第50話 諸葛亮と手を結ぶ

南鄭に主だった者が集まり今後の方針が話し合われる事になり益州から諸葛亮、荊州から劉封と龐統、西涼から馬超と韓遂、漢中駐屯軍からは法正、張飛、黄忠、魏延、関平が名を連ねた。


「最初に漢中制圧における報償を与える。」


漢中侵攻で功績のある者が一人づつ名前を呼ばれて劉備から目録を授与された。


張飛→南鄭太守

黄忠→武都太守(馬超が管理を辞退した為)

魏延→上庸太守

厳顔→梓潼太守

関平→江州太守

胡車児→成都太守、近衛軍大将

馬超→西涼牧、武威太守

韓遂→西涼刺史、金城太守

馬岱→天水太守

龐徳→安定太守


馬超は劉備と対面して西涼牧の印綬を一旦返納した上で改めて受け取り、西涼牧を正式に名乗る事になった。その席で武威から武都と安定までの五城の領有を打診されたが馬超は武都を任せる者が居ないと辞退した。劉備と法正は黄忠を武都に回して厳顔と関平を梓潼と江州に入れる事で解決した。


劉備は魏延の後釜として胡車児を近衛軍大将に抜擢した。胡車児は魏の降将という負い目があったが魏延の下で功績を重ねて益州軍には欠かせない人材になっていた。また、武勇に優れ張飛に似て豪放磊落な性格もあり劉備に気に入られていた。胡車児は魏延と共に上庸に行く気になっていたので辞退しようとしたが、劉備から頭を下げられた事で断れなくなり向寵を補佐役として受ける事になった。


*****


魏延は話し合いが終わると諸葛亮の部屋を訪ねた。


「魏延将軍、どうされましたか?」


「南鄭から襄陽に至る街道整備の為に人員及び物資の供出をお願いしたく。」


魏延は街道整備の詳細を記した書類を渡した。


「理由を承りましょう。」


諸葛亮は一通り目を通した。特に不明な点は無く諸葛亮の裁量でやり繰り出来る範囲だったが敢えて理由を訊ねた。


「魏と呉による荊州侵攻の際に素早く援軍を送る為です。また平時は荊州と漢中を結ぶ交易路として有効活用が可能になります。」


「魏と呉は荊州に来ますか?」


「正直に申し上げると分かりません。しかし両国の置かれた状況を考えると来る可能性が高いと考えております。」


諸葛亮も魏延と同じ考えだった。魏は先王曹操の仇討ちという大義名分があり、呉も孫堅の時から続く荊州との因縁がある。呉は魯粛が亡くなってから強硬派が息を吹き返して陸孫も抑えるのに苦労しているという噂が流れているので警戒を強める必要があった。


「分かりました。ここに記されている人員と物資については速やかに用意させましょう。」


「感謝致します。それでは失礼…。」


諸葛亮があっさりと供出を認めたので魏延は拍子抜けしたが礼を伝えて早々に退出しようとした。


「将軍、私からもお話があるのでもうしばらくお付き合い頂けますか。」


「承知致しました。」


魏延は諸葛亮に促されて椅子に座った。魏延は重要な局面を迎える前に揉め事を興したくないので諸葛亮から気に障る事を言われても聞き流しておこうと思っていた。


「将軍を初めて見た時に凶相があると申し上げました。その時は確かに見えたのですが後日将軍から襄陽攻撃の提案を受けた際には見えなくなっていました。」


「どういう事でしょうか?」


「将軍の劉備様に対する忠義の心が凶相を消したと思っています。」


「そのように思って頂けるのでしたら言う事はありません。」


「私の未熟さで将軍には多大な迷惑を掛けた事をお詫びする。劉備様の理想を成就する為に協力して頂きたい。」


諸葛亮は土下座して魏延に自身の不明を詫びた。


「諸葛亮殿、頭を上げて下さい。」


魏延は諸葛亮に近づいて助け起こした。あの諸葛亮が自分の非を認めて土下座をするとは思ってもみなかったので魏延は困惑した。心底から詫びているのか単なるふりなのか詮索したところで分かる筈もない。しかし土下座までされた以上、魏延も折れるしかなかった。


「某に出来る事があれば何でも言って下さい。」


「有難う、有難う。」


魏延は諸葛亮に手を差し出した。諸葛亮も手を差し出して二人は力強く握手を交わした。

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