第50話 相反する双子

 俺達は近所のスーパーに来ていた。ここは、他と比べて結構な安さで売ってくれるありがたいスーパーだ。基本的に1人なため、俺は下手くそではあるが、料理は作る。この2人に幅完備されたくないため、難しい料理を避ける気でいるが、買ってきたもので済まそうとは思わなかった。


「……何が食べたい?」


 買い物中に喋ることがなかったので新鮮な感じだ。2人はしばらく悩んだ後同時に、


「ハンバーグ!」「カレーです!」


 おぉ……見事にあっていない。しかもぐちゃぐちゃとして聞き取りづらいし。カレーバーグとは何だろうか。瑠璃と茜の食卓では常識なメニューなのだろうか。

 見栄を張って聞いてみたが、俺の聴力と2人の同時に別の事を言う特技のおせいで、全く聞き取ることが出来なかった。……もう具材見て、安いやつから考えよ。その方が速そう。


「兄ちゃん!」


「……何?」


「お菓子買って」


 あ、私もと追従し損ねた茜。ここで俺の眼から離してもいいのだろうか、とは思ったものの、子供であればやはり、菓子などを見ている方が楽しいだろうと思った俺は、条件付きで承諾した。


「……2つまでな」


 キラーッと目を輝かせる瑠璃。心なしか碧眼の青さが増しているような気がする。


「私はいりません!」


 対して茜は、赤い目を爛々と輝かせて拒否を見せてきた。


「どうして?」


「お兄さんは私達を子ども扱いしていますっ!」


「いいじゃん。僕達まで11歳になったばかりだよ?」


「瑠璃!私達はもう5なのですからね!」


 ガミガミ言いあっている2人を他人として遠くから確認する。5年生か……。

 俺と美玖が付き合い始めたのが6年に近い5年生。今の2人の時期と比べて半年しか違わないとか……。俺は5年生の時の俺と目の前の2人を比べて思った。まだまだ子供だったと。


「あっ!これカワイイ~」


「ちゃんと話を……そうですね!可愛いです!」


 まだまだ子供である。

 この間に俺は気分的と価格的に、ハンバーグを作ろうと思い、合挽き肉をはじめとした具材をどんどん買い物かごに入れて行った。

 食費などは俺が自由に選択できるように多く決められている。経理系は意外にしっかりしている母親なのだ。

 しかし、俺が年頃の男子に比べると小食なので食費はどんどん浮いていく。その浮いた分は月々の小遣いとは別の金として俺の財布に飛び込んでくる。……金持ちだぜ。


「……あとは朝食の卵か」


 朝食とは言わず、重宝される卵。

 卵コーナーはあちらですとの看板を頼りに進んでいく。一番消費期限が長いものを選んでカゴに入れる。あとはレジが……と思っていると袖口をグイッと引っ張られた。


「……どうした?」


 犯人は茜だった。手には2つの菓子が握られていた。


「瑠璃の分ですっ!」


 ぷいっと顔をそむけてしまった茜の顔は俺から見えなかったが、照れているのはなんとなく伝わってきた。


「……茜は要らないのか?」


「と、当然ですっ!私はもう大人ですか!」


 俺より小さい身なりでよく言うよ。全く。

 茜は俺の持っていた買い物かごにお菓子を入れると俺のそばに寄ってきた。


「……どうした?」


「私は大人ですからお兄さんの手伝いをしますっ!」


 どうしても大人キャラがしたいらしい。だが、残念ながらのお菓子を入れたらレジだけだ。


「……瑠璃は?」


「まだ悩んでいます。……あ」


 自分で言ってしまった。恥ずかしいらしく、うつむいてもじもじしている。……どこか、美玖に通じているような気がしないでもない。


「茜を泣かせたらボクが許さないぞ」


 俺の背中にボフッと殴られる感覚。瑠璃だった。どうやら少し、俺が泣かせているのではないかと疑っているらしい。


「……選んだのか?」


「うんっ!……でもど~しても2つに絞れなくてさ…」


 3つの袋菓子か。……まぁ。いいか。2つも3つもそう変わらない。


「……さっさと入れろ。3つで良いから」


 やったぜ、とがつっつポーズをする瑠璃。どうやら本気で悩んでいたらしい。


「お兄さん……」


 茜が慈悲を求めるような顔でこちらを見てくる。あのお菓子は瑠璃のなんだろ?大人なんだろ?といろいろ言いたいことはあるが、まだまだ見栄を張りたい、小学5年生。ぐっとこらえて言ってやる。


「……今後、お菓子より良いもの買ってやるよ」


 こういう時の女子の反応スピードと理解速度はえげつない。


「本当ですか?」


「……あぁ(覚えていたら)」


「ボクには怪しく聞こえるなー」


 余計なことを言うんじゃないぞ。瑠璃!お前には菓子1つを余計に買ったんだからな!

 茜は嬉しそうに鼻歌を歌っている。余程嬉しかったのだろうか。いつの間にか上着の裾を握られているし。


「お兄さん」


「……何だ?」


「その……ありがとうございます」


「ボクからもありがと。兄ちゃん」


 ……何だこいつら。外に出たら急に大人しくなってありがとうとか、感謝の言葉を俺に使ってくるなんて。素直に2人の成長なのか、それとも策略なのか……。俺は分からなかった。だが、悪い気持ちはしなかった。

 会計を済ませ、スーパーを出る。


「結局、何を作るの?」


「……ハンバーグにしようかと」


「カレーじゃないんですか?」


「……カレーは明日な」


「ならいいです。」


「早く帰ろうよ。ボクお腹空いた」


「……なら、これ持って帰れ」


 俺はお菓子の身が入った袋を瑠璃に渡した。蒼い眼をさらに蒼くさせて家に帰っていった。……そんなにか。


「私は行きません。お兄さんと帰ります」


 俺の裾がそのあとぐしゃっと強く握られた。

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