『七夕の約束を叶えるために』 ~害なすものと支える三花~
氷星甘喜 公式の標指す道筋に、役処は留まることを知らず
「氷星石、出ましたー!」
「こちらも取得したのである」
喜びの声をあげるリーリーさんと、淡々とした声で両手をあげるラシャ。
二人の手に握られているのは、半透明の、白いコインのような石である。
「これが氷星石なんだねぇ。なんだか氷砂糖みたい?」
「……よく飛びそう」
それぞれの手の中にある石を見たわきさんとクルスさんが、それぞれの観点で氷星石の感想を述べる。
ぼくも取り出してみたが、なるほど、確かに丸くて平たくした氷砂糖のようだった。
「氷砂糖かぁ。食べられるかな?」
「ちょっと齧ってみる?」
「リーリー、食べまーす!
えいっ」
少し、がきっと硬い音を立てつつ。リーリーさんは、止める間もなく氷星石に齧りついた。
その表情が、嬉しそうに蕩ける。
「あまーい! 砂糖みたいな味がするよ!」
「どうやら、まんま氷砂糖のようでございますね」
「そうみたいだねぇ。
砂糖はまだ高いし、料理用にたくさん集めておきたいなぁ」
「甘いホットドッグであるか……」
「レッドドッグに対抗して、ホワイトドッグですね!」
「近くに次の敵がいます」
「それじゃ、ざくざく集めるといたしましょう」
「らじゃー!」
ラシャさんがらしゃー、とか呟くリーリーさんを緩やかに無視し。
ちょっと珍しい組み合わせの5人で、新たな敵との戦いを開始した。
朝の悪夢で始まった日曜日は、不安定でアップダウンの激しい一日だった。
みかんさんとのダンジョンに、長時間のオフラインゲー。
最後ははるまきさんに捕まっ……フリークブルグでお待ちいただいて、一緒に空をひとっ飛び。
色々あってその後はほうきから落ちたが、そこらへんは忘れよう。忘れて下さい、お願いします。
休みが明けて月曜日、つまり今日。
大学の後は
その後にインして、まずは日曜日の件を謝り、今日は皆で公式イベントを楽しむ方向性とした。
遠い彼方よりフリークブルグに訪れた、星兎人。
彼らの話によると、年に一度、七夕の夜にだけ星兎人の女神が姿を現すらしい。
一年間を、一族の繁栄と平和のために祈り続ける女神。
星兎人達は、毎年七夕の夜に天の川を越えて女神の元に向かい、一年分の生命エネルギーである氷星石を届けるのだ。
一年間の平和な日々と、彼らのために祈り続ける女神への感謝を込めて。
しかし、星兎人が集めた氷星石を運んでいる時。
氷星石の持つ大きなエネルギーに引寄せられたのか、星の海を漂う大怪獣に襲われて、集めた氷星石を落としてしまった。
落ちた先は、このブレイブクレストの世界。
星兎人は散らばった氷星石を集めるため、現地人達―――フリークブルグの冒険者達に協力をお願いするのだった。
―――というストーリーで語られる今回の七夕イベント、ゲーム的にイベント内容を語るのであればアイテム収集だ。
七月七日、つまり七夕当日までのイベント期間中は、全てのモンスターがアイテムとして氷星石をドロップする。
この氷星石を集めて、イベントNPCである星兎人に渡すと、一定数毎にアイテムがもらえるのだ。
50個集めればアイテムは全種類もらえるので、目標はそこだろう。
いずれにせよ、期間限定のイベントを無視してまで、自分たちのイベントの準備をする程じゃない。
少なくとも、協力してくれるみんなにはきちんと楽しんでほしい。
ぼくはまぁ……今日で終わらなければ、さくっと買い集めて解決しちゃおっかな、という気持ちもあったりなかったり?
ある程度で切り上げて、溜まってるメールの処理もしないといけないしね。
そうして狩ること1時間。盗賊のクルスさんのおかげで索敵も捗り、5人で各20個程の氷星石を集めることができた。
最終的な目標数にはまだまだ足りないけど、時間なので一旦合流に向かう。
フリークブルグの南に位置する港町、イシノア。
グリンドリルクラブが居る潮溜まりの洞窟のすぐそばに位置しているこの町は、初心者を脱して中級者となるために訪れることの多い場所だ。
町の入口で料理を売っていた商人プレイヤーから、魚の塩焼きを人数分買い。
齧りながら、集合場所に指定した冒険者の酒場へ入る。
「味は薄いけど、焼き加減はいいねぇ」
「醤油が欲しいです」
真剣な顔で食べながら分析するわきさんと、丁寧に骨を避けながら食べるクルスさん。
性格出ているなーと思いながら、とりあえずはるまきさんに到着した旨を伝える。
―――――――――
To:はるまき
酒場に到着でございます
町の入口で買った焼き魚は薄味でした
―――――――――
From:はるまき
ごめん、今向かってるけど遅れてる
荷物が荷物過ぎるわ
蛮族の評価は上方修正
―――――――――
To:はるまき
お構いなく、ごゆっくりどうぞです
荷物は、面倒見ていただいてすみません
ありがとうございます
蛮族はぼくのことを無断で晒した奴なので、下方修正願います
―――――――――
From:はるまき
いいわ、フォローは任せなさい
なるほど、宇宙人パレードを晒したのは蛮族なのね?
褒美を与えておくわ
―――――――――
なぜ褒美、と口の中で呟きつつメールを閉じる。
荷物が
人数分の味のない紅茶でくつろぐ仲間達にもう1パーティが遅れることを伝えつつ。この後の予定を考える。
「ライナさん、ライナさん」
「どうなさいましたか、リーリー様?」
「ネギンボさんが、氷星石集めなら参加したいって言ってるんだけど、どうかなぁ?」
「ふむ……今近くにいらっしゃるんですか?」
「イシノア周辺に居るから、参加しても良いなら町に戻るって」
ここでやれることと、敵の数なんかを考えてみる。
パーティの戦闘力的に……相変わらず回復役が居ないんだよな。
荷物込みとなると、火力はあっても高レベル引率、最低でもデコイ人形を投げることを理解した人でないと厳しいか。
レベル的に、ぼくかはるまきさんか、チョリソーかクルスさん?
「あ、ライナ先輩。人増えるなら、私抜けるよー?」
「いえ、ぼくが抜けようかな、と」
ぼくが言うと、わきさんがちょっと眉をしかめ、クルスさんが悲壮な表情をする。
リーリーさんも困った感じだ。
「ええー」
「それはなんか、違くない?」
「いえ、譲るとかではなく。
かなりメールが溜まってるので、ちょっとイベント主催者としてのお仕事をしないといけないのでございますよ」
そう言うと、腑に落ちない表情ながらも一応うなずいてくれる二人。
ネギンボさんも呼ぶ方向になり、氷星石の素材としての活用方法なんかを話しながら待った。
しかし―――
「ガイドと護衛と知識と肉壁と話し相手と荷物持ちと荷物の面倒見ながら、メールの処理しつつイベントアイテム集めて私のフォローをするくらいライナなら余裕でしょ?」
「なんかやること増えてるぅぅ!」
はるまきさんに笑顔で無茶ぶりされ、結局メール処理しながらぼくが引率を担当。
予想通り、発狂モード前に攻撃してカニ波動砲で消滅した魔術師と巻き添えの斥候を後目に、ラシャとみかんさんを連れて
無事、二人もベルンシア地方への切符を手にするのでした。
「ところで、ラシャ。いつの間に27までレベル上げたんでございますかね?」
「土日に
「私、ライナさんに付き添ってもらったりして、やっと21レベルなのに……」
「全ては工作員となるために!」
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