ルクソール・オンライン

ルク穴禁

第1話(ログアウトできない)

稲葉アールはニートだ。毎日、酒を飲みながらSNSゲームに入り浸る。暇すぎるから、ルクソール・オンラインという新作VRSNSゲームをインストールしてログインしてみた。前評判でクソゲーと名高いが、怖いもの見たさで課金購入する。


アールは、チュートリアルをテキトーにスキップした。取り敢えず、ログアウト方法は確認して。自分の意思で10秒間、両目を閉じるだけだ。そして、プレー開始だ。覚書に〝後戻りは出来ません〟と煽るような文言が出た。


近未来の廃墟が建ち並ぶディストピアなエリアに、アールは降り立つ。上部が崩れたビルディングから配管むき出しになっている。


ルクソール・オンラインはVRのソーシャルゲームだ。他のユーザーと交流して世界にプレー状況を発信しながら、様々なVRゲームが遊べる。バイタルを登録して基本的なステータス、アバターが決まる。さらに、課金すれば能力を上げる事もできる。ガシャもあり、武器やお助け道具等のツールが手に入る。ゲームによっては互換性のない物もある。1回3000円。11連ガシャなら3万円。初回11連なら2万円だ。アールは課金もガシャもしない。


〝一度でもダイになったら、プレーヤー自身のリアルの肉体も死にます〟


「は? それっぽい煽り文句だな」


アールの視界にページが開かれ、ダイになったら、死ぬと書かれていた。一旦、ログアウトしてみる…………してみる…………してみる…………。


「ログアウト出来ねえ! チュートリアルでログアウト方法を確認してる。何で?」


アールは、更に目を閉じる。VRゲームに閉じ込められてるから意味はない。アールは誰かに本当のログアウト方法を教えてもらうべく、エリアを移動する。ちょうど、エリアとエリアを繋ぐ通路に1人のプレーヤーが居た。


「おい、あんた。ログアウトするやり方知らない?」

「判らない。閉じ込められた。どうしよう、どうしよう」

「何をオロオロしてるんだよ。1つでもゲームをクリアしたら、ログアウト出来るかもしれないな。根拠はないが」

「死んだら終わりだよ」

「死なないゲームをすればいい。取り敢えず、人を探そう」

「それなら、32番フィールドへ行くといい」


フィールドは全部で1万。1つのフィールドに100個のエリアがあり、自由に行き来できる。アールが居るのは8番フィールドだ。


「32番フィールドに集まっているんだな? 行こう、あんた。ハンネは〝ライガー〟か」


アールが初めて会ったプレーヤー、ライガーはオープンスコアにした。これでステータスやプロフィールが見れる。


アールは歩き出すが、ライガーはその場から動こうとしない。


「おい、何をやってる? 急ごうぜ」

「僕はいい。君だけでも…………無事に出れるといいね」


アールはマップを見ながら1人でフィールドを変えるワープホールに行く。エリアの中央だ。何人か、プレーヤーとすれ違うが、皆固まっている。


アールは32番フィールドへワープする。視界が緑色の光に包まれて、階を移動した。そこは、プレーヤーでごった返していた。数十万人、数百万人は居る。クソゲーの割には盛っている。


1人のプレーヤーがアールに声をかけてきた。相当、課金してるのだろう。きらびやかで、チャイナドレスみたいなのを着た女性のアバターだ。アールは初期設定の地味な戦闘スーツ……財力が違う。


「君も閉じ込められた? 脱出方法は判るかな?」

「いや、判らない。それを調べるために32番フィールドへ来た」


女の子のハンネは〝バイオレット〟だ。アールはオープンスコアにする。


「君のハンネは、アールね。他のゲームの戦績が凄い」

「まあ、暇人だからね」


「おーい、バイオレット。フィールドをくまなく調査しに行くぞ」


他のプレーヤーは別の方法で脱出を試みるようだ。


「どうせ、ログアウト出来ないなら、テキトーに遊ぶよ。ね、アール君」

「ゲームをクリアしたら、ログアウト出来るかもな」

「なるほど。でも、死んだらマジでヤバいかもよ?」

「死なないゲームをすればいい。サッカーなんてどうかな」


32番フィールドに集まっていたプレーヤーは次第に散り散りに去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る