あなたをあいしてあげたいの

楠木黒猫きな粉

うたいましょうおどりましょうあなたがそうあるうちに

壊された、消えてしまった、戻らなくなってしまった。それはどれも喪失だ。不幸の出来事だ。

人は前を向けと励ましを投げかける。上を見ろと吐き捨てる。まるで自分は過去を見ていないかのような綺麗事を並べ、それとは真逆の行動をずっとしている。

「あぁ分かっているさ。分かっているとも」

男は薄ら笑い差し伸べられた手を払う。その手さえ偽物のように扱い、差し伸べた人物を幻のように思う。

救いは無くした男は貼り付けた笑みを浮かべている。きっと男には何も残っていない。友も愛もその時間さえも。もう残りのない時間の中で精一杯の抵抗とカケラもない希望に明日を託す。

男はありきたりな言葉を並べ変わらない笑いを貼る。繰り返した消失に最後は自分を捧げる。今日はきっと最後だろう。この地獄のような昨日も終わる。

わかりきった切れ目。続くことはない未来。それが失った男の結末。

「さようなら。また明日」

別れの挨拶を『今日』にする。意味のない予告を『明日』にする。

堕ち続ける先に未来はない。消失と存続の狭間で無くしたはずの光が指を掠める。

向こう側にいる誰かは男に何を語るだろうか。きっとどうでもいい話だ。

向こう側の誰かは思う。

これは笑い話だろう、と。

どうでもいい笑いを貼り付けながら境界で誰かは踊る。

あなたがあなたであるうちに。



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