第21話 ダブルカップリング2

 何とか入園を果たした俺達だったがここで俺は自分の作戦が全く通用しないことを悟った。


「……まぁこうなるわな」


 そう。男女分別である。彼氏、もしくは彼女と同性の友達であればどちらが気楽だと思う?そんな問答性の友達に決まっている。そして方や意中の人でありながらいまだに踏ん切りがついていない言わば赤の他人。

 冷静に考えてみると当たり前に想定できることであった。


「ん?何が?」


 俺の前方には美玖と真鐘。隣には莉櫻。同性愛カップルではないんです。前の可愛いのが俺の彼女なんです。……誰に弁明しているのだろうか。


「……予定が狂った」


「そっか。立て直しは出来そう?」


「……莉櫻次第」


 頑張りようで結果が変わる。頑張ってくれたまえ。


「鶴田ー、松平ー、これ乗るぞー!」


「麗律?下の名前で呼ぶんじゃなかったの?」


「ま……まだ無理。もう少し」


 美玖の声が途中から聞こえなくなったが何を話していたのだろうか。


「え……これに乗るのか」


 隣で莉櫻がぐへぇという声が似合いそうな顔で見上げていた。

 “初速から120km!爽快ジェットコースター”

 うげぇ…。何故最初がこれ?もっと他のアトラクションとかあったはずだろ!?

 俺は苦手ではない。無いのだが怖い。つまり、120km等という具体的な数字を出されてしまうと容易に想像できてしまうのだ。恐怖が。マジ怖い。最早、帰りたい。

 ……今思ったが入るときに聞いた絶叫はもしかして…。


「よしっ!行こう潤平!」


 覚悟を決めた莉櫻。これで「俺はパス」なんて絶対に言えねぇよな。美玖が隣ならやってもいいことにしよう。


「席どうしよっか」


 俺達が彼女たちに追いついて早々、美玖は頭を悩ませていた。横2人乗りらしいこのジェットコースターには当たり前だが4人で乗ることは出来ない。前と後ろに2人ずつ分かれることになる。俺は美玖と乗りたいし、真鐘も莉櫻と乗りたいはず。だが美玖はその提案をしなかった。

 ふと真鐘を見るとそわそわ、うじうじしていた。成程。真鐘の言いだし待ちか。


「……男2人。女2人で乗るか?」


 参戦してみよう。すると真鐘は更にそわそわしだした。


「いやっ!松平は美玖と乗れば?その……付き合ってるし!」


「真鐘、それなら俺と乗ることになるよ?」


「うるさいっ!鶴田は少し黙ってて」


 と、言いながら俺を睨むのは止めてください。それにしても莉櫻は災難であるな。止める気は無いけど。


「一瞬ビックリしたよ。けどわかってたんだ」


「……まぁな。あの挙動不審な行動見てたら分かる」


「けど鶴田君は分かっていないみたい」


 今も真鐘と言い合っている……もとい一方的に言われている莉櫻はいいやつではあるのだ。あるのだが行為に関しては疎すぎる。


「……今日で変えてやるけどな」


「再起部部長の手腕を拝見します!なんちゃって」


 何だこの破壊力抜群な敬礼はっ!……写真に収めたかった。こんなのテンションがMAXぐらいでないとやってくれないのだ…。ん?どうして今、MAXになってるんだ?


「次の方どうぞ。安全レバーを腰まで下げてくださいね」


 いつの間にか順番が回って来ていたようだ。美玖が先に入り、俺は後に乗り込む。ちらりと真鐘の方を見るとあちらも同じ乗り込み方のようだ。ついに来てしまったぞ。恐怖で手汗が大量に分泌される。


「潤平君、もしかして怖いの?」


「……ま、まさか。全然平気だし」


 嘘ではない。見栄っ張りというのだ。


「真鐘、平気なのか?」


「当たり前だろ。鶴田は怖いのか?」


「……ま、まさか。全然平気だし」


 俺はバツが悪くなったためそっぽを向いた。隣からくすくすと笑い声が……。くそう。莉櫻め。


「それではいってらっしゃ~い」


 ここで赤く転倒している信号に目が行く。そして入る前の題名を思い出す。……あ、これヤバイやつだ。

 ピーンと緑色に変わった瞬間に飛び出していくジェットコースター。


「ぎゃああああああ!!!」「キャアアア!!」


 一気に上昇する。この時普段人が絶対に出すことが出来ない速さで上昇しているためGが身体全体に重くかかる。……召された感じがする。


「やっほーい!!」


 今度は急降下。ちなみに先程の歓喜の声は真鐘だ。こいつはどうやら平気らしいな。何か腹立つ。


「潤平くーんっ!!」


 俺の名前を絶叫しないでいただきたい。恥ずかしいから。俺は恐怖で握りしめていた手を離した。

 何か返答した。何か答えてやりたい。が、世の中上手くいかないもので残念ながら最初の「ぎゃあ」で声帯を使ってしまっていた。

 美玖を見やる。言葉が出ないのならば態度で答えてやればいい。手に注目。開いている。

 2回目。2回目だから。今度は俺から。いけっ!


「ひゃっ!」


 美玖から奇声が上がる。しかし彼女の右手は嫌がること無く俺の左手を受け入れてくれる。


「美玖~!!」


 死ぬ気でやれば出来るものだ。4本の指がお互いを包み込む。握手ではないがそれに近いような繋ぎ方。

 ジェットコースターは三重の旋回へと入った。


「莉櫻~!!」


 美玖と同じように真鐘が叫んだ。莉櫻はここからだとよく見えないがどうなのだろうか。何気に本人を目の前に下の名前を呼んだ真鐘。相当な勇気が必要だったはず。もうここは無意識でも何でもいいから応えてくれ。


「麗律ーっ!!」


 俺の願いのおかげかはわからないが、ともかくは前進した、と言えるだろう。


「怖……ぎゃぁぁぁぁぁああっ!!」


 三重の旋回は上向きだったようで再び急降下に見舞われる。

 その時、左手にギュッと感触があった。美玖が握ったのだと思う。


「……なんだ。怖いんじゃん」


 このスピードの内では聞こえないだろう。つまりは俺の独り言だ。

 俺の方からも軽く握り返す。するとまた彼女は握り返してくる。

 そしてジェットコースター最後の急上昇と急降下。


「きゃぁぁぁぁああっ!!」「ぎゃぁぁぁあっ!!」


 俺も美玖も両手を上げていた。手は離さずに。

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