の大義に賛同しているからそんな事に拘っちゃいないけど、それに拘る奴が出て来ないとも限らないよ。というより今後はそういう連中との戦いに身を投じる事になるから手を打たなきゃ駄目なんだよ。」
劉備は州牧に留まる事で漢の臣という立場を崩していない。士燮と馬超は劉備の考えを理解しているので特に意見する事無く従っているが州牧如きに従えるかという強硬な考えを持つ勢力と一戦交えないとも限らない。権威で権威を抑え込む事が必要になってくると龐統は考えていた。
「漢朝復興の為に必要と言うのだな。」
「その通りです。劉備様が高位に就く事で功績ある者や能力ある者に新しい地位を与える事が可能になります。」
「それなら陛下に奏上してみよう。」
劉備は厳しい表情で諸葛亮から推挙状を受け取り献帝に対面した。献帝は推挙状を読むと皇叔(劉備)が州牧の地位に留まるのは宜しくないとして王位に就くよう命じられた。劉備は推挙状に書かれてあった漢中王を名乗る事になり、諸葛亮を通じて益・荊・交・西の四州に通告した。
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