7. 泣くほどキライな家事は。

私は、決して決して家事がキライなのではない。

一つ一つの作業はむしろ好きなんです! と声を大にして強調したい。


どれくらい好きかと言うと、汚れた食器はなるべく溜めて、ガシガシとたくさんやりたい。一食分ずつの食器の量だと、あっという間に洗い終わっちゃって物足りない。

洗面台の汚れ、やりがいを感じるくらい強力に積もっていないと、スポンジでこすっても手応えがなくて「これ、やる意味ある?」ってなる。


掃除も毎日なんかしてたら、「取れてるぅ〜」と実感できるほどのチリやゴミがないに違いない。


「溜める」というのはグータラ道の極意でもあるが、節約にもつながる尊いことだ。

洗濯物もなるべくたくさんで洗った方が、電力も水も節約できる。


ここで、それだとせっかくの大好きな家事をする頻度が少なくなってしまうのでは?と指摘する向きもあるかもしれない。そして、ということはこれはもしかすると、好きなことをしたい気持ちを極限まで溜めて、待ちに待った家事をごほうびのように爆発的に10倍楽しむための高等戦術か、と深読みする方もいるかもしれない。


しかし残念、いくら私がデキるグータラ妻だからと言って、そこまで計算はしていない。


単に、タイミングの問題なのだ。


つまり、あくまでもやる気になってる時にやる分には、家事の行為一つ一つをむしろ好きと言えるのだけど、自分のやりたいタイミングでない時にするということが大大大っキライなのだ。

そして、そのやりたいタイミングは、あんまりやって来ない。つまり、溜めようと思って溜めてるばかりじゃないわけです。


さておき、今日のタイトル。

何かを「死ぬほど」云云かんぬんと言っても、ほとんどの場合は本当に死ぬわけではないのであんまり説得力がないと思うのだけど、「泣くほど」と言うと、本当に泣いてる図が想像されるので信憑性が出てくる。


そこで、やってるとそのイヤさ加減に実際に涙が出て来てしまうくらいキライな家事について書く、というのが今日のお題です。


私が結婚する前、先に結婚していた友だちが家事についてグチってきたことがあった。

その中に、「そこまでのことなんてあるのか?」ってちょっと信じられなかった話が。


彼女は、私が一人暮らしを始めた時に「これ、ほとんど使ってないから」とほぼ新品のアイロンを私にくれたくらい、もともとアイロンかけが大キライな人ではあった。

でも、結婚したらそんなことは言ってられないはずだと、まだ未婚の私は勘違いしていた。

彼女もそんなふうに思って最初は頑張って、週に何度かダンナさんのワイシャツにアイロンをかけていたそうだ。ところが、やっぱりイヤでイヤで耐えられなくなり、続けていくうちに鬱のようになって、アイロンかけのたびに涙が出るようになった。

結局は、ダンナさんに泣いて懇願して、ワイシャツだけはクリーニングに出させてもらうようにしたのだという。


いくらキライだからと言って、アイロンかけだけで人はそこまでなるものなのか? って、その時の私はちょっと信じられなかった。


今は、信じられる。

私も、結婚してから、同じようなことがあった。


それは、「麦茶のポットを洗いたくない」事件。

私は極度の乾燥肌で洗剤がダメなので洗い物はゴム手袋をするのだけど、背が高いというか深いというか、そういう容器を洗う時にゴム手をしてるとメチャクチャ難儀だ。棒のついたスポンジを試したこともあるけど、それはそれで扱いが面倒で、なんでここまでして…と、台所の一角に鎮座まします、そのためだけにしか使わない棒つきスポンジに苦々しい思いが募っていった。


深いのも許せないが、ネジの溝の汚れが取りにくいのもだった。

そうしてガマンしてやっていたある日、ついに私の中で何かが閾値に達したらしく、涙が出て来たのである。

「もう、これ以上やりたくない」。


これしきのことで、なんたるワガママ! と、殊勝にも私は思った。

代案が必要だ。

私は洗いやすそうな、幅広で浅くて溝のついてない容器を百均で買って来た。でも、その容器から麦茶をカップに注ぐのは形状からして大変なので、水出しが済んでパックを取り出したら、空いた水のペットボトルに中身を移しておくことにした。そして、ボトルは洗わずに使い捨てにしようと考えた。


ちなみに私は基本的にあったかいものしか飲まないので、ポットで作る水出しの麦茶はM夫くん専用の飲み物だ。

私は、どんなにその容器を洗うのがつらいかを訴え、代替案を説明し、M夫くんの了承を得た。

ただ、問題は、浅い容器からクチの細いペットボトルに麦茶を注ぎ込むのがけっこう大変ということだった。だから、暫定的な案で終わる可能性もあった。


ところが。

M夫くんはそんな私をよそに、浅い容器でまだ水出し中の麦茶を、器用にも直接カップに注いでゴクゴクと飲み干したのだ! 何ごともなかったように。


暗雲が晴れ、すべてが解決した瞬間を私は忘れない。

M夫くん、すご過ぎ。


しかしこれは、泣きながらアイロンかけを放棄した友だちを信じられないなどと言っていた自分が、今のところ唯一の「泣くほどキライな家事」が、まさかの麦茶ポット洗いか…と、あまりのショボさとダメダメぶりに一日半くらいは落ち込んだ事件だった。


★今日のグータラ指数20/ダメダメ指数80

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る