第10話 おじさんとおでかけ

 ノブおじさんと衝撃的な邂逅を果たした次の日、定宿であるたぬき亭をでたぼくとノブおじさんはソルベの町の通りを歩いていた。

 

 このたぬき亭、微妙な名前だが冒険者ギルドの石ランク冒険者は割引が効くので非常にありがたい。

 

 今ぼくらが向かっているのはこの町の商店通り。色々なお店が軒を連ねる通りで、さらに今日は週に一度の露天商が出ている日でもある。

 

 「いやぁ、悪いね。出費させることになって」

 

 やけにきょろきょろとあちこちを見回しているノブおじさんが軽く詫びてきた。

 

 「でも必要だよ、ノブおじさんの装備。ぼくもせっかく冒険者になれたんだからどんどん依頼受けて外に出たいしね」

 「装備って言っても、剣だけあればいいよ。鎧とか重くて動きづらくなるし、服もこれ魔力体の一部らしくて汚れてもすぐ戻るから替えがいらないしな」

 

 ということらしい。たしかに昨日見たノブおじさんの動きは避けて反撃が基本で、受けるための盾や鎧は必要そうではなかったかも。

 

 「じゃあ、武器屋かぁ。どこがいいんだろうね」

 「あれ? そういうの知らないのか?」

 「ぼくもこの町には来て日が浅いからね。地元だとお店っていうと一つの種類ごとに一軒ずつだったから探すも何もなかったし」

 

 すこしの間固まる、二人。

 

 「まあ、この町もほとんどのお店は商店通りに集中しているらしいから、そこで探せばいいよ」

 「そ、そうだな」

 

 方針だけ決まったので再び歩き出した。

 

 たぬき亭含む数軒の宿屋は商店通りと中流居住区の間くらいにあって、冒険者ギルドも近くだ。だから少し歩けば目的の商店通りへと辿り着ける。

 

 

 「あれ、バッソ君?」

 

 そう声をかけられたのはちょうど商店通りに着いたところだった。

 

 声の主はセリエスさん。だけど今日は冒険者稼業はお休みらしく、ぼくらと同じで武装はしていないようだった。まあぼくの場合は師匠から贈られた特製布の服を何着も持ってるから今もそれだけども。

 

 「セリエスさん! お、お買い物?」

 「ううん。ただ見て回ってるだけだよ」

 

 緊張して、少し詰まってしまった。だって今日のセリエスさんは全然印象が違う。

 

 きれいな赤毛を結わえずにおろしているし、鎧を着ていないから普通の町娘の様な服装だ。そして、鎧を着ていると全く分からなかったけれど、大変起伏に富んだ体型をしていらっしゃるようで……。

 

 「年頃だねぇ。……こっちは俺の使う武器を調達しにな」

 「へっ!? あ、うんそうそう、そうなんだ」

 

 一言目を小声で言いながらノブおじさんにひじで小突かれた。セリエスさん(の特定の部分)に視線がいっているのを見透かされたのだろう。恥ずかしいなぁ。

 

 「あ、そうなんだ、確かに必要だよね。バッソ君魔法使いだから剣は予備なんかも当然ないだろうし」

 

 少しだけ挙動不審にしてしまったけど、セリエスさんに気にした様子はなく、今日も明るくて朗らかだ。

 

 「そうだ、セリエスさんはおすすめの武器屋とかある?」

 「私が使ってるのは特注だから行きつけは武器屋というより鍛冶工房だけど、鎧を買ったところは出来合いの武器もあるし、悪くはなかったんじゃないかなぁ?」

 

 そういえばセリエスさんの武器はあの異様に分厚い刀身のロングソードだった。あれ特注品だったんだな。

 

 「その場で一応確認したけど、あのロングソード歪んだりはしてなかったか?アイアンゴーレムをぶっ叩いたからなぁ」

 「大丈夫だったよ。私自身が力任せに振り回すタイプだからとにかく頑丈な造りになっているんだよね」

 

 色々と納得だった。なるほどあの分厚さは自分の力で折らないためか。

 

 「とにかく、その店まで案内するよ」

 

 そう言ってセリエスさんは、鎧を買ったという店まで先導してくれた。

 

 

 案内されて辿り着いたお店は、なんというかすごく普通の武器防具店だった。それなりの広さの店内に半分ずつ武器と防具が並べてある。

 

 ノブおじさんが剣を見ている間、入り口近くでセリエスさんと二人になった。

 

 「もう大丈夫そうだったから帰っちゃったけど、昨日はごめんね」

 「え? ううん、こっちこそセリエスさんが剣を貸してくれなかったらどうなってたか」

 

 気にするようなことじゃないのに、本当にいい人だ。

 

 「あの後は問題なく、デルゲンビスト様に謝られて、それからはなんでノブおじさんみたいな使い魔がー、ってみんなで話したくらいだったよ」

 「魔法ギルドのギルド長さんがいたらそういう難しい話になりそうだね」

 

 それもあるから、あそこで帰ったのか。セリエスさんはどうにも体を動かさないことは全体的に苦手そうな感じだ。

 

 「ノブさんの武器が準備できたらすぐに依頼受けるの?」

 「今日ではないけど、そのつもりだよ」

 「ね、依頼受けるときさ、私も連れて行ってくれないかな?」

 

 セリエスさんは盾も使い慣れているような感じだったし、戦力的に正直助かる。駆け出しだとなかなかパーティ組んでくれる人なんて見つからないから。

 

 それにセリエスさんが一緒に来てくれるのは、なんていうか、単純にうれしいことだ。

 

 「むしろこっちからお願いしたいくらいだよ! あっ、でもノブおじさんにも聞かないと……」

 「だから俺は使い魔なんだから、そういうことはバッソが判断して決めちまっていいんだって」

 

 ちょうど戻ってきたノブおじさんから言われてしまった。これはすでに何度か言われていることで、冒険者としての行動の主導権はしっかり持てということだ。

 

 「じゃあ、二人ともよろしくね。ノブさんはそれにしたの?」

 「鋳物の安物だけどバランスはいいから十分だ。つり革とセットで十シルバーだった」

 

 ノブおじさんが腰から下げているのはロングソードにしては細身で薄いけど、ちゃんと鞘付きのものだった。数十シルバーはしそうなものだけど、これだけ特価品だったらしい。それも不安だ。

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