六章 密室 3—2




 *


 蘭が目覚めたのは、朝十時だ。


 室内の照明が自動で点灯されたせいらしい。


(あーあ。寝ちゃってたよ)


 やはり、いくら徹夜なれした蘭でも、昨日は朝からハードすぎた。


 昨夜のうちに、どんな手を使っても大海を堕とすつもりだったのに、あっさり寝てしまうとは、ふがいない。


 最初はタヌキ寝入りだった。


 大海が蘭の髪をなでてきたあたりまでは。


 それが心地よくて、ついウッカリ、ほんとに寝てしまっていた。


(まあ、いいや。今夜には、モノにする。大海は、おれのものだ。絶対、逃がさない)


 もう一人はイヤなんだ。


 誰かに、そばにいてほしい。


 そのためなら、多少の犠牲は払ってもいい。


 大海が求めるなら、本意ではないが、寝てもいい。


 大海がストーカーになるなら、なればいい。


 一生、二人きりの世界で、ストーキングされるなら、それはもう愛と同義じゃないだろうか?


 少なくとも蘭が、それをゆるすなら。


 もちろん、一生、体で大海をつなぎとめておけるとは、蘭も思っていない。


 蘭だって年をとる。


 でも、そのころには、二人のあいだには、ほんとの友情が芽生えているかもしれない。


 第一、蘭の容姿が衰えたなら、世間から身をかくす必要はないわけだ。


 それなりにキレイなジイさんなら、今度こそ恋を見つけに外へ出ていけばいい。


 大海には財産の半分をわけあたえれば、きっと満足してくれる。


 完ぺきな計画のはずだった。


 もはやゲームの勝敗より、そっちのほうが大事。


(ほんとは、かーくんでも、よかったんだけど……かーくんには怖いお兄さんがついてるし)


 大海がいれば、いいよ。


 話もあうし、ちょっと変な趣味も好き。


 それにしても、僕のステキな獲物は、どこへ行ってしまったんだろう?


 ベッドは蘭。大海は床にフトンを敷いたのだが、そこに大海の姿はない。シャワーでも、あびているのだろうか?


 ゆっくりと、蘭は体を起こした。

 そして、見た。

 蘭の大切な獲物の、悲しい末路を……。

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