教会と神聖魔法と

――スキル<体術>を習得しました。

――スキル<格闘>を習得しました。

――スキル<短剣>のレベルが一定値に達しました。アーツ【クリティカルアタック】を習得しました。


 夕暮まで、ひたすらウサギを倒したり薬草を採取した結果、スキルとアーツを習得した。


 【クリティカルアタック】はそのまま、弱点部位に攻撃すればダメージが増加するスキル。他の部位に当てると、確率でクリティカル扱いになることがあるみたい。

 ちょっと玄人向けくさい。そもそも弱点部位を知ってる必要があるし。

 それだけに決まるとダメージがでかいね。

 

 他の面子もそれそれスキルレベル上げを行っていた。

 ボクはとりあえず<デバッグ>はそこそこに、体を動かす意味も込めて短剣を使って近接戦闘。

 モミジはひたすら石を投げつつ、定期的にウサギと虫をバリバリ喰らう。

 シオンは<傀儡術>をかけつつ、教えてもらった<魔力操作>と<水魔法>の訓練。

 ウヅキは走り回りながら弓を放ってた。


 パーティープレイもクソもないバラバラな動きだけれど、まあ、草原フィールドの奴らくらいなら、一人でどうにかなるレベルにまでなってきたので問題はない。ちょこちょこ初期服じゃない人たちが周りに出始め、雰囲気はなんとなく次の街に向いているかなって雰囲気。


 皆寝ないのかな?


 そんな中、ボクたちは教会に来ていた。

 街の広場に面していて、すぐに場所がわかる。

 中は真っ白な石造りで、入り口から入るとホールになっていて、女神像の前で何人かが祈っている。ステンドグラスからの明かりがちょっと神秘的だ。


「<神聖魔法>の習得ですか?」

 

 シスターさんがボクの方に気づき、声をかけてきた。

 ゆったりとした服はとても禁欲的で、ボディラインはわからないけれど、すさまじい美人さんなのは間違いない。優しい微笑みを絶やさない、癒やしで作られてますって感じの人だ。

 

「はい。えっと、この子とこいつは近接戦闘をするんですが、習得できますか?」

「習得は出来ますが、神聖魔法は、その場に留まりながら集中する必要があります。戦いながらですと、効力は弱くなると思います。また、魔法は鉄と相性が悪く、それも効力を弱める要因となります。それでもよろしければ、旅人様方へは、お布施を頂く形で<神聖魔法>を習得するための祈り間へとお通ししています」


 ウヅキとモミジを見る。二人が頷くので、ボクたちはそれぞれ1000Gお布施する。

 あまり意味はなくても、とりあえず覚えておくだけで何かの折に役に立つだろう。


 先導してくれるシスターさんについていく。

 広場を横目に、廊下を通り、祈りの間へ。

 全体的に緑と青で装飾された、これまたきれいな部屋だ。

 魔法の明かりがふよふよと部屋を照らしていて、壁には一体の石像がある。

 リンゴみたいな果物とネズミを両手に持つおじいちゃんだ。


「<神聖魔法>は名前に『神』とつきます通り、神威を振りまく魔法です。この方は生命神さま。<神聖魔法>は魔法技術の中で、基本魔術の次に古いと言われております。魂へと呼びかけ、肉体を復旧させます。極める事ができましたら、死者を現世に留めることすら、またできるでしょう」

「すさまじい力ですね」

「ふふふ、とはいえその力を持つ者は一握り。日々修行し、教会にて傷ついた人々を癒やしながら鍛錬を積み、祈り、信仰深くその人生を賭した者のみが至る極地でもあります。<神聖魔法>は誰にでも門を開いておりますが、その道はひどく険しい……。私などでは、まだまだその頂すら見えません」


 どこかうっとりと、シスターさんは生命神の像を腕を組んで見上げる。

 それだけで絵になる。


「ボクは他の魔法も使う予定ですが、そこまで到れるでしょうか?」

「出来るとも言えますし、出来ないとも言えるでしょう。人にできる信仰の量には限りがありますれば、その信仰が魔法神と生命神に別れ、それだけ道は長く、遠くなるのは道理でしょう。それぞれのスキルには担当する神がおり、それを極めるほど、担当する神への信仰は高まり、スキルの威力も強力になります。言えることは、鍛錬たゆまぬこと、それしかありません」


 つまり浮気すんなよってことか……。まあ、1つの道を極めたほうが強いのは間違いない。


「さあ、思い思いに祈ってください。人を癒やす力、邪を払う力をイメージし、生命神様へとお伺いをたてるとよいでしょう」


 シスターさんに手を引かれて、部屋の中で。


 なんというか、圧があるというのか。

 信心深い人が体験すると、神様がそこにいると感じるかもしれない。

 いや、この世界だと、住人さんたちは実際に神様を常に感じているんだろう。


 ボクは目をつむり、仲間を癒やすイメージを思い浮かべる。

 この中だと、ボクが神聖魔法を極める役回りになるだろう。


 ――隣からビュンビュン素振りする音みたいなものが聞こえてくるが気にしない。


 しばらくそうやってボクたちは過ごし、いい加減モミジが空腹で死にそうになってから外に出た。

 教会は飲食禁止なのだ。

 モミジいわく、「手応えはあった」とのこと。


 なんのだ。神様にダメージ与えてたってことか?


 シスターも別に止めなかったし、そういう祈り方も許容されているってことか。

 教会、かなり自由だな!


 辺りはもう真っ暗だ。宿屋に急ぐとしよう。



 訓練場・クエスト・教会を行き来する生活をしながら、ゲーム内で一週間が経過した。

 その間、特筆することは何もない。

 本当に、なにもない。

 思ったことは、新しいスキルを覚えるというのは、とても大変だってことだ。

 これなら敵を倒しながら強い敵に挑むことを繰り返し、先にさっさと進んでいった方がシンプルに強くなれるだろう。

 

 ゲーム内で一週間も足踏みする人はそうそう居ないと言える。


 ただ、ボクたちは別に急いでいないし、今はこの面子でのプレイスタイルを決めるために試行錯誤している段階だ。

 住人の皆さんとの会話も楽しいし、結構仲良くなってきていると思う。

 良いことだ。


 けれども、街の住人は少しずつ物価が上がっていくことを予測して不安がっている。

 ポーションの在庫が切れ気味なのだ。

 想定以上のプレイヤーが押し寄せつつ、薬草の供給が間に合わないらしい。次の街への道が大型モンスターで防がれているとか。


 なんとかしたいけれど……。

 今のボクたちにはどうすることもできないだろう。

 リアルではそろそろ3日目、がっつり遊んでいる人が次の街を開放するから気にするな、とライズさんとドッさんは言ってた。

 なのでボクたちは日課をこなそうと思う。


 で、ボクの今のスキルがこう。


〜〜〜〜

スキル:

<植物知識><採取 Lv10><捜査 Lv5><並列思考 Lv13><思考加速 Lv7><体術 Lv5>

<デバッグ Lv12><考察 Lv4><魔力操作 Lv15>

【デバッグ】

<短剣 Lv15>

【ダブルアタック】【クリティカルブロウ】

<格闘 Lv10>

【ステップ】【強撃】

<火魔法 Lv15>

【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】

<神聖魔法 Lv10>

【ヒール】【キュア】

<生活魔法>

【着火】【クリーン】【ウォータ】【スモールライト】

称号:

「探求者」

 └住人たちの好感度が上昇:小

〜〜〜〜

 <考察>

 演算の試行回数が少なくなる。スキル全体の経験値や、詠唱の速度などに影響する。

〜〜〜〜

 <魔力操作>

 魔法を使用する際に、そこに込める魔力量を操作する技術。これにより、効率よく魔法を行使することができるようになる。

〜〜〜〜

 <火魔法>

 火を使った魔法体系を形作るルーンにより、様々な現象を引き起こす。ルーンを組み合わせることで、様々な魔法を作り出すことがえきるが、基本の形から崩した魔法は、膨大な魔力を消費する傾向がある。

〜〜〜〜

【ファイヤーボール】

 火の玉を打ち出す。火、玉、飛、のルーンが組み合わされた基本魔法。

〜〜〜〜

【ファイヤーウォール】

 火で構成された壁を作り出す。触れた者にダメージを与え、確率で[やけど]状態異常を付与する。飛翔物を防ぐ力は弱い。火、指定、壁のルーンが組み合わさった基本魔法。

〜〜〜〜

 <神聖魔法>

 生命神が司る、魂を元に体を復元することに特化した魔法体系。体力の回復から状態異常、四肢生成、はては死者の蘇生にまでその効果は及ぶ。

〜〜〜〜

【ヒール】

 対象者の体力を回復する。部位欠損などの状態異常は回復できない。

〜〜〜〜

【キュア】

 対象者の状態異常を回復する。部位欠損など、肉体的異常から来る状態異常は回復できない。

〜〜〜〜


 <神聖魔法>と<火魔法>を覚えました。

 今は<光魔法>を覚えようと頑張っているところだ。

 ルーンは中々面白くて、魔法を打つ時にルーンを入れ替えたりできる。例えば【火】だけ使えばただ火がぼぼっと出るだけだ。

 まだまだ組み合わせるにはルーンが足りないので、今後増えたルーンによってできることが増えるだろう。夢が広がる。


 ルーンにはデメリットもあって、例えば【ファイヤーボール】を使えば【ファイヤーボール】という魔法事態がクールダウンに入る。

 けれども、【火・玉・位置】って感じで、【ファイヤーボール】と【ファイヤーウォール】両方に使用するルーンを使ってオリジナルで魔法を作ると、ルーンそれぞれがクールダウンに入り、【ファイヤーボール】と【ファイヤーウォール】の両方が使用不可になる。

 今後増えていくルーン1つ1つを管理して、上手く組み立てていく必要があり、そう考えるとかなり奥が深いギミックだなってボクは思う。


 <神聖魔法>は支援系。

 仲間を回復させるための魔法が詰まっているようだ。

 おそらく攻撃系の魔法は覚えないと思う。


 <考察>は思考系スキルだ。あって損はない、縁の下の力持ちって感じ。ほぼ全てのスキルに補正が働くとボクは考えている。

 <魔力操作>は魔力節約にも貢献している。

 こう考えると、ボクのスキルはひたすら魔法に特化していると言える。

 このまま魔法を極める道に進むべきだと今は考えている。


 なので<格闘>や<短剣>といった基本的な近接戦闘スキルを覚えはしたが、魔法を覚えた時点で路線を切り替え、今は杖を握ってる。

 杖と短剣では、明らかに杖の方が魔力が高い。

 アイテムの情報にはない、隠されている要素があるんだと思う。魔法伝導率とか、そういう。

 といっても、<杖>スキルとかは魔法とは関係ない、完全に近接スキルのようなので、後方から魔法を使ってる分には習得できないだろう。

 いまのところは、するつもりもない。


 ちなみに、<夜目>がないのは基本的に夜は神殿と宿屋でしか活動していないからだ。

 今後は必要になると思うので、もう少し準備が整ったら夜のフィールドに繰り出そうと思ってる。


 そして皆も相当パワーアップした。

 特にウヅキとモミジはじっとしてられない性格なので、なんと教会で<神聖魔法>ではなく<生命魔法>を習得していた。


〜〜〜〜

<生命魔法>

 戦闘で生きる者たちが編み出した近接戦闘用の原初魔法系統。戦い抜くためだけに編み出された魔法であるため、ただただ効率だけが求められており、このスキルで得られる魔法は1つのみ。

使用可能魔法:【リジェネ】

〜〜〜〜

【リジェネ】

 魔力を消費しながら常に体力を回復し続ける。体を「元に戻す」力を強制的に発動させ続けるため、魔力量によっては部位損失も回復する。

〜〜〜〜


 頭が悪いスキルだとボクは思う。

 習得条件は多分、祈りの間で模擬戦をすることだ。

 シスターさんとかは呆れ顔で「困った子たちですね」なんて母性を発揮するし、ここの住人と神様は基本的におおらかなんだなって思う。

 怒ってたらわざわざこんなスキル渡さない。

 もっとやれってことだ。


 このスキルの習得方法については、あまりにも教会に迷惑をかけるので秘密にしておこうと思う。

 はたから見たら自分自身に回復魔法をかけているように見えるから大丈夫だろう。多分。

 うん。

 ダイジョウブダイジョウブ。


 ウヅキは弓を面白い使い方で扱うようになったし、モミジはもう完全に野生児化していて、今日も元気にウサギを食ってた。

 シオンは魔法関係スキルと思考型スキルが整い<傀儡術>が本領を発揮し始めている。


 下準備は着々と進んでいると言えよう。


 今ボクとウヅキは夕暮の中を教会へと歩いている。

 ウヅキとモミジは買い出しに行かせた。毎回教会で武器振り回されても困る。

 神聖魔法を覚えても、ボクたちは教会へお布施とお祈りを続けてる。

 一応、世界神にも祈ってる。なにを、って聞かれても困るけれど。家内安全的なことを、とりあえず。


 理由としては効果がありそうだからってだけ。

 住人とは仲良くなっていた方が良いとも思うし、魔法覚えたから「はいさようならー」だと、悲しいなってボクとかは思うからだ。


「ふふふ〜」


 シオンお姉ちゃんはボクに手を引かれて、しちゃいけない顔をしている。

 美人はいくら顔が崩れてもびじ……いや、この顔はだめだな。

 とはいえ、手を離したら離したで軽く絶望した顔をする。

 秒速で機嫌が良くなっている。今にも空に浮き始めるんじゃないかって感じだ。

 手をつなぐだけで、なぜそこまで……。


「いやあウヅキには悪いですね。えへへ。ふふふ」

「絶対悪いと思っていないよね」

「思ってますよ? 神様へ真剣にお祈りする場所でじっとしていられない子が悪いんです」


 キリっとした顔で言うが、絶対に手を解こうとしない。

 本心ダダ漏れである。


「ねぇねぇ、ちょっとそこの子たち」

「はい?」


 振り向くと、ちょっと笑顔に下心が見える兄ちゃんがいた。

 こう、なんかチャラい感じ。

 後ろに女の子たちを引き連れているあたり、あれだ、ハーレムってやつ。

 ボクもハーレム度では負けてないね。


 愛と筋肉に押しつぶされそうだけど。


「僕たちこれから外に出てキャンプしつつレベリングしようと思うんだけれど、どう? 見たところ装備なしのままだし、夜は戦闘しづらいでしょ? 朝まで時間潰すとか大変だろうし、僕<夜目>持ってるからサポートできるしさ。バーベキューとかしながら楽しくさ」


 夜はスキルの上がりが違うんだ、とキラッとウィンクまでしてくれちゃう。

 提案自体はまともだ。

 ただ、話しているのはボクなのに、あからさまにシオンの胸に目が行っているのはいただけないな。

 ライズさんとかは、きちんと誰に話しているのか、どこに興味があるのか、その姿勢に誠意を感じるのに。


 引き連れている女性たちが完全に目がハートなので、ハーレム員補充って感じなのだろうか。と、冷静に考えてる。

 

 同時に、シオンの機嫌が音速で下がっていくのが手から伝わってくる。


 はわわ、どうしよう。


「えーっとボクたち用事があるんですよ」

「それが終わってからでいいからさ。ベアの肉とかめちゃ美味いんだって。ゲームだから冒険しなきゃだめだって!」

「いやあ、でもですね」

「このゲーム最初がとてもむずかしいからさ、サポートしあうのも大切なんだって! フレンド増やしておくのも大事だよ」


 その後も、どうにか断ろうとするが、諦めてくれない。

 彼の周りの女の子も楽しいからおいでよ、なんて言ってくる。

 

 うーん、だんだん面倒になってきた。下手に拒絶すると、何するかわからないし。この兄ちゃん、微妙にプライドが高いと見た。こちらが嫌がっているのを理解できない感じ。

 

 人も集まってきた。


「はぁ。えーっと君はどう? ずっと黙ってるけれど。楽しいよ?」


 ついにしびれを切らして本命にロックオン!

 やめろ、それは最悪手だ。

 

 止める間もなく彼の手がシオンに伸びて――、パァンと強い音と共に弾かれた。


「触るな」


「――」


 シオンは変わらず笑顔のまま、けれども口調は有無を言わさないものになっている。

 その声はひどく冷たく、氷のように辺りに溶け込む。

 しんっと静まり返り、呼吸の音すら聞こえそうなほどだ。


「その目で私を見るな。汚れる。外でもどこでも勝手に行くといいわ」


 彼女の声だけが辺に響く。

 シオンの声はよく通り、有無を言わせない。


「――ちょ、何よ! こっちは初心者に優しくしようって声かけただけでしょ!? そこまで言うことないじゃない!」

「少しかわいいからってお高く止まっているんじゃないの!?」


 女の子たちがシオンに突っかかってくる。

 ひとしきりそれらを聞いた上で、シオンはまた、よく通る声で。


「貴方達の『お遊び』に巻き込まないでちょうだいって言っているの。ギャアギャア煩いのよ。……耳が潰れるわ」

「「「――っ!!」」」


 トドメとばかりに笑顔で首を傾げて、「消えてちょうだい」の一言。


 女の子たちは完全に引っ込みがつかなくなる。

 シオンの笑みが静かに深くなる。

 おう、修羅場。

 どうしてこうなった。

 

 いや、こうなるのがわかるから彼女は基本黙っているのだが。


 ボク以外の皆は基本的に「やられたらやり返し潰す」っていう考えで行動してる。


 ボクが何を言ってもダメなので、これはもうどうしようもない。

 ボクは彼女たちを制御しているわけじゃない。誘導しているにすぎない。

 そこに外から刺激が与えられると、こんな感じで簡単に暴走する。


「言いすぎじゃないかな? シオンちゃん」

「そんな、この程度で言い過ぎなわけないでしょう? ……それとも、ルイはあの子たちの味方かしら?」


 試しに嗜めてみたらこれだ。

 絶対零度の瞳がボクを貫き、握った手に爪が立てられる。


 うーんめっちゃ怖いね。チビリそうだ。


「うーん、そっか」

「そうよ」


 ごめんよお兄さんたち。ボクはどうすることも出来ないんだ。

 なるようになれだ。


 わーい。


 一応、シオンを庇うと、彼女は彼女なりに我慢した。

 ボクとお兄ちゃんのやり取りを黙って見ていたし、不機嫌になっても口出しをしなかった。

 そこで、直接手を出されたから、スイッチが入った。

 入ってしまった。


 ボクの仲間たちはオンか、オフしかない。

 つまり、ヤるか、ヤらないかだ。


 それは愛情表現も同じで、彼らが好きだと思うものは、側においておかないと気がすまない。そこに相手の性別とか、姿とか、性格とかは意味をなさない。

 嫌いなものは目の前に存在することすら許せず、好きなものは腹の中に入れてしまいたいほど愛する。


 ある意味で、ボクは彼女らの飼い主であり、玩具でもある。

 それに不満を感じたりしないあたり、ボクもまあ、相当アレだというのは自覚している。


 ボクはどうだって? 一応ボリュームはあるつもりだよ。

 はっはっは。


 まあつまり、彼らはシオンの「嫌い」に入ったという、それだけの話なのである。


 まあ、うん。


 どんまい!


「――私たちはベータからやってるのよ! もう我慢できな」

「あいや待てい!!!」

「ひぃ!?」


 女の子の一人が我慢できなくなり、今にも爆発する瞬間、凄まじく大きな声が全てをかっさらった。


 ざわざわする野次馬たち、声の出処を探す。

 一人が「あっ!」と空を指差す。


 皆がそこを見ると、建物の屋根の上、ボクたちを見下ろすように、そいつは仁王立ちする。


 布袋を被った筋肉変態がそこにいた。



 もうボク、おうち帰りたいな。

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