第14話 サローの森・苦難の脱出行

 「なにっ!? いったい何が起こってるの?」

 

 ぼくは狼狽えていた。まだ姿は見えていないけれど、たくさんのモンスターからの殺気というか熱のようなものがこちらへ向いているのを感じる。

 

 「推理も説明も後だ! とにかくここを離れるぞ。――っ!」

 

 ノブおじさんは言い終わらないうちに飛び出してきた狼型のモンスター、フォレストウルフをかわし、叩き落とすように斬り伏せた。

 

 そして悠長に見ている間もなくぼくとセリエスさんの所へもそれぞれ一体ずつフォレストウルフが飛び掛かってくる。

 

 牙を剥きだして飛びつくフォレストウルフを盾で受けるセリエスさんを横目に見ながら、ぼくはとっさにヒノキの杖へと魔力を流してなぎ払うようにフォレストウルフの頭を叩いた。

 

 ぼくの力では突撃してくる相手の力をそらして、攻撃を外すくらいの結果にしかならない。けれど魔法を準備するためにはそれで十分だった。

 

 「“雷よ杖に伝って”」

 

 雷を纏わせながらも動きを止めず、さっき払った杖先を低く、体勢を立て直すフォレストウルフのあご下へと持っていき、一気に振り上げた。

 

 ばちっ!

 

 魔法で攻撃力を補った一撃は十分なダメージを与えられたようで、今度はフォレストウルフが倒れて動かなくなった。

 

 消え去らないということは、一時的に動けなくなっているだけなのだろうけど……。

 

 顔を上げるとセリエスさんもちょうどフォレストウルフを叩き斬ったところで、ノブおじさんはさらに別の一体を仕留めたようだった。

 

 「いこうっ!」

 

 ぼくの悲鳴じみた号令を合図に、倒したフォレストウルフが落とす素材を探す余裕も無く、ぼくらは走り出した。

 

 

 けれど、いくらも進まないうちに、また足を止めて戦うことになってしまっていた。

 

 大きな猪型のモンスター、ジャイアントボアが木々をなぎ倒しながら迫ってきたのを振り切って進もうとしたけれど、そこに上からは血のように赤い羽根を持つブラッドバード、さらに周囲を取り囲むようにフォレストウルフが現れたことで、無視はできなくなってしまった。

 

 「このでかいのは何とかする。あとはバッソ達でやれそうか?」

 「やってみるよ」

 「私もいるから大丈夫、これ以上増えないうちにやっちゃおう」

 

 短く受け応えると、ノブおじさんはすぐにジャイアントボアへと斬りかかっていった。

 

 「私が時間を稼ぐから、ブラッドバードだけでも先に何とかできる?」

 「任せて、低威力広範囲でいくから今のぼくでも十分なはずだよ」

 

 生命力が高く、力が強くて反応も速いという一番厄介なジャイアントボアをノブおじさんが完璧に抑えてくれている。

 

 あとは飛び回って頭上から急襲してくるブラッドバードを優先的に落とせればなんとかなるはずだ。

 

 森で火はまずいから、風か雷。高速で木々にまぎれて飛び回る相手を打ち落とすなら……、雷だ。

 

 “雷”“弾ける”、このシンプルな構成の回路で、威力よりも範囲重視で頭上に向けて解き放つべく集中する。

 

 「“雷よ走って”」

 じじじじじぃっ!

 

 瞬間、ぼくらの頭の少し上から木々のてっぺん辺りまで、かなり広範囲に覆うように弱めの雷が放たれた。

 

 一般にスパークとも呼ばれるこの魔法は、指向性を持たせずに放つだけなので空属性“雷”の中では最も威力の弱いものだ。

 

 けれどモンスターとはいえブラッドバードは鳥系、その飛行スピードと鋭いくちばしこそ厄介であっても頑丈さはそれほどでもない。

 

 「バッソ君すごい! これでフォレストウルフに集中して対処できるよ」

 

 セリエスさんが快哉をあげたように、あらかたのブラッドバードは撃ち落とせたようで、頭上の方は赤い羽根が舞い落ちてくるのみだった。

 

 この間も十体近くいるフォレストウルフをひとりでけん制してくれたセリエスさんだったけれど、大きな傷もなく持ちこたえていた。

 

 盾で受け損ねた攻撃を何度かくらっていたようではあったけれど、うまく鎧の装甲ですべて受け切っていたようだった。

 

 「続けて地面からいくよ、あと少し持ちこたえて!」

 「だいじょぶ!」

 

 もう少しだけ耐えることをセリエスさんにお願いし、魔法の発動体である杖内部に、“土”“固まる”“伸びる”“多数”と回路を構成する。

 

 「“地よ数多の槍となって貫いて”」

 どどどっ!

 

 威力を犠牲にして数を増やした土槍が、ぼくらを取り囲んでいたフォレストウルフへ向かって地より伸びあがった。

 

 一体につき二、三本ずつ放たれた土槍は不意をつけたのか、かわされることなくすべてが命中した。しかしどれも致命傷とはならなかったようで、消え去るフォレストウルフは一体もいなかった。

 

 「バッソ君いくよ、ここが決めどころ!」

 「あ、うん!」

 

 自分の魔法の威力不足に反省して気がそれていたけれど、セリエスさんに発破をかけられて気を持ち直した。

 

 そうだ、今の自分にできないことを悔やんでいる暇なんてない。威力が足りなかったのなら追い打ちを仕掛けないと!

 

 「やぁっ!」

 どっ! がぎっ!

 「“雷よ杖に伝って”」

 ごっ、ばぢぃ!

 

 分厚いロングソードを豪快に振り回すセリエスさんが、土槍でダメージを受けたフォレストウルフを散らしていく。それで浮足立っているところをさらにぼくも追撃して、数を減らす。

 

 そうして一度崩れたフォレストウルフ達はあっという間にすべて倒しきることができた。

 

 「よしっ、ノブおじさんの方はっ?」

 「こっちもなんとかなった、行こう」

 

 こちらに走り寄ってくるノブおじさんの向こう側、少し離れたところをジャイアントボアが足を引きずって追いすがってきていた。

 

 なるほど、生命力の強い相手を仕留めきることをあきらめて、離れた場所で足を斬りつけてから逃げてきたみたいだ。

 

 ぼくもセリエスさんもあざや小さな切り傷は無数にあるけれど、どれも軽傷で済んでいる。

 

 「まだ出口までかなりあるはずだよね? 急ごう!」

 

 そうしてぼくらは小傷を洗い流す余裕も無く、多数のモンスターが荒れる森の中を出口まで突破すべく、再び走り出したのだった。

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