友達とギルド

「結構合流で手間取ったわね」

「ん」

「こんなに人がいるものなのだな」


 ボクの前に立つ三人は周りを見て少し呆れたような顔をしている。ボクと同じで、ちょっと疲れたようにも見える。


「おおー、皆そんな顔なんだね」


 そんな彼らを、ボクはまじまじと観察する。

 すらっとして、見た目は落ち着いたお姉さんという感じのシオン。おっぱい的にもおねえさんだ。こう、ほわほわっとした感じの人だ。

 きゅっとした腰近くまで流れる髪は真っ白。銀髪というより白髪だ。

 話には聞いてたけれど、きれいな色だとボクは思う。

 髪はさらさらとしていて、常に目を細めて微笑んでいるのがとても特徴的な美人さんだ。


 ちょっと低めな身長の、小動物的な印象を受ける女の子のウヅキ。今のボクと同じくらいの身長だ。

 髪型はセミロングの黒髪がさらさらしていて、少し眠そうな目がこれまた特徴的。ぼーっとしているように見えて、無表情だ。

 スラッとしたボディラインが健康的で、目を惹くこれまた美少女。

 ボクもちょっと無表情気味、というか今のところ筋肉の動かし方がまだよくわかっていないから、二人そろうと双子か姉妹か兄弟に見えるかもしれない。


 最後が、いわゆる細マッチョといった感じのイケメンのモミジ。

 ツンツンした短髪に、好戦的というか野性的な目が特に印象的だ。身長もでかい。

 髪を赤とかに染めたらおらおらヤンキーって感じで良いんじゃないかな。

 見た目通り脳筋だ。

 人の話は聞くので、よくしつけがされた犬みたいな奴だ。

 一方で気に入らない人は徹底的にしつこく追い回すので狂犬みたいな奴。

 いつの間にかいなくなってて、いつの間にかシレっといる。そういう得体の知れなさがある。

 正直ボクも彼のことはよく理解しきれていないので、脳筋として扱っている。

 けれどまあ、彼なりに色々考えながら生きているんだろうなあって思う。多分、めいびー、きっと。


「ルイもね」


 皆がボクをまじまじと見る。

 うん、言いたいことはわかる。

 ボクも自分でも思うよ。どこからどう見ても、どこにでもいるガキンチョって感じだね。

 それがまあ、なんとも嬉しく思ったりする。

 どこにでもいる・・・・・・・。今のボクには最高の褒め言葉さ。


 ちなみに皆、ほぼ同い年だ。


 ボクたちはずっと……ではないけれど、まあ結構な時間をともに過ごしてきた。

 ゲームしたり、話をしたり、映画見たり。

 趣味はバラバラだけれど、それらをできるだけ一緒に楽しんできた。

 誰が言わずとも、なんとなく集まって、離れて、また集まって。そうやって続けてきた。

 

 そして、多分これが最後の集まりになるだろうって、皆なんとなく思ってる。


 まあ、それで、そうやって続けてきても、ボクたちは互いがどんな顔をしているのか、どんな姿をしているのかっていうのは知らないで今まできた。

 理由は、まあ、それぞれって感じ。

 とくに必要なことでもない。


 皆がいま、ここにいるってことが大事だ。


「けどまあ、なんか想像通りだったよ」

「ふん、確かにな」

「ん」


 皆がお互いに見ながらうんうん頷いていると、シオンがゆらっとボクに近づいて、突然ボクを抱き上げてしまった。


「ふぎゅ」

「ええーこんなに可愛くなるなんて想像していなかったわー」


 おー、でぃすいず、ふかふか。

 

 どうしましょーとか、あのルイがー、なんて、嬉しそうにくるくる回るもんだから、ビコビコとハラスメント警告のウインドウが出てくる。

 わお。

 慌てて拒否を選択しておく。

 合流して速攻でハラスメント警告によってシオン隔離とか、なんの冗談だ。

 いや、ギャグとしてはちょっとおもしろいかなって一瞬思ったんだけれど。

 流石にやらない。ガチ泣きしそうだし。


「ボクもシオンがそんなに美人だと思わなかったよ」

「ええー、いやあーそう?」

「うん、とってもかわいいね」


 なんとか顔を出してそう言うと、シオンの顔はもうだるんだるんだ。

 おう、やめーや。

 女の子がしていい顔じゃないぞ。

 よだれ垂らさないでね!?


 と、ギュッとウヅキも抱きついてくる。

 温かい体温が背中に伝わってくる。


「……暖かい」


 誰が言ったのか、僕達はその温度を味わうように感じ入った。

 他人の温度を感じることができる。とても良いことだと思う。


 うん。


「ほう?」


 あ、モミジが手をワキワキしてる。解散、かいさーん。


「どうれ」


 ああ!! やめて!!

 筋肉が迫ってくる!!


 ああ!? シオン!? ウヅキ!?


 おのれ、ボクを囮に!!


 

 あ、


 やだ……ああー……――。



「さて、じゃあこれからやることを決めよう」


 ボクを前にして正座した三人が、はてな、って感じで首をかしげる。

 可愛い奴らめ。


 あれからひとしきり(不本意なものもあったけれど)、イチャイチャしたボクたちは、広場からまだ出ていない。

 とりあえずおっぱいは柔らかく良いもので、雄っぱいは微妙に柔らかくて不快だという知見を得たことが成果かな。

 はあ、ちくしょう。

 

 ――ん、ごほん。

 

 とりあえず、互いにフレンド登録とパーティー結成をした今、じゃあ何しようかということになってる。


 ナビちゃんさんは言っていた。何をしても良いと。

 だからなんでもしようってボクは思うんだ。


「やりたいこととか、こう、何か作りたいとか、とりあえず敵を倒してみたいとか、そういう」


 ボクはさあさあ、と皆に促す。

 気分は先生だ。生徒たちのしたいことを導く先導者のそれだ。


 3人は「んー」と互いに見合わせて、口を開く。


「「「ルイにまかせる」」」


 ――と。


 ……はい知ってたー。知ってましたよ―だ。

 この3人は、それぞれ放っておくと、勝手に行動してどうしようもない状態になるタイプの人たちだ。

 パーティープレイは無理。混ぜたら危険。

 けれどなぜかボクの話は聞く。というかボクの言う事しか聞かない。

 それについては何も言うまい。

 共依存とかそういう、なんか怪しい響きのあれってことでもう諦めている。

 けれどボクは、こう、もう一歩。自主性とかいうのを彼らに求めたいわけだ。


 だめだろうか、だめなのだろうか。

 

 ちなみに、見た目お姉さん属性のシオンでさえ、協調性ゼロだと言っておく。

 ある意味このひとが一番危険なので目が離せない。多分今後そういう面が出てくると思う。わりとすぐに。


 心を強く持つんだルイ。

 ナビちゃんさんにも頑張るって言ったじゃないか。

 ここでくじけたらダメだろう?


「ほ、ほら、モミジはこう、強い敵と戦いたいとかさ」

「おお!! それはそうだ」


 うんうん。

 脳筋は扱いやすいね。

 よしよしとりあえず外に突っ走ってなんかこうドラゴンでも探そうぜ!?

 少年ゴコロを無くしちゃいけないよ。


「しかしだな、ルイもシオンも戦闘にそこまで積極的ではないだろう? それに、まだ俺も含めて体が慣れていないわけだし」


 そう言いながらモミジは腕を回す。

 同意するようにウヅキがうんうんと頷く。


 やだー! こういう時だけ周りのこと気にかけてくれちゃって、理性的に判断するなよー。

 何にも考えずに突っ走ればいいじゃんーもーくそーそういうところが大好きー。

 ボクは良い子ちゃんなウヅキとモミジの頭をなでてやる。

 気持ちよさそうに目を細める美少女と筋肉。


 筋肉の嬉しそうな顔は素直に気持ち悪いのでさっさとやめる。

 物足りなさそうにするな、汚れる。


「物足りなさそうにするな、汚れる」


 思わず声に出してしまった。ショックを受ける筋肉。

 ふふ、ウケる。


「じゃあ生産ってやつは? 料理とか服とか」


 残ったシオンを向く。彼女は彼女で、んんーって思案顔。


「興味はあるけど、今すぐにやらなくて良いと思うの。それに、生産って同じこと繰り返してスキルをレベルアップさせるんでしょう? 私はそういうの好きだけど、モミジとウヅキは苦手じゃない? どうせやるなら皆でできることを最初はやりたいなって」


 後でもできるし、冒険しながらお料理とか楽しそうね、バーベキューってやつよ! と、こちらもまた手を合わせてにこって笑ってくれちゃう。

 うう、良い子。皆良い子。

 はなまるあげちゃう。なでなで。


 俺も、私も、なんて頭を出してくる犬どもを撫でぐりつつ、ボクは天を仰いだ。


 助けてー!! ナビちゃんさーん!!!



「……ギルドに行って簡単なクエストを受注するとか、まずは街を歩いてみるのはいかがでしょう」


 呆れた雰囲気を滲み出しつつナビちゃんさんはアドバイスをくれた。心なしか発光がよわよわしい。

 相変わらず、とか、さっきの今でもう、とかブチブチ愚痴ってるのが聞こえてくる。


「なるほど!! さあお前たちどうする!?」


 ボクはそんなナビちゃんさんを無視する形で皆に聞いた。

 ごめんねナビちゃんさん。ボク自身はその案をもちろん考えていたんだけれど、できれば彼らに自主的に提案してほしかったんだ。

 ボクが言うと「じゃあそれで」ってなっちゃうわけで。

 だから、あくまでボク以外の意見が必要なんだ。


 少なくとも今回、ボクは最初の一歩を彼らに選んでスタートしてほしいと思ってる。

 これはボクのわがままだ。

 この世界の最初の一歩を、彼らの意思で踏み出してほしい。

 彼らにはどうでもいいことかもしれないけれど、大好きな人達だから、一緒に歩んだという事実がほしい。


「ギルドとはなんだ?」

「ギルドとは、様々な職業の人々が集う仕事の斡旋所となっています。この街は、大きいといっても比較的小規模ですので、総合ギルドのみがあり、大きな街になると錬金術や魔法、商業ギルドといった用途にわかれて存在します。ギルドには各所から仕事が集まり、特に冒険者ギルドには他の専門ギルドには振り分けられない、総合的な能力が求められる仕事が集まります」

「総合的な能力とは?」

「例えば、『薬草の納品』だけなら薬師ギルドや錬金術ギルドだけでもできますが、『特定地域の特定の薬草』といった少し特殊な条件だと、薬学の知識、戦闘能力が問われますので、冒険者ギルドの領分になります」

「なるほど」


 ふむふむ、とモミジは真面目に頷く。

 見た目筋肉だが、モミジの頭は悪くない。意図的に頭を使わないだけで。

 例えば、彼は数学が好きじゃないし、やらないが、必要になれば覚えるし計算できる。

 ゲームだと魔法は面倒くさいし運用や組み合わせを検証するのが億劫だと言うだろう。魔法メインのゲームだったら、初期魔法のファイヤーボールしか使わないようなやつだ。魔法メインなのに!

 というか、この世界でだって絶対そうだ。


 けれど今モミジは、全員が把握しておかないといけない情報だと判断して、真面目に聞いてる。

 ウヅキやシオンも、特にモミジがしている質問以外に疑問が無いので、黙って聞きながら、きちんと理解している。

 もちろんボクもそうだ。


「なぜギルドを勧める?」

「皆が困っているからです」


 ふむ?

 皆で首をかしげる。


「例えば今、沢山の人がこの街に一気に集まりましたね?」

「そうだな。すさまじい人だな。店が儲かってしょうがないだろう。良いことじゃないのか?」

「もちろん、皆喜んでいます。一方で、入荷が間に合わず、品切れが続いたり、物品が値上がる可能性もあるのです。そうなると、その商品をどこかから仕入れる必要があるわけです」

「なるほど。確かに、確かに」

「おそらく今、最も需要が高いのがポーション類でしょう。例えばHPポーションはとても有用かつ、容易に作成できますが、その素材が尽きるのも時間の問題です。畑などで薬草を栽培して備えていても、どうしても数が足りなくなることは目にみえているでしょう」

「つまり、そこで野生に生えているものを探して持っていく、という仕事が必要になるわけだな?」

「その通りです」

「困っているのだな」

「おそらくは。ちなみに、薬草採取の報酬はお小遣い程度でしょう。ボランティアレベル、といったところではないかと」


 ふむふむ、とモミジは数度頷き、こちらを見る。

 

 うん、良いんじゃないだろうか?


「俺はそのギルドに行くのが良いと思うが、皆はどうだ?」


 モミジが確認してくるのを、ボクは笑顔で頷いた。


 モミジくんに100点!!



 というわけでやってきました総合ギルド。

 結構広くて、色々な人がいる。

 入り口付近には結構な人がいたが、中は結構スッキリしている。


 ナビちゃんさんによると、インスタントエリアっていうらしい。パーティー単位で個別空間になるそうだ。

 並ばなくて済んだりして、とても良いと思う。

 ここらへんはゲームだね。

 けど、住人からするときちんとこちらを認識しているので、ちゃんと弁えてねって釘をさされた。

 もちろんお利口さんにしますとも。


 ここまで来るのは地味に大変だった。

 まず全員の視界にマップを出させるので一苦労。

 なんでオプション画面を出すのにナビちゃんさんの助けを必要とするのか。

 あとは道中色んな所に興味を示して、犬どもがふらふらし始めるので、最終的には手を繋ぐ必要まであった。

 ちびっこに先導されて恥ずかしくないのだろうか、この人達は。

 まあ、恥ずかしくないのだろうね。


 ボク? ボクはめちゃくちゃ恥ずかしかったよ!!


 「あらあらまあまあ」とか「背伸びしちゃって」みたいな視線がもう耐えられないね!

 

 あーギルドの空気おいしいー!!!


 ……さて、さっそくクエストっていうのを見てみよう。

 ホールに張り出された掲示板に、様々な紙で概要が書かれてる。

 視線を向けると、ウィンドウがもりもりっと出て、詳細が確認できる。

 ざっと全部を確認して、とりあえずは薬草採取のクエストの紙を取ってみる。

 

 これをカウンターに持っていけばいいんだろうか。


 基本は薬草10枚で、多い分には追加報酬。恒久依頼っていうもので、繰り返し受けられる。

 報酬は薬草の数x20G、これがナビちゃんさんの言っていた「お小遣いレベル」って奴だろう。

 ふむふむ、たしかに。

 相場はよくわかんないけれど、多分まあ、普通に売るのよりちょっといい、って程度なんだと思う。


「おい、そのクエスト、受けるのか? お前らが?」


 声をかけられたっぽいので振り返ると、顔にビシっと傷が入っていて片目が潰れている、ザ・冒険者!って感じの人がいた。

 素直に頷くと、彼はふうん、とボクを観察する。

 それだけ受けるのか? と、さらに聞いてくるので、これまた頷く。


「薬草、見分けられるか?」

「あ……いや、見分けられないですね」


 適当に敵を倒したり、歩いてたら拾えるものだと思っていたけれど、もしかして、きちんと探さないといけないのだろうか。


「だろうよ」


 彼はボクを無視して掲示板から何枚か紙を取り、何度か頷いてボクに渡してきた。

 モンスターの討伐や素材依頼だ。


「薬草の依頼は報酬が安い。それだけでおまんま食えねえ」


 わかるか? と聞かれて、これまた素直に頷く。

 僕たちはここの人たちが困ってるからと、ここに来たけれど、仕事をしに来たのもまた確かだ。

 きちんと自分たちが食べる分を稼いでいく必要がある。


「で、これだが、街から出てすぐの草原にいるモンスターの討伐や、そいつらから出る素材の依頼だ。こっちから手出さない限り襲ってこねえが、悪さをする」


 ガキでもできる仕事だ。簡単だろ? と彼は言う。


 依頼はラビットとワームだ。ウサギと虫だね。

 多分、「モンスター」ってわざわざ言うからにはでかいんだと思う。

 きっと、言うほど簡単なわけもない。

 簡単だったらわざわざギルドに依頼なんてしなくてもいいわけだしね。

 

 襲ってこないのに悪さをするのはどういう意味かというと、畑の薬草を食べるそうだ。

 話を聞けばなるほど、今の状況だとクリティカルに深刻な問題だと思う。


「草原の雑草はそいつらの餌にするために、手入れをせずに放置されている。で、これが薬草だ。――お前らも一枚ずつ持っとけ」


 ほいほいと葉っぱを渡される。濃い緑で広い葉で縁がぎざぎざだ。ヨモギ? これヨモギ?


「ヨモギだな」


 モシャモシャとモミジが薬草を食う。

 自由人め。

 さっきまでの良い子ちゃんはどうした。今日はもう閉店か?


「……もうやらんぞ?」


 冒険者改め、意外と親切な兄ちゃんは呆れを通り越して若干怒ってる。

 親切なうちに残りの話も聞いておこう。

 ボクたちが持ってるから大丈夫、ありがとうおにいさん! と必死になだめて続きを促す。

 聞けば、草原の草は浅い緑で、濃い緑の薬草は簡単に見つかるそうだ。なるほどね。


「森には絶対に入るな。というか、お前らでは森の薬草は見つけられねえ。森の薬草は群生するが、餌が多いからウルフがいる。足場も悪いし視界も悪い。おまけに戦いづらい」


 その後も少しだけ話が続く。

 一個ずつクエストを受けて往復してたら割に合わないので、まとめて受ける。

 向かうエリアに合わせて依頼を受ける。

 遠くに行くときは道中のクエストも受けて一緒にクリアする。

 日をまたぐような場合は、テントその他、必要な物を揃える。

 草原より向こうに行こうとする場合は、その場所の情報を出来る限り調べる。

 食べられるもの、食べられない物の知識を深める。


 どれもこれも、とても為になる話だった。

 経験に基づいた話ってやつだ。

 先輩が苦労したことを、後輩にさせないための、徹底的に削ぎ落とされた含蓄だ。


「最後に、絶対に無理をするな。今のランクから背伸びすんじゃねえ。絶対にだ。そして知識は力だ。無知は罪だ……無くすのは一瞬だぞ」


 俺みたいになるんじゃねえぞ、とお兄さんは自分の顔を指して笑った。

 うーん、いい人だね。

 そして全面的に同意するよ。

 ボクも、いや、ボクたちもそうだからね。

 無くしたものは絶対に戻ってこないんだ。ボクたちはそれを知っている。

 後悔したって無駄だし、する権利さえも与えてもらえないんだ。

 それが無くすってこと。

 

 うん。

 

 わかるよ。


「ありがとうございます。絶対に無理をしないと誓います」


 ……ボクはね。

 モミジとウヅキはダメだね。

 神妙に頷いているけれど、こいつらバトルジャンキーだからね。ランクってやつを2つくらい超えるんじゃないかな。

 はは。絶対に巻き込まれないぞっ!


「おう。わかったらさっさとカウンターいけ。あのネーチャンのとこだ」


 シッシとあっちいけされたので、素直にカウンターへ。


「ふふふ、ようこそ冒険者ギルドへ」


 お姉さんはボクたちのやりとりを見ていたんだろう。楽しげに笑ってる。


「あれ、総合ギルドじゃないんですか?」

「正確にはそうなんだけれど、この街に来てギルドに顔を出す人は、冒険者か、冒険できるほど腕の良い人だけなの」


 もしくは奇特な暇人ね、とウインク。

 なるほどなるほど。


「彼、ちょっと怖いけれど、やさしいでしょう?」

「はい、とても勉強になりました。皆にあれやってるんですか?」

「皆ではないかな。聞き分けが良さそうな人とか、ちょっと危なっかしい人に、ああやってちょっかいかけるの。けど、あれだけ親切なのも珍しいわ。きっと薬草採取だけを選ぼうとしたあなたたちに、ちょっと嬉しくなったのよ」

「嬉しい?」

「んー、……まあいっか。あなた、いたずらに言いふらなさそうだし」


 どうだろう? 意外といい性格してるなって自分では思うんだけれど。


「彼ね、人が多くなる時期になると、薬草採取とか、この辺りのモンスターを倒すためだけにこの街に来てくれるの」


 本当は強くてこの辺の街じゃ完全に過剰戦力なのよ、とちょっと自慢げに彼女は言った。


「――やさしいの、彼」


 とか、ちょっと頬を染めちゃったりする。

 おやおや、乙女ですね。

 きっと幼馴染とか小さい頃は一緒に冒険者になるとか、そういう話があって今がある、みたいな奴ですよ。

 嫌いじゃないよ、ボク。

 ひよっこにあんな親切なお兄さん、絶対ライバル多いよ。

 さっさとアタックした方がいいよ、と心の中でだけエールを送るだけに留める。

 

 ボクも大人ですので。


「さて、依頼の前に、ギルドへの登録がまだですね? すぐ済みますので、登録をしてしまいましょう」

 

 口調を事務的なものにしたお姉さんに手続きをしてもらう。

 サクッと登録。

 カードに血を垂らすだけ。


「ギルドカードには、これまでに倒したモンスターの数や、不正防止の魔術、個人情報などが記録されています。身分証明証の変わりになると思ってください」


 つらつらと、よどみなくお姉さんが説明してくれる。

 基本的には常識の範囲内で行動すれば良い。

 ギルド内での暴力行為や、目に余る行為をしたら権利剥奪。

 今後一切のギルドに準ずるサービスが受けられなくなる。


 このギルドカードが結構すごくて、これ一枚あれば色々な場所へ入れる。

 市場機能、銀行、討伐モンスター記録などなど、ギルドが管理する正規のサービスはギルドカードがあってこそ。

 おいたしちゃうと、物を買うことすら一苦労で、街の結界にすら入れない……。

 すさまじいカードだ。大事にしよう。

 ねえ、聞いてた? モミジ。


 あとは頑張ってクエストをクリアしていくと、ランクが上がって色々な特典や割引が受けられたりする。至れり尽くせりだ。


 さて、ギルドカードも貰ってクエストも受けたし、外に出よう!!

 ……なんだかここまで凄い時間がかかった気がするね?

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