第四章『夏休み、海編』
第39話 3徹、そして前日
7月31日。俺は全ての課題を終えることに成功した。受験生並の労力と時間をかけ、三徹程してこの成功にこぎつけた。
教科課題も、風紀委員の問題も、新山さんに対しての布石とこれからの事も全て終わらせた。
未だにあの鬱陶しい姉妹は来ていない。つまり自由というわけだ。
俺はベッドでゴロゴロしながら携帯を起動させる。理由は勿論、美玖とデートをするためだ。先生に言われたからではなく、そうしようと決めていたのだが、まぁこの際はどちらでもいいだろう。
『明日、遊びに行かないか?』
時刻は7時30分。返信が返ってくるかは微妙な時間である。
しかし、美玖は規則正しい生活を守っているらしく、すぐに返信が来た。
『明日はちょうど誘おうとしてた。4人で海へ行こう!』
4人というのは、俺、美玖、真鐘、莉櫻の事だろう。当初の予定とは少し違ったが、まぁ一緒に居られるのでいいか、と納得する。
『分かった。海パン探しとく』
『明日、7時30分に前の駅に集合ね』
『ラジャー』
俺達の済んでいる地域は交通のアクセスが良く、何処でも大抵行くことが出来る。
海水浴ができる場所で最初に思い浮かんだのは遊園地の隣の場所だった。……他にはないと思う。海水浴が出来るような場所は。
海水浴など何年振りだろう。家族で一回言った事しか記憶にないのでもしかして……友達と行くのは初めてかもしれない。
俺は惰眠をしたくなる衝動を抑えてベッドから出た。海パンなど家にあるかどうかさえ分からないのだ。もしかすると買いに行かなければならなくなる。
クローゼットの中を重点的に探していく。徹夜続きの朝というのは何ともいえない脱力感が襲ってくる。だが、俺には明日海へ行く、という目標がある。だるい身体に鞭を打ち、必死に海パンを探す。
「……ない」
正確に言えばひとつだけあった。中学生まで使っていたものだ。中学1年生と高校1年生はあまり大差がないと思うかもしれないが俺は違うのでこの海パンは使えない。
丁度、プールの授業が終わったころに、俺の身体は急成長を遂げたのだ。
そのため、莉櫻だけならまだしも、美玖や真鐘がいる、明日の海水浴にこの海パンを着ることは出来ない。
シンボルがより強調されては困るのだ。
俺は食パンを一枚、口に放り込むと財布を持って家を出た。
☆☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺が選んだ店は巨大スーパーマーケットだった。ここには食料品、衣服、雑貨など多種多様なものが売っている。
夏休みとはいえまだまだ午前中。客はちらほらと見える程度で混雑はしていない。
1にんでここにきてしまうと少し惨めな感じがしてしまう。周りは家族かカップル。俺が完璧な独身であったならば早々に諦めがついていたのかもしれないが、俺には彼女がいるのだ。一緒に並んで買い物をしたいと思うし、手だって繋いでいたい。
水族館、遊園地と高校生になってデートを重ねてきた。だが、そのどちらとも“恋人繋ぎ”というのものをできないままでいた。
いい加減俺も新たな1歩を踏み出したい。
俺はそんなことを考えながら水着売り場へと向かった。
そこには夏真っ盛りだという事を伝えてくるかのように多彩な水着がたくさん売られていた。
無難な奴がいいな。
俺の水着に対する第一印象だ。俺自身が着るものだし、性能が良ければそれでいい。……だから金色の水着は買わないから、俺の視界に入ってくるな。
しかし、無難すぎるとスクール水着の様になってしまう。美玖が着る水着が何なのかはわからないが、釣り合いはとれるようにしたい。
水着如きでここまで悩むのは何故かと言われそうだが、俺は生来、優柔不断なのだ。たっぷりと悩む。
と、ここで水着がここから少し入ったところにも売られていることに気付いた。……すっかり金色の水着に騙されるところだったぜ。
そこには、あまり華美ではないが地味すぎだという事もない俺好みの水着が売られていた。一番目に留まるところに売り出したいものを置く。売り手側の常識手口に今更になって気付いた。
俺は何着かを手に取り、物色する。これは感覚的にいいと思った物たちだ。そしてそこから理屈で取捨していく。
最終的に残ったのは黒色が基本で左右に赤色のライン、そして左腿にメーカーのロゴが付いたものと全く同じで赤色ではなく、青色のラインのものだった。
性能は同等。見た目も男子の陰キャラが着るのにはちょうどいい。あとは赤色が好きか、青色が好きかという問題のみ……。
俺はどちらかというと混合色の色の紫色が好きだ。だが、探してみて紫色は無かった。
面倒だからどちらも買ってしまおうか。
そんな邪念が脳裏をよぎるが、金の無駄遣いだと振り払う。
しかし、振り払ったはいいが代案が出て来ない。……さて、本当にどうしたものか。
俺はもう一度、二つを水着を見比べる。するとロゴイラストが微妙に違うことを発見した。いや、違うというよりミスと言った方が正しいかもしれない。
青色の水着の方のロゴが少し潰れてしまっているのだ。小さなミスだが、消費者は俺だ。俺が気になってしまったのだからしょうがない。
俺は青色の水着を戻し赤色のラインが入った水着を持ってレジへと向かった。
「いらっしゃいませ」
客数が少ない時間は店員の接客が親切になる。これは人間であるならば当たり前の事だ。
「2630円になります」
思ったより高い。まぁ資金には困っていないので大丈夫なのだが。
「ありがとうございました」
親切になるという事と、俺が話すという事は同義ではない。
俺はコミュ障になってしまっているので他人とはあまり関わりたくないのだ。
そして、俺は速攻で家へと帰り、寝た。
何せ明日は2人きりではないが美玖と海で遊ぶのだ。美玖の水着姿が見られるのだ。しっかりと焼きつけるために記憶の整理を図る。
誕生部プレゼントとして去年貰っていた机用扇風機はこの3日間、本当に役に立ってくれた。ありがとう。感謝を述べながら俺は明日を迎える。
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