第2話 沈黙の空、響くは銃声。あるいは…… Part3
〈2122年 5月7日 2:11AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約22時間〉
―グラウ―
「本当に一人で大丈夫か、ゼン?」
俺、ネルケ、そしてソノミが拝殿の前に横一列に並ぶなか、ゼンは参道の端っこで首を回し、足をストレッチさせ――身体をほぐしている。
「心配性だなぁ、グラウ先輩も。今の先輩、子供一人に初めてのお使いをさせようか悩むバカ親みたいっすよ?問題無いっす。これまで何回も成功させてきたじゃないですか?それに、先輩方を連れて行ったら足手まといになるんで」
「それも…そうだが……」
ゼンの言い分を否定することは出来ない。彼の言うことはまごう事なき事実。
ゼンに頼んだのは偵察。ネルケによると、彼女がこの壬生神社と辿り着くその道中、東の集合団地にて何処かの組織の兵士を発見したらしい。
彼らの正体は一体何なのか、そして規模はどの程度なのか……もちろん戦場においては状況が刻一刻と変化するため、彼らが未だそこにいるとは限らない。しかし他の組織と比べて情報の量が圧倒的に少ない俺たちはそのような些末な情報であっても、確実に拾っていかねばこの戦場で生き残ることが出来ないのである。
そこでゼンに白羽の矢を立ったのは必然と言えば必然だ。“透明化”。存在を視覚では探知出来ないという長所は、特に偵察任務において光る。
ゼンが異能力を行使している限り、きっと何人も彼の存在に気が付くことはない。それはわかっているのだが……一抹の不安が残る。
ゼンは――歯に衣着せず言えば、“人の言うことを素直に聞いてくれない”という性格上の短所がある。彼の脳内では、どうやら「するな」という命令が「しろ」に変換されるようで……そのことが俺に彼を一人で行かせることを渋らせる最大の要因となっているわけなのだが――
「それにグラウ先輩。お邪魔でしょ?」
「邪魔?何を言っているんだ?」
ゼンが何を意図しているのかさっぱりで彼に問い詰めるも、のらりくらりと躱されて、結局真相は迷宮入り。
仲間のことを邪魔だなんて、一度たりとも思ったことはない。俺にとってソノミもゼンも大切な後輩で、二人のためならこの命、平気で投げ出せる。それに……もう仲間になったからには、彼女のことも気にかける準備は出来ている。まぁ、優先順位は二人の少し後ろではあるのだが。
「まっ、安心していてくださいよ。きっと何もしませんから!」
「ゼン、“きっと”じゃなくてだなっ!!」
最後の最後まで人を不安にさせるゼンに、もう一度注意をしようと彼の肩へと手を伸ばすが――ヒラリと躱され、たたらを踏んだ。よろける視線の先、ゼンの身体が――指の先から、そしてつま先から。中心へと向かって世界に
それでも「無理をするなよ!」と叫ぶが、ゼンの声は返ってはこない。そのどうしようもないやるせなさから、俺は青息吐息を一つ。
「大変ね、グラウ」
随分と情けない姿を晒したせいか、傍らへとやってきたネルケは憐憫の視線を向けてきた。
「そうだな……だが、今のを見てわかっただろう。あれがゼンの異能力だ」
ネルケはうんうんと頷きながら語り出す。
「すごい異能力ね。まさに彼は――“透明人間”なのね」
まったくその通りだ。“透明人間”。それはSFや怪奇小説などで繰り返し用いられてきた架空の存在の一つ。
人間を透明にする技術は、2122年現在もなお開発されてはいない。故に、人々は空想世界に存在する“透明人間”に思いを馳せてきた――ということで、話は終わらない。
今や“透明人間”は俺たちの仲間。このことが象徴するように、異能力が存在するこの世界においては、もはや空想の世界にしか存在し得ない超能力も現実のものとなっている。アメコミに登場するヒーローの力を持つ異能力者だって、きっとこの世界の何処かに存在するはず。もちろん……その人物が、彼らのように輝かしい英雄性を有しているとは限らないわけだが。
「さて……逃げられては仕方がない。俺たちも、やることをやろう」
踵を返し、拝殿の縁側へ。腰掛け、畳の方へとおろしていたボディバックを手に取って、中身を探り……あった。最新機種MetierS9、レッドフレーム。
「スマホ?なぁに?記念撮影でもするつもりなのかしら?」
「しない。ちょっと待っていてくれ」
気が付けばネルケが互いの熱を感じるぐらいの近さに座ってくるものだから、腰を浮かして左へ移動し適当な空間を作る。しかし彼女は「むむう!」と呻きながら再接近を図ってきて……移動に移動を重ねた結果、左からソノミ、俺、ネルケの順で、まるで満員電車の座席の如くぎゅうぎゅうずめで座るというなんとも息苦しい状態となってしまった。
「もっとそっちいけよ、グラウ」
「だそうだ、ネルケ。
「いやよ、グラウ。でも、そんなに右に詰めたいなら……わたしの愛を、素直に受け容れるべきよ!」
何を言っているか理解出来ないこの
「シカト決め込まれるなんて、可愛そうだなぁ、ネルケ」
「本当にそうよ、もう!グラウったら、銃の扱いは上手いのに
ネルケからジトッとした視線が注がれるが、そんな挑発には乗らない。だが……けっこう傷つくな、その言葉。
ふと手に握りしめたスマートフォンの存在を思い出す。そうだ、こんなやりとりをしている場合ではない。ホーム画面からギャラリーを選択。それから彩奥市の地図を見つけ、背面のボタンをスライドする。
「えっと、これは――最新機種って、こんな機能まで搭載されているの?」
「違うんだな、それが。グラウのスマホには……俗に言う改造が施されている」
初めてこの機能を見たときは、俺とソノミも鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしたものだ。何故なら――スマートフォンのスクリーンに表示されている画像が、空中に立体描写されているのだから。
「ラウゼの技術力には参ったものだ。元は星片研究員だったっていうのにな……ゼン、そっちにも聞こえているな?」
『うっす』
良かった、繋がってくれた……これで一安心だ。
左耳に入れた通信機は、今はゼンのそれへと接続している。移動中で話を聞くのに集中しろとは言えないが、彼にもP&Lの一員として参加してもらわないといけない――
「コホン。これより、
ずっとスマートフォンを片手で持ち続けるのも面倒だ。だから立体描写を拡大して……スマートフォンを俺の膝の上へと置く。
「現在俺たちがいるのはここ。彩奥市北西部の壬生神社。で、星片が落ちたのは北東――」
「モアナ遊園地ね」
「ああ、そうだ。まぁ、未だ落ちてそのままということはないだろうがな」
既に何処かの組織が星片を拾い上げ、回収済みであるとは思う……と、思考にふけっていたところ、ソノミが何やら鋭い視線をこちらへと向けてくる。
「そんなわかりきったことはいい。グラウ、その最新の情報とやらを話せ」
それもそうだな。確認するまでもない内容だったな。
「では俺たちの敵となる組織について話していこう。敵対勢力は合計は5つ――」
「あれ、4つではなかったかしら?事前情報だと、わたしたちを含めて5勢力が争奪戦に参戦するはずだったと思うけれど?」
首肯。事前情報ではその通りであったのだが――
「どうやら俺たちと同じような人数で、直前になって彩奥市に入った無謀な連中がいるそうだ。そいつらのことも含めて、順を追って確認していこう」
一度息を整える。話す順番は……規模の順でいこうか。
「一つ目。この星片争奪戦において、勝利者に最も近い組織――」
「日本か?」
早押しクイズをやっているわけではないのだが……ソノミが即答してきた。
「その通りだ。異能力規制法がある以上、本来ならばどんな国であっても異能力者部隊を創設することは禁じられているわけなのだが……それは表向きには、というだけのこと。日本もその例外ではなかった。日本の異能力者部隊――“毘沙門”。ところでソノミ、毘沙門ってなんだ?」
「毘沙門天という神のことだ。七福神の一柱として知られているな。それと、戦国武将の上杉謙信が信奉していた軍神としても有名か」
なるほど。軍神……あやかるにはおあつらえ向きの名を持ってきたということか。
「毘沙門の推定戦力は約3000人。その内異能力者は10名」
「非異能力者の数が圧倒的ね……その数と、直接対峙するのは避けたいところね」
そうだ。異能力者は非異能力者と比べて圧倒的な戦闘能力を有しているとはいえ、無敵ではない。それに加え、俺たちの中で集団戦に向いた異能力を有するのは……ソノミぐらいか。3000人が束になってかかってきた日には、俺たちの敗北は免れ得ないであろう。
「ああ。俺たちの作戦は、あくまで最小の戦闘で星片を獲得することに主眼を置いている。それで……彼らは、南東のオフィスビル群に本陣を築いているようだ」
「ということは、毘沙門が一番に星片を入手した可能性は低い、と……
左に目をやると、ソノミは何処か遠いところを見ているようで――
「やっぱり気になるの、ソノミ?」
「別に。同じ日本人とはいえ、手加減などするつもりは毛頭ない」
同じ日本人、か。同じ血が通う者同士が殺し合う……悲しいものだな、戦争は。
俺もいつかは――って、
「次にいこう。現状、彼らが星片を取得している可能性が一番高い。
「彼らが星片を持っているかもってことは……
「ああ。幸運の女神は、奴らに味方したということだな」
女神様も微笑むべき相手をもっと慎重に選んでほしいものだ。
「彼らの規模は2000人。その内異能力者は20名」
「20、か……
報道の立ち入ることのない日の差し込まない裏の世界においては、日夜黒く薄汚れた取引が行われている。そのようなことはずっと昔から続いてきたことではあるが、近年のトレンドはといえばやはり――異能力者に他ならないであろう。
“人型兵器”とさえ呼ばれた異能力者。世界を影から操る組織はどこか、異能力者を一種のステータスのように見ている。多くの異能力者を雇っている組織ほど、この世界の多くを支配できる。そう、どの時代においても権力の第一要素は力なのだ。
そう言う意味で
「次に移る。彼らは……意外な連中だな――テラ・ノヴァ。異能力者の地位向上、および非異能力者と異能力者の同権を訴える世界規模の活動団体」
「平和的な団体のはずよね、彼らって。それなのに
テラ・ノヴァの名が人口に膾炙するようになったのは、今より二年前のこと。その活動は主に、各国政府に対して異能力者の待遇改善を求めるというものだ。彼らの訴えの手段は対話であり、
そしてテラ・ノヴァを語る上で欠かせないのは――彼らのリーダー、グレイズ・セプラーの存在であろう。確か奴は……俺より2、3しか年齢が変わらないのに、その精力的な活動によって異能力者から絶大な人気を集めている。個人的には……彼は顔が良いから、一種アイドル的人気もそこに含まれていると思うのだが。
しかしあの若きカリスマは、いったい何を目的に星片争奪戦に参戦することを決断したのやら。やはり彼も、一人の欲深い人間でしかなかったということなのだろうか?
「さぁ、な。彼らは合計500人ほどで彩奥市に入ったようだ。内異能力者は8名。毘沙門や
長々と話し続けて喉が渇いてきた。ここらで一息入れるとしよう。
ボディバックを探って……カツンとアルミ缶に爪が当たった。それは何を隠そう“ギブミエナジー”。
残り三缶ある内の一缶取り出し、プルタブを開く。このプシュッ!という小気味よい音は、心躍るものがある。そしてグイッと缶を傾け、喉を炭酸が心地よく刺激していく。
「ふうっ……うまい!」
喉の渇きを潤すのには、やはりこれに限る。
「お前、本当にそればっかり飲んでいるよな」
ソノミが訝しげな眼差しをむけてくる――ああ、あれは悪い思い出だ。いつだかの任務でこれをソノミに分け与えたとき、彼女は……うむ。
「ギブミエナジー……わたし、いつだかネットのまとめ記事で読んだけれど、それって“22世紀史上最も不味い炭酸ランキング”で断トツ一位よね、それ?」
「はっ、はぁ!?」
何だそのランキング!?記事の編集者、絶対“ギブミエナジー”の敵対企業の者だろ!
「そんなの間違っている!“ギブミエナジー”はな、ほろ苦さと甘酸っぱさが同居した、最高の炭酸飲料だ。飲めばわかるっ!!」
「お前のその味の評価からしてもそれは地雷だったよな――」
「なら、わたしにちょうだいっ!」
「っ!?ネルケ、止めといた方が――!」
「いいえ、ソノミ!グラウが好きなものなのだから、わたしも試してみないと!!というより……うふふ!!」
ネルケが半ば強引に俺の手から“ギブミエナジー”を奪い取っていった。さて――あの時はどちらの味覚が正しいかでソノミと軽い喧嘩になったが、これでどちらが正しいか決着する。
「ごくごく……ん!うっ!?」
ネルケが豪快に缶を傾け飲んだかと思えば……急に目を見開き、缶からピンクの唇を離し、口を両手で覆い始めた。それから覚悟を決めたかのような表情をすると、喉をゴクリと言わせながらギブミエナジーを苦悶しながら一気に飲み込んだ――ん?
「おい、大丈夫かネルケ……ほら見ろ。やっぱり止めといた方が良かっただろ?」
ゲホゲホ言い出すネルケ。その様子を見かねてソノミがネルケの右隣へと移動し、彼女の背中をさすりはじめる――あれ、おかしいな?
「だっ、大丈夫よソノミ。後悔はしていないわ。でも、間接キスに目が眩みすぎたわね……お口直しが欲しいところかしら」
「私のでいいなら、お茶でも飲むか?」
「ええ、いただくわ……ありがとうね、ソノミ」
「感謝は不要だ。私たちは同じ被害者なのだから」
ソノミが赤い水筒を取り出して、蓋を開けるとそこから白い湯気がぷわぁと吹き出した。そしてその蓋へ緑色の液体を注ぎ、ネルケはそれを受け取り次第フウフウと息を吹きかけて熱を冷まし、幸せそうな笑みを浮かべながらそれを呷った。
「ふうっ……美味しいわね、日本のお茶は」
「そうだろ。でもあれだな。先に飲んだものが
「――おい」
ようやく二人の会話に隙を見つけることが出来た――なんだ、この疎外感は。
先ほどまで仲良く作戦会議をしていたというのに、何故この数分の間俺はぽつねんと取り残された?そして善意で“ギブミエナジー”を飲ませてやったというのに、どうして二人から睨み付けられなければならない?
「グラウ……あなたのことは好きだけれど、“ギブミエナジー”は認められないわ」
ネルケから“ギブミエナジー”が返却されるが……これ、渡す前と大して量減ってなくないか?
「そんなに不味いか?ゴクゴク……いや、美味しいのだが?」
ネルケに渡すまでのたった数秒の間に品質が変化したなんていうありもしないことを疑ったが……依然として“ギブミエナジー”は最高のままだ。
「お前の味覚が狂っているということだろうな」
「ええ、きっとそうよ!梅干しのように酸っぱくて、クスリのように苦い。それでいて炭酸飲料なんて……あなたが飲むのを止めれば、きっと販売中止になると思うわ」
俺の味覚がボロクソ言われているのは……まぁ、この際よしとしよう。しかし、だ。“ギブミエナジー”をそうも酷評されるのは全くもって心外である。
“ギブミエナジー”はユスがご褒美によく買ってくれた物。あいつと俺は、運動の後はこの一本と決めていたというのに。
だが、他人がなんて言おうが関係ない。俺は“ギブミエナジー”を愛飲し続ける。それだけのことだ。
『ねぇねぇグラウ先輩。さっきから何を楽しそうにしているんすかぁ?』
露骨に不機嫌そうな声が左の鼓膜を震わした――ああ、そうだ。ゼンもこの会話を聞いているのであった。
「悪い。話を戻す」
一度大きく咳払い。緩んだ空気に緊張感をもたらす。
「残る組織は2つだが、このどちらも先の3勢力に比べれば情報量が少ないということを留意して欲しい。では第四の組織は……デウス・ウルト」
何れの組織とも戦闘は避けたいのは言うまでもない。しかし彼らと戦いたくない理由は、他とは少し毛色が違ってくる。
「異能力者の抹殺を目論むカルト宗教か」
ソノミの発言が理由そのものである。
彼らはテラ・ノヴァとは正反対。そしてあのグレイズ・セプラーが、このように発言したことがある。「異能力者として生まれたからには、彼らの魔の手から逃れる必要があります」。何故なら――
「異能力者を見つけては引っ捕らえて、そして拷問によりじっくりと苦痛を与えた後に殺害する……やばい連中よね」
そう、デウス・ウルトは――反吐が出るほどに
奴らの異能力者の殺し方はネルケが言うやり方のみではない。異能力者の女性が集団レイプされた後、死体となって発見されたという事件も記憶に新しい。
デウス・ウルトにとって異能力者は見境なく憎悪の対象。でも、俺たちみたいな殺し屋連中が狙われるというのなら、彼らにまだ正義があるとも言えるかも知れない。しかし奴らは……平穏無事に生きている異能力者すら標的とするのだ。
その誕生がいつごろなのかは明確ではないが、22世紀になってから奴らはそれなりの信者を集めているようだ。そしてその信者の多くは、異能力者を危険視する非異能力者である。
しかし、それなのにも関わらず――その教祖と上級の門徒たちは異能力者というのが彼らの最大の謎である。“目には目を、歯には歯を”という一節があるが、それになぞって“異能力者には異能力者を”とでも言うのだろうか?確かに戦闘能力の高い異能力者を始末しようとするなら、異能力者でもってというのは合理的ではあるが……。
「彼らが参戦した動機は、異能力者がこの彩奥市に溢れるから……なのだろうか。彼らが一体どれくらいの規模で彩奥市に入ったのかは不明だが、どうやら市の南西に潜伏しているらしい」
その地域に迷い込んだ異能力者を殺すのか、それとも自ら異能力者狩りに向かうのか。何にせよ、彼らとはばったり遭遇したくないものだ。
「最後。マフィア――テウフェル家。こいつらが例の最後の最後で彩奥市入りをした連中というわけだ」
マフィアと言えば、ほんの数日前に俺が壊滅させたイタリアのアマート家が思い返されるが――テウフェルはその規模ではない。彼らの支配の規模は、なんとヨーロッパ全域に及ぶ。
しかし不思議なことに、彼らは滅多に悪事を働くことがないという。それはボスのデルモンド・テウフェルが温厚な性格をしているからと巷で言われているようだが――
「どうやら、ボスの息子とやらが手下をほんの数人だけ連れて彩奥市へ入るのが目撃されたらしい」
「数人だけということは……連中も、異能力者である可能性が高そうだな」
確かにそうだ。非異能力者数人だけで争奪戦に参戦するなど、命を投げ捨てに行くようなもの。俺たちと同じく、全員が全員異能力者であるのかもしれない。
さて、ようやく全ての敵対組織について話し終えた。ギブミエナジーを飲み干して、話を締めくくるとしよう。
「各々わかっていると思うが、俺たちはたった四人。他の組織と正面を切って戦うのは、こちらの分が悪いのは明らかだ。だから俺たちは最後の最後まで極力息を潜める。そして他の組織同士が抗争により消耗したところを襲撃し、星片を奪取する」
「姑息だな」
そう言われても仕方がない。俺たちは漁夫の利を狙うのだから。
「ああ。だがこれはスポーツの試合ではない。サッカーで手を使ってはダメだとか、バスケットボールでドリブルをせずに三歩以上歩いてはダメだとか、そういう禁止行為は一切ない。この戦場にルールは一つもない。最後に星片を握りしめて結界の外に出た者が勝者というだけの話だ」
「単純明快でいいじゃない!星片さえ手に入れば、あとは逃げ回れば良いだけなんて!!」
「ああ。手段を選べる立場にはないしな。その方針に異議はない」
二人からは同意は得た。あとはゼンだけだ。
「と、言うことだ。ゼン――」
『敵、発見しました』
「なに、本当かっ!?」
ゼンの声がネルケとソノミにも聞こえるように、通信機を外して音量を上げる。
『第二団地と第三団地との間に
ゼンの話を聞く限りでは、二つの組織がまさに今激突しようとしているということか。
それならば……ある意味好機とでも言うべき――その状況、利用させてもらおう。
「ゼン。俺たちもそちらに向かう」
『えっ、何でっすか?』
「
『そのくらいならオレ一人で十分っすよ?わざわざ先輩方の手を煩わせるまでも――』
「ダメだ、ゼン。そこでじっとしていろ」
敵が集団行動をしていると予想される以上、ゼンが戦闘になれば一人対兵士複数という構図が想像される。それでも、ゼンが異能力者であることを考慮すれば問題ないようにも思えるが――それは相手が非異能力者のみで構成されていた場合に限る。他の組織にも異能力者がいることが明らかな以上、万全を期してゼンの安全を確保しなければならない。
『…………』
しかしゼンからの返事が来ない。いつものことと言えばそうなのだが――
「ゼン待っていろよ、いいな!」
この念押しが効いていれば良いのだが――通信音量を下げ、左耳へと通信機を入れ直した。
「と、言うことだ。ネルケ、ソノミ。俺たちもこれより団地へと向かう」
スマートフォンの立体描写機能をオフにし、ボディバックへと片付ける。
「ようやくその時が来たということか」
ソノミは背筋を伸ばし、肩をぐるぐると回して――準備万端な様子。
「あなたにわたしの実力をみせてあげるわ、グラウ!」
ネルケが俺へと向き直り、閉じた唇に手を当て
とにかく、俺たちは可及的速やかにゼンの元へ向かわなければならない。だから――じっとしていてくれよ、ゼン!
※※※※※
小話 忘れていたとか、何処でやるか決めていなかったとか、そういうわけでは……はい、その通りです
グラウ:っと、完全にミレイナさんから言われたことを忘れていた
ネルケ:忘れていたことって、なぁに?
グラウ:ここは神社――必勝祈願を済ませておくべきだろう
ソノミ:そんな理由でミレイナはこの場所を集合地点に指定していたんだったな
グラウ:ソノミ、参拝の作法ってものはあるのか?
ソノミ:作法か……はじめっから滅茶苦茶なのに、今さらという気もするがな。参道のド真ん中を歩いたり、厳かさを乱すように騒いだり。きっと神様もキレておられることだろう
ネルケ:それに銃器やら刃物やらを境内に持ち込むって……完全に神様嘗めてかかってるもんね、わたしたち
グラウ:……とはいえ、だ。作法に則ってやり直せば、僅かながらにも御利益はくださるだろ?
ソノミ:かもな。(本編長くてこちらは短くしたいため)色々と割愛するが、賽銭箱の前に立ったら軽く会釈。そして賽銭を入れ――おい、ネルケッ!小銭をぶん投げるな、遊びじゃないんだぞ!?
ネルケ:ええっ?ぽいっと投げるものじゃないの、これ?
ソノミ:違う。無礼のないように丁寧にやってくれ。次は鐘を鳴らして……グラウ、なんでそんなに軽く揺らしているんだ?
グラウ:なんだ?静かにした方が良いんじゃないのか?
ソノミ:いや、鐘を鳴らすのは神様に拝礼に来たことを示すため。乱暴にならない程度に、からんころんと音をたてて構わない。そうしたら“二拝二拍手一拝”を行う。わかっているとは思うが――ネルケ、変なことを願うなよ?
ネルケ:ぎくっ!やっ、やましいことなんて何一つ願ってないわよ!何一つ……
グラウ&ソノミ:じとぉ……
ネルケ:ひっ!ちゃんと必勝祈願するから、だから許してぇ!
※いろいろと調べましたが、この参拝の仕方は一般的なものであって、神社によっては異なる場合もあるそうです。
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