第五章『夏休み、双子の悪魔編』

第49話 双子の悪魔

 唐突だが俺には双子の従姉妹がいる。年齢は俺より5歳下の11歳だ。毎年、夏休みになるとこの双子の悪魔は俺の家へ来る。滞在日数は一週間と少し短いものの、その時の俺は学校行事でひーひー言っていた時と同様、もしくはそれ以上の疲労が出る。

 俺が美玖たちと海で遊び。家へ帰った時にこの一件は始まった。その一件とは一つの留守番電話だった。内容は最初にいつも通りの謝罪があり、今はオーストラリアにいる、だとか久しぶりに血族でアメリカへ行って来るから双子ちゃんをよろしくね、だった。冗談ではない。…マジだ。

 ともあれ、インターホンが鳴るまでは俺1人の不可侵エリア。自由に好きなことをするとしよう。前々からためていたラノベやアニメを消化するもよし、ゲームで上位に入るまで詰めてもいい。

 結局ゲームをしようと思った俺は立ち上がり、自室のクローゼットに手を掛けた。

 今更だが、俺の家は二階建て一軒家で珍しいことにリビングが二階で俺の部屋や物置が一階にある。


「お兄さんこれですよね。どうぞ」


 不意に空中にでてきたゲーム機を満足げに受け取る。やった!これでゲームが出来…あれぇぇぇぇっ!


「……どうやってここに入った?」


「普通に玄関からです!」


「……俺には見えなかったな」


「お兄さんの目が節穴なだけじゃないですか?」


 このやろぉぉ!


「……ふー。もう一人は?」


「さぁ?わからないです」


 こいつがここに居るという事は、あいつも既に来ているはずだ。

 俺は家具が悲惨な状態になる前に探し出そうと、家の中を探しまくった。


「……いない」


 だが、結果は収穫ゼロ。


「お兄さん」


「……何だ?」


「トイレかお風呂です!」


「……トイレは見たぞ?」


 一階にも二階にもトイレはあるがどちらも鍵はされておらず、人はいなかった。


「ならお風呂です!」


 言われるままに風呂場を覗く。だが、人はいなかった。不思議なことはいつもはずしてあるはずの浴槽のふたが今日は外してなかった……。なるほどな。

 俺は蓋の上に腰を下ろすと、そのまま給湯ボタンを押した。勢いよく流れる水の音に、何かが塗れるようなぺしゃんという音が聞こえる。当たり前だ。ちなみにそーっとふたから腰を上げているから出てくるのは簡単なのだが、俺が最初に大きな音を立てて座ったのと水の音とで全く出てくる気配がなかった。


「……当たりだな」


「ふふんっ!当たり前です。私がお姉ちゃんですから」


「……一緒に出て来たから双子だろ?」


「数秒の差で私がお姉ちゃんです」


「……いや、数秒の差で妹だったはずだが…」


「あっつぅぅぅぅいっ!!」


 ガタンッ!ガシャンッ!ゴトッ!

 強烈な破壊音とともに叫びながら少女が飛び出してくる。服をびしょびしょに濡らしたその姿は3年前と同じだった。


「……はい。タオル」


 俺は頭にタオルをかぶせた。11歳とはこんなに活発なのかね。

 そんな俺の考えを彼女は見事に証明してくれた。


「見、見たな!」


 ずぶぬれになった彼女が叫び、俺のシンボルを思い切り蹴り上げた。見たなって言われてもお前が出て来たんだろーが!

 反論したいが動けない。男ならわかってくれるはず。声にならない呻き声が口からこぼれ出る。


「大丈夫ですか?」


「……大丈夫に見えるか?」


「いいえ!見えません!」


 俺は風呂場前で横になっている。急所とはやってくれる……。今まで急所にあたった如きで死にやがってと思っていた俺のポ〇モン達、すまなかった。


「茜!ボクと遊びにいこ!」


「分かりました!今行きます」


 おい、待てお前ら。


「……飯抜きが嫌ならリビングで正座して待ってろ」


 ぴたりと止まる2人。そしてとぼとぼと階段を上る音が聞こえてくる。……何とかなったな。

 黒髪ポニーテールの赤眼で“取り敢えず敬語”で全く敬ってはいない悪魔が俺の従姉妹で双子の妹である、松平茜。そしてもう一人、風呂場に隠れるなどの悪戯大好きな。茜と比べてもよく動き回る、同じく黒髪でツインテールの碧眼。“ボクっ子”の松平瑠璃るり。俺の従姉妹で双子の悪魔。その一片である。

 何とか立ち上がって歩ける程度には回復した身体を動かし、リビングへと向かう。まぁ大人しく星座などしているわけはないと思うが。

 俺がリビングへ入る。


「……あーあ。やっぱりな」


 目の前には俺の想像よりも酷い惨状があった。


「あ、やべっ」


 俺に気付いた瑠璃が茜を突っつき、ごそごそと正座をする。そしてずっと正座してましたよ、とでもいうようにしきりに足を触ってしびれてますアピールまで。

 俺はそれにツッコまなかった。ツッコんだら負けな気がしたからだ。


「……叔父さんと叔母さんは?」


「大人旅行って言ってた」


「私達は除け者です」


 やめい。俺が入っているみたいだろうが。俺は除け者ではなく、ただ両親と行動しないだけだ。


「……いつまでここに居るつもりだ?」


「兄ちゃんが帰れっているまで」


「……帰れ」


「瑠璃にそれは駄目です!本気で受け取ってしまうのですから……あーほら、もう涙目です」


「お前のせいっぽくないか?」


 しかも、瑠璃の顔は嘘泣きにしか見えないのだが?2人合作のストーリーでも考えているのか?


「ボク達はいちゃダメなの?」


「……はぁ。暴れるなよ?いいな」


 嫌々だが認めるしかない。本来、保護者責任があるはずの2人の両親は、同じく保護放棄をしている俺の両親と大人旅行(笑)だそうだからな。11歳ではまだ親が居ないと駄目だろう。


「……先が思いやられる」


 取り敢えず夕食としてスーパーで調達してこなければならない。……不安ではあるが連れて行くか。

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