孤独と不器用のブルース
赤城クロ
孤独と不器用のブルース
「アナタともう別れる! 勝手にして!」
「何だと!? なら勝手にしろ! 後でお前が見る目が無かったと言っても許さないからな!」
そう喧嘩して彼女が出て行ったのが昨日の事。
俺は、彼女の香水が残るマンションの一室で今日も俺は作曲をする。
俺だってやる時はやるんだ!
アイツは俺の事を良く分かっていて、いつも知ったように言いやがるのが腹が立つ。
それも、いつもその通りになるからより腹が立つ!
だからこそ昨日。
「アナタに作曲の才能はもう無い! だから充電中と言って怠けてばかりいるのよ!」
と言われたのは腹が立った!
作曲もしない、音楽も聴かないお前が何を知ったように言いやがった。
それも、30歳前なのに3度大ヒットのラブソングを書いた俺をだ!
だから決めた、今回初めて
見てろよ!
俺には才能があるからな!
…………。
一週間後。
畜生、考えても中々良い歌詞が浮かばない……。
あぁもう……。
「おい、悪いがお茶を……」
あぁ、アイツはもういないんだった……。
んだよ、あそこまでアイツ、言わなくても良かっただろう?
電話するか? いや、アイツに謝らせるまでは俺は絶対に口をきくもんか!
…………。
1カ月後。
あぁ、クソ! 何で歌詞が浮かばないんだ!
アイツがいた時はラブソングが浮かんだんだ!
俺はアイツが居ないとだめなのか!?
ふざけるな! 俺だって3度もやったんだ、まだ終わっている訳がないだろう!
見てろ、絶対書いてやる!
…………。
2カ月後。
待て、落ち着け俺……。
この状況、失恋ソングとして使えるんじゃないか?
そう言えばアイツ言ってたっけ『
ええい、アイツの言ってた事を参考にするのはシャクだけど、絶対……。
ふふ、その前にゴミを片付けないとな、今を見たらゴミだらけじゃないか、たまにはいい環境の部屋で作曲するのも悪くないな……。
…………。
3カ月後。
出来た……、とりあえずやっと出来た……。
だがまだだ、アイツの予想を外してやるまでは俺は決して電話するもんか!
とりあえず、メンバーに電話してだ……。
「もしもし……? 俺だ俺! 曲が出来たんだ! 曲名? それは『孤独・不器用男のブルース』って言うんだ! とにかく明日時間をくれ、絶対損はさせないから!」
…………。
4カ月後。
とりあえず、曲はまだ完成しないが、アイツが戻ってこれるようにしないとな……。
掃除だ掃除……。
しかし、アイツがいた時はいつも任せっきりだったな……。
帰ってきたら、少しは手伝ってやらないとな……。
…………。
5カ月後。
やっとCDが出来た!
ふふふ、見てろよアイツ!
今回の力作で、俺の才能はまだ終わっていないってところを見せてやるからない!
まぁ、そうすればアイツの予言が外れる訳だ、ククク、楽しみだ……。
…………。
6カ月後。
あぁもう待ってられるか!
畜生、アイツに負けた気がするが……、いや、今回結局アイツの助言で出来たんだ、感謝の言葉を伝えないと落ち着かねぇ!
ええっと、アイツの電話は……。
この番号は使われてない? どうなってんだ?
とりあえずアイツの両親にかけるか……。
「あ、どうも俺です。 あの、アイツは……。 え、死んだ……? 病死……? 俺と別れた時にはもう余命が……? 何で? 俺に心配かけたくなかったから? 何で? アイツがそう言った? 何だよ、何だよソレ……」
…………。
7カ月後。
酒が美味い。
何でアイツ病死してるんだよ……。
外が眩しい……、カーテンを閉めよう……。
…………。
8カ月後。
大ヒット?
そんなモノ言えなきゃ意味がない。
何だよ大ヒットって……。
…………。
9カ月後。
酔ってないと生きた気がしない。
誰か殺してくれ……。
…………。
10カ月後。
何だよ、余計な世話なんだよメンバー達……。
立ち直ってほしいだと、元気になってほしいだと? ふざけるな!
そんなモン、お前らの勝手な思いだろうが!
立ち直ったら俺の傷は癒されるのか? 立ち直ったら、俺が幸せになるのか?
そんな事無いだろうが!
俺は酒で苦しんで死んでやるんだ!
アイツもアイツだ! 何で勝手に死ぬんだよ!
何で黙って死ぬんだよ! 俺はお前がいたからこそ……。
全部死ね! 全部くたばれ!
俺はこのゴミの海におぼれて死んでやるんだ!
…………。
11カ月後。
手紙がとどいた、死んだアイツから……。
日付は5カ月前。
「初めに、余命数カ月と言われ、アナタに心配されたくないから別れました、ごめんなさい。 でも、私は分かるの。 アナタの不器用な歌は大ヒットしたでしょう? 負けず嫌いで意地っ張りで子供っぽいアナタは、ああ言えば頑張るのだから。 体中の痛みがドンドン強くなる中、病院のベットであなたの歌、聞いてました。 相変わらず素敵で不器用な人だと思いました。 でも、忘れないで、私は死んでもアナタの傍にいる、アナタが思ってくれる限り……、私の言葉と共に……。 アナタ、今までありがとう、愛しています……。 天国からあなたの新曲を楽しみに待ってます! 才能あるあなたへ」
ふざけるなよ、アイツ!
何だよ、結局予想通りってか!?
ふざけるな、ふざけるなよアイツ……。
…………。
1年後。
俺は、アイツの墓を尋ねると、ただ静かに花を添え、去っていった。
そして俺のスマホにかかる電話、メンバーからだ。
「もしもし、何だって? 何で新曲の曲名が『孤独・不器用女へのブルース』なのかって? 前に何故似せたかって? そりゃ、俺には才能があるからだ! そしてアイツの言葉が生きているんだ……。 『
孤独と不器用のブルース 赤城クロ @yoruno_saraku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます