はじめの一歩

 真っ黒な空間の中、ボクは浮いているように存在していた。

 視界は1点に固定されていて、動かすことはできない。


「それではキャラクター作成を行います」


 何もない空間に、白い光が浮き上がる。今回、ボクが遊ぶことになった――というよりも、移住することになった"世界"のサポートAI、「ナビちゃん」さんだ。


「よろしくおねがいします」

「はい、まず――といいましても、あなたにはこれだけしか設定することはできません。名前の設定をしてください。これからあなた、いいえ、あなたたち・・が"住む"ことになる世界での、あなたの名前です。出来るだけ愛着の持てる、名乗っても恥ずかしくない名前を設定することをオススメいたします」

「ルイでお願いします」

「かしこまりました」


 特に案があるわけでもないので、本名をそのまま使うことにする。

 別に本名を知られても、困ることは何もないし。

 身バレ、というのもまあ、今更な話である。ボクたちの境遇はすぐに知れることになるだろう。


 そもそもこれは、このゲームの運営さんや、ボクたちがお世話になっている病院からの依頼である。よしなにしてくれるだろう。


「このゲームでは、他のゲームで良くあるような肉体の強さを示すような数値はありません。変わりに、数多の『スキル』によって、あなたの能力が決定されます」


 ボクの体が作られていく。

 頭、首、胴体、手――そのどれもが、ボクの記憶にある一番最近のそれのもので、無くしたと思っていたものたち。

 なんとなく腕を撫でてみて、その感触を確かめてみる。

 指先から伝わる、1つ1つの微細な電気信号が、細かな管を通って、ボクの脳へと伝える。それがたとえ、電子的な、ゲーム的な数字の羅列でできたものだとしても。確かに、ボク。

 とても懐かしい、忘れていたつもりだった感触だ。


 そんなボクを置いて、ナビちゃんさんが説明を始める。


「例えば、<格闘>スキルを所持したプレイヤーは、手足による攻撃にダメージの補正や、体の動きにアシストが働きます。今まで格闘技をしたことがなかった人でも、達人のような動きができるようになるでしょう。このアシストは設定でオフにすることも可能です」


 さらに、<料理>を持つプレイヤーなどは、あとどれくらい肉を焼けば丁度いい塩梅なのか。どのスパイスを混ぜれば美味しいカレーができるのか。

 そういった、今まで知識がなくてできなかったことでも、脳内に響く助言のような形で教えてくれるらしい。


 ボクの前に、様々な人の形をしたシルエットが現れる。ある人はハンマーで鉄を叩いて数十秒で剣を作り上げる。

 またある人は映画でみたお侍さんみたいに、腰の刀を一瞬で振り抜いて、また鞘にしまう。

 ミシンも無いのに、立ったま服を縫い上げる人もいる。

 バク転をしながら弓を放つ人も――。


 そのどれもが、素人目にもわかるくらいに、洗練されていて、すごいものだとわかる。


「スキルはゲーム内の行動によって獲得していきます。剣を持ち、振るっていれば<剣術>を。薬草を混ぜて水に溶け込ませていけば<調合>を。様々なものを見て、触って、分解して、調べていれば<鑑定>を。スキルとは、その人が今まで行ってきたゲーム内での道程を表すのです」


 ボクの理解が追いついているのか確かめるために、ナビさんが一旦、言葉を区切る。

 しばらくして、説明が再開された。


「しかし、それぞれの道はとても険しく、長いものとなるでしょう。ゲーム内に存在するすべてのスキルを獲得することは、理論上、可能です。しかし、そのすべてを完璧にマスターするには、人の人生はとても短い、と覚えておいてください。さらに、そのプレイスタイルによって、あなたの体は変化していきます」


 鍛冶をしていた人が作業をやめてその筋肉を見せつける。

 魔法を撃とうとした人が、殴られてゴロゴロ転がる。

 ナイフを振るっていた人が、大きなハンマーを身軽に躱す。

 鎧を着た人が、魔法を放とうとしてとても小さな火が出る。


「たとえ見た目に変化はなくても、その内側、データ上の肉体は変化を続けることを忘れないでください」


 どういう行動をするかによって、その体がどう最適化されるのか。

 それを言葉ではなく、実際に見せてくれているんだと理解した。

 魔法を使っていたら動きが鈍くなって攻撃が避けにくくなったり、素早い人は攻撃を避けやすく、鎧をつけると、多分魔法が弱くなるのかな?


 ナビちゃんさんの言葉は続く。

 流れるように、ボクの耳に入ってくる。


「最後に。これから、あなたたちに住んでもらう世界には、様々な住人が暮らしています。善き人も、悪しき人も。そして同時に、沢山の旅人――プレイヤーたちも訪れます。その全てが、生きております。人格を持ち、人生を持ち、生き、死んでゆきます。どうか、それを忘れないでください。それさえ忘れなければ、あなたは自由です」

「……自由」


 自由、しばらく、ボクには無縁だった言葉だ。


「そう、自由です。人を助けるのも、助けないのも。生かすのも、殺すのも。このゲームでは――いいえ、この世界、その中の1つである"胎動大陸郡スカイリア"が、あなたに求めるものは何もありません。勇者がいるでしょう、魔王がいるでしょう、国があり、魔物がいて、龍がいて、神がいて、地獄があって、天国があり、宇宙があって――その向こうには『無』があるでしょう。それと同じくらいに、村があり、農民がいて、奴隷がいて、木々があって、虫がいて土があって、その中に目に見えない生物たちがいるでしょう」


 空間に色が広がり、宇宙を飛び回り、爆発が起きて、太陽を通りすぎ、とても長くて大きな蛇みたいな生き物と目が合って、2つの月を眺めながら、1つの星へと降りていく。


 それはとても不思議な星だった。まるい惑星だけれど、海が無い。海の代わりに、ぽっかりと空間が広がっている。

 沢山の大陸があって、その間を羽根のついた船が飛び交っている。


「ようこそ、スカイリアへ。自由な世界へ。あなたはここではただの人・・・・。冒険をするのも、商売をするのも、畑を耕してもいいのです。もしかしたら魔王になってしまうプレイヤーも、神様になってしまうプレイヤーだっているかもしれません! ……もしも道に迷ったら、わたくし、ナビへとお気軽にご相談ください。精一杯、あなたの人生・・をお手伝いすると約束します」


 あ、でも攻略のヒントは出しませんよ。そう、ナビちゃんさんはいたずらっぽく言った。

 ボクは思わず吹き出しそうになって、口角がぴくっとだけ動いた。

 うん、まだうまく動かないね・・・・・


「ただし、自由であっても、責任は伴うことを忘れないでください。もしも犯罪を犯したら、それを追う人がやってきます。勇者になれば、魔王を倒す責任が。冒険者になれば、未踏の地へと調査指令が渡されることになるでしょう。それらを無視すれば、その権利や立場は簡単に剥奪されることになるでしょう。どうか忘れないでください。これから行く世界の人々が『生きている』ということを。あなたが世界の中心ではなく、世界が中心であることを。それさえ忘れなければ、私はあなたたちをきっと、精一杯サポートできると思います」


 それは切実な、願いみたいなものだとボクは感じた。大切なものを愛でるような、そんな雰囲気みたいなものを。


「それでは、ようこそ。私達・・の世界へ。私達が頑張って、皆さんに楽しんでもらえるように作った異世界へ!! 出来るだけ"全て"を詰め込みました! 理を、物を、願いを! ようこそ!! ようこそ!!」


 祝福のようにナビちゃんさんは「ようこそ」を繰り返す。

 それには、万感の思いが込められていた。

 ボクは今度こそ、心に従うままに、できるだけ笑って見えるよう、口角を上げた。


「ありがとう、精一杯――」


 そう、精一杯だ。


「――生きてみたいと思います」

「はい! あなたに祝福を! 幸福を!! もしくは小さな幸せを! それと同じくらいの困難と試練を!! 悪意と善意を!! 波乱と静寂を!!!」


 ようこそ。ようこそ――。



 意識が浮上すると、ガヤガヤと沢山の人が集まる、街の広場らしき場所にいた。

 今も沢山の人が現れてくる。

 あたりにはレンガ造りの建物で囲まれていて、それぞれが店だったり、何らかの施設であったりするのがわかる。

 よくある、ファンタジー世界というか、中世的な町並みだと感じる。

 ここはVRオンラインゲーム、「スカイリア」の中だ。

 ここにいる人達は、リアルの世界中からアクセスしてきているんだろう。

 ヘッドギア型の機械を頭につけて、脳からの信号をやりとりし、夢を見るみたいに、この異世界へとやってきているはずだ。


 ボクはなんとか広場から抜け出して、広場の隅に設置されているベンチ群の1つへと、ふらふら近づく。

 あまりにも沢山の人がいてちょっと酔ってしまった。


「隣、失礼します」

「お? ああ、どうぞどうぞ」


 先に座っている人がいるけれど、十分空きがあるからと、隣に座らせてもらう。

 その人はウィンドウを開いて何かを確認していた。多分アイテムとか設定とかそういうものを見ているのだろう。

 ボクもそれに習うことにする。

 念じるようにすると、目前にウィンドウが広がる。

 ここらへんは、普通のVRデバイスと同じ感じみたいだ。


 うん、脳波操作はできるね。良かった。

 ボクは人生の大半、デバイス操作を脳波で行ってきた。

 別に難しいことじゃない。目で見て、これをあーしてーこうしてー、とデバイスに心の中でお願いする感じだ。

 指での操作の方が直感的だというけれど、ボクは手がなかったので・・・・・・・・、脳波操作がとっても得意だ。

 今はちゃんと手足があるけれど、多分もう脳波より早くなることはない。


 インベントリを表示、いくつかある初期装備を入れ替えたりしてみる。

 オプションを確認して、外部アプリでメールを皆に送信。

 ヘルプも簡単に目を通す。気になる所があれば、あとで詳しく読もう。

 一回ログアウト確認画面を出して、問題ないことに満足する。

 最後にそれらウィンドウを全部いっぺんに出してみたり、同時に操作してみたりして、UIの操作性を確認する。


 良くないUIだと、同時に操作できなかったり、操作できる数に上限があったり、ウインドウを広げられなかったりで、こう、ちょっともやもやしたりするのだ。


「うん、大丈夫かな」


 ボクの視界にには様々な表示が出ていた。

 マップ、自分のHPとかMPとかのバー、周りの人の名前、などなど。一気にゲームっぽくなったね?

 一通り表示を好みな大きさにしたりして、一段落。うん、満足。


「おお、凄いな」

「はい?」


 見ると、隣の人がポカンとした顔をして、ボクを見ていた。

 改めて見ると、その人は、ちょっとずんぐりした強面って感じ。多分ドワーフってやつだ。

 ボクたち・・・・は人族しか選べなかったけれど、他のプレイヤーはいろんな種族とか、魔族とかになれる。

 ちょっとうらやましいけれど、これからここでずっと暮らすとなると、やっぱり人族がいいよね、とも思う。


 まあ、人族に強制されたわけだけれど。

 なんでも、あんまり人から離れすぎた姿でいすぎると、精神に異常をきたすリスクが高すぎるとか。

 だから普通の・・・プレイヤーは、色々なリミッターがついているみたい。


 彼の手元のウィンドウからは「ぉーぃ」って小さな声が漏れている。

 友達との通話中かな?

 彼は手早く「ちょっと、またかけなおすわ」とウィンドウを閉じてボクに向き直る。


「それ、脳波操作か? こうビャビャーって感じでウィンドウが広がって、すごかったぜ。同時に操作してるのか? お嬢ちゃん・・・・・

「はい。脳波操作ですよ。慣れると便利ですよ。多分、ゲームうまい人は皆やってるんじゃないですか? ボクはゲームあんまりやりませんけれど。あと、ボクは一応男です」


 ボクが今まで見てきた、デバイス操作が上手な人は皆、脳波操作だった。

 考えつつも、自分の体を見て、胸とか股間を触ってみる。

 うん、ちゃんと無いし、ついているね。

 だとすると、ボクの顔と身長だろう。ボクの顔は、いわゆる中性的ってやつだ。別に美人とかかっこいいとかってわけではない。普通の顔だ。

 多分、記録に残っている「ボク」が、ちょっと髪が伸びてて声変わりもしていないから勘違いしちゃったんだろう。

 おかげで今のボクはとてもちんまい。

 身長の低さもあって、勘違いしてしまったのだろう。


「お、おう。そうか。えーっと、ごめんな?」


 彼はなんとも言えない顔して、最終的に謝った。

 多分どう答えていいか迷ったんだんだろう。

 うん、まあ、別に謝ってほしくて訂正したわけじゃないから、気にしていない。

 別に男か女かとか、特に気にしないから大丈夫ですよ、とボクがいうと、彼はもっと変な顔をした。

 解せぬな。フォローしたつもりなんだけど。

 まあ、この話は置いておこう。


「武器を変えるときとか、脳波操作だと手を使う必要がなくて便利じゃないですか?」

「まー、たしかに便利かもしれんが。ショートカットとか音声操作とか色々あるだろう? 実際やるやつは、あんまりいないと思うぜ」

「なるほど」


 ボクはさっと、横目にヘルプ画面を出して、ショートカットと音声操作の項目を確認する。

 ショートカットはポーションとか武器とか魔法とか、そんなものの使用や行使を登録しておくことで、即実行できる便利操作だ。簡易的な脳波操作っという感じだろうか。

 ウインドウを開いて、アイテムを選んで、使用を選択する、という工程をすっ飛ばして使用できる。

 確かに便利。


 音声操作はこれまた魔法とか装備セットとかをキーワードで設定しておいて、それを言葉にすることで使用できる。

 こっちも便利だけれど、声に出す必要があるし、沢山登録しすぎちゃうと忘れちゃいそうだ。


「――ですが、ショートカットは項目に限りがありますし、アイテムと魔法と、えーっと、アーツと装備なんかは、登録してたらすぐ溢れちゃいません? 音声操作も沢山ありすぎて忘れちゃったり、咄嗟の時に口を動かせなかったりしませんか?」


 こう、戦っている最中にわざわざ「なんとかなんとかのかまえ!」とか言っている間にお陀仏しちゃいそうだ。

 咄嗟に技名とかが出てこないのは、ゲームには不慣れということで許しておくれ。

 ちなみにアーツっていうのは、武器を使った武技みたいなものの、ゲーム内用語だ。

 魔法みたいに、普通の攻撃とは違う、特殊な効果がのった攻撃をできるらしい。


「言いたいことはわかる。だが、それも多分心配無用だ。例えば杖を構えたら、目の前に本人だけが見えるサークルが広がって、どの魔法を使うのか選択できたり、剣の振り方によって【スマッシュ】だったり、ジャストタイミングで決まった動作によって攻撃を弾ければ【パリィ】が発動したりするんだ。――まだ俺も試してないし、スキルも初期のしか持ってないからなんとも言えないが、事前情報だとそんな感じだ」

「おおー」


 もちろん、それらの動作がうまくいかない時は音声操作やショートカットを使えば体が勝手に動いてくれるらしい。

 ある程度なら良い感じで体が自動補正され、きちんと技を決めてくれるらしい。

 「便利だろお?」と言う彼に、ボクは素直に頷いた。確かにそれはとても便利だ。


 そして彼はとっても親切で物知りだとも思った。

 ひとしきり魔法だったりアーツだったり、生産の事だったりをわかりやすく、広く、浅くって感じで教えてくれる。

 気になる単語が出るたびにヘルプを開いた確認して、それもまた教えてもらう。

 打てば響くっていうやつかな、彼はさらっと答えてくれる。

 やあ、右も左もわからないから、大変助かる。


「ありがとうございます。色々と」

「いやいや、俺も良いものを見れたからな! お返しってやつだ」

「お返しですか」


 おおともよ! と、彼はガハハって感じで笑った。

 等価交換って奴らしい。珍しい情報や物があったら、それと同じだけのお金とか、物とか、情報を差し出す必要がある。

 今回は、ボクのウィンドウ操作がすごかったから、お返しにゲームの事前情報ってやつで「ボクの知りたそうな事」を彼なりに教えてくれたらしい。

 やっぱり優しいよね。


 ピロンとウィンドウが開く。

 フレンド申請だ。


「せっかく同じベンチに座った中だ。またなんか面白い物とか情報があったら交換しようぜ。俺の名前は『ドッ』、誇り高いドワーフの二文字持ちだ!!! ドワーフらしく武器とか防具を作るつもりだから、良い素材を持ってきたら作ってやるぜ!」

「あ、はい。よろしくおねがいします。ルイって言います」


 承認を押す。

 彼、まあ、ずっと名前が出ていて知ってはいたけれど、ドッさんは生産職を頑張るらしい。

 ボクも生産には興味があるので、先輩ってことになりそうだ。


 ボクの友達は、しばらくすればボクを探して動くだろうから、合流できるだろうし、このままドッさんとお話させてもらうことにする。


 彼はロールプレイ勢って奴らしい。

 なりきり?

 とにかく、ドワーフっぽく振る舞うんだと彼は言った。

 彼の中のドワーフは、名前が短くて、勢いがある響きの名前が偉いらしい。

 まあ今はお互い初期服だし、こっちのドワーフがそうかはわからないけれど、偉くなるんだって意気込んでいる。


 自分の工房を自分でつくって、自分の武器を持たせるやつを自分で選ぶ。自分の武器を自分で振るう。そんな頑固な鍛冶師になってやるぜ! だって。

 良いと思うよ、そういうの。


「ゲームなんだから理想は高く持たなきゃな! 俺は鉱山主になるぜ、入口前に家を立ててだな? そこに毎日降りるわけさ。そして自分で掘った鉱石で武器を作る!」

「できるんですか、そんなこと」

「どうだろうな? まあ、そんでだな、たまに人がやってくるわけだよ。セリフはこうだ。『この山の奥に、またと無い素晴らしい剣を作る鍛冶師がいると聞いてやってきた』」

「ははっ」

「俺はこう返すね。『ああ? 誰だてめえ、帰んな』」

「んー、じゃあこう?『……これで武器を作ってほしいんだ』」

「『こっ、これはレッドドラゴンの鱗……!? お、お前さんは一体どこでここここれを!!』」


 ぶはーっと二人で笑う。

 なるほどこれがロールプレイ勢か。

 うん。楽しいね。

 「つーかドラゴンの鱗を武器のどこに使うんだろうな。わけわかんねー」と笑う彼に、全力で同意する。

 削って剣の形にでもするんじゃないかな?


「ルイー!」

「お、友達か?」


 と、そうやってバカな話をしていると、友達たちがやってきた。

 皆もう合流したみたいで、最後がボクみたいだ。予想通りだね。

 ドッさんにお別れの挨拶もそこそこに、立ち上がり歩いて行く。

 自然と頬が上がっていることに今更気づいた。


「よう、俺がお前の最初の専属職人になってやるよ! なんかアイテムあったら持ってこいよ!!」

「ありがとう!」


 うん、ボクはここできっと生きていける。

 そう思った。

 後ろを向いて、手を降ってくれているドッさんに手を振り返す。

 

 ナビちゃんさんの言っていたとおりだ。


――善意と悪意を。


 ……ボクは善意を取ろうと思う。善意に善意で返そうと、そう思う。

 ドッさんはとても良い人。だから、ボクも彼にとっての良い人になろう。

 そして、悪い人にとっての悪い人になろう。自分にとっての悪を、そのすべてを出来る限りを持って叩き潰そう。


 ああ、とっても楽しみだ。


 素晴らしい今日が始まる。明日を作るための今日が始まる。

 自分で、そう、自分で明日を作れる今日が始まる。


 ……こんなに楽しいことはない。

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