◎ ジャパリまん工場見学 ~サーバル編~
ある日のお昼少し過ぎ、かばんちゃんとサーバルちゃんは図書館にいました。博士たちがカレー以外の料理を食べてみたいとしつこく言ってくるからです。
かばんちゃんはどんな料理がいいのかな、と料理の本をあれこれとみていきます。サーバルちゃんは隣でお手伝いをしていました(なにこれー?と話しかけているばかりでしたが)。
ようやく一つ、作れるかもしれない料理を見つけました。それはジャパリまんによく似ていて・・・
「そういえば、ボスってジャパリまんをどうやって作ってるのかな?」
「え? 作っているんじゃなくて、誰かが作ったものを持ってきてる・・・とか・・・」
作り方に載っている絵を見て浮かんだ素朴な疑問。口に出してはみたものの、かばんちゃんも曖昧な答えしか出すことができません。
どうなんだろうと二人で考えていましたが、博士たちがわいわいと騒ぎだしたので、その場はそれきりでした。
「決まったなら早く作るのです」と言ってきますが、材料を持ってきて作るにはもう遅い時間だったので、博士たちをなだめすかして納得してもらい、その日は図書館でお休みすることになりました。
サーバルちゃんは夜行性です。かばんちゃんに合わせて夜に寝るようになりましたが、それでもたまに起きだしてしまいます。
そんな時は、こっそり抜け出して、ジャパリまんをつまみ食いするのが習慣でした。
「博士たちも寝ているかな?」
この日は、明日の料理が待ち遠しいのか、博士たちもいそいそと寝床に行ってぐっすりと眠っていました。
抜き足差し足、みんなを起こさないように下に行き・・・お目当てのジャパリまんを探します。けれども、ジャパリまんはお昼に博士たちが食べてしまったのか、見つかりません。
「うう・・・ 楽しみにしてたのに・・・」
がっかりするサーバルちゃんでしたが、その時、ピコピコと聞き覚えのある足音が聞こえてきました。
音のするほうを見やると、ジャパリまんを乗せたかごを持った(乗せた?)ラッキーさんが歩いてきます。
「ボス! ジャパリまん持ってきてくれたの?」
嬉しそうにしているサーバルちゃんを通り過ぎ、図書館の机にかごを置くと、ラッキーさんは何も言わずに元の場所へ戻っていきます。
早速ジャパリまんをもらおうとかごに手を伸ばしたサーバルちゃんですが、ここでお昼に話していた疑問が頭を持ち上げました。
もしかして、ボスについていったらいっぱいジャパリまんをもらえるのかな?
そんなことを考えると、もう歯止めが利きません。かばんちゃんごめんねと心の中で謝って、サーバルちゃんはボスに気付かれないようについていくことにしました。
月明かりが照らす中、サーバルちゃんはラッキーさんを追いかけていきます。がさがさ、ごそごそ、森を抜け茂みを越え・・・
ちょっと休憩しようかなと思い始めた時、ラッキーさんは崖の下で止まりました。
「ここでジャパリまんを作っているのかな?」
わくわくしながら待っていると、ラッキーさんは壁をくいっと押しました。すると、壁がぱっかりと開きました。
驚いて見つめていると、ラッキーさんはそのまま暗い穴へするりと入っていきました。
どきどきとする胸を押さえ、サーバルちゃんは駆け出して後を追いました。
背後で、壁が閉じる音が聞こえました。
わずかばかりの明かりが足元を照らします。ラッキーさんの足音はもう聞こえません。
少しずつ心にのしかかってくる後悔と心細さ。サーバルちゃんの耳には、何も聞こえません。
「私・・・先走っちゃったのかな・・・」
冗談めかしてそんなことを口にします。孤独がじわりと心を削りました。
長い長い時間が経ったように感じます。道を曲がると、その先に明かりが見えました。
「誰かいるの!?」
期待と喜びで、サーバルちゃんは泣きそうになりながら走りました。
自分が勝手に出ていったことなんて、この時は忘れていました。誰でもいい、この心細さから、孤独から・・・
暗いところから出てきたので、サーバルちゃんは思わず目を細めました。
その部屋は縦長で、壁にはガラスが貼ってあり、ジャパリまんが作られている様子が見えました。
大きな機械から、次々にジャパリまんが出てきます。それを見て、サーバルちゃんはお腹がすきました。
「誰?」
びくりと、サーバルちゃんは体を震わせました。聴いたことのある声、ずっと聴いてきた声。
安心できるはずなのに、一緒にいたいはずなのに。胸が痛いほどに鳴っています。
「かばんちゃん? どうしてここにいるの?」
かばんちゃんによく似た子は、サーバルちゃんに一つ一つ説明しました。少し嬉しそうに。
自分はかばんではない。姿はあなたが一番記憶に残っている者になる。
ここはジャパリまんを作る場所である。私は管理するものである・・・
サーバルちゃんはいろいろなことを言われて頭がくらくらしました。でも、この子は自分と同じフレンズであり、ジャパリまんを作ってくれる優しい子なんだと思うと、なんだか嬉しくなりました。
そうだ! 作り方を教えてもらって、かばんちゃんに教えてあげよう! ジャパリまんもお土産にして。そしたらきっと、喜んでくれる・・・
浮つく心を抑え、サーバルちゃんはその子に訊きました。
「ねえねえ、あなたがジャパリまんを作ってるんだよね? どうやって作ってるの?」
「工場見学したいの? いいよ、ついてきて・・・」
その子は、にっこり笑いました。
「ジャパリまんは、どうして作られているか知ってる?」
「フレンズが、自分を失わないように・・・」
「その日を、過ごしていけるように・・・」
「私は、それを考えて、ここにいるの」
二人は、最初の部屋によく似た部屋に着きました。ガラスの向こうでは、蒸される前のジャパリまんが流れていきます。
「あれ?最初から見せてくれないの?」
「ここの工場見学の道は、そういう風にできているの。終わりから、始まりに」
てっきり、最初から見せてくれると考えていたサーバルちゃんはちょっと不満気です。でも、好きなジャパリまんが作られる様子を見るのはとても面白いものだったので、気にしないようにしたようです。
「じゃあ、早く始まりまで行こうよ!」
「サーバルちゃん、落ち着いて。ゆっくりね」
その子は、にっこり笑いました。
「火山からのサンドスターは、フレンズを作るのには最適だけど」
「フレンズが取り込むには濃度が高すぎるの」
「それだとあんまりいいことがないの」
「あとで教えてあげる」
「ほら、次の部屋が見えてきたよ・・・」
また同じような部屋に着きました。ジャパリまんは、中身を詰められて形を整えられています。
「あ!もう見たことある形になってる! あの大きいやつ、どうなってるの?」
「さあ・・・どうなっているのか、わからないの。いつ作られたものなのかも忘れちゃった」
その子の答えに、サーバルちゃんは驚きました。てっきり、全部わかっているものだと考えていたからです。
これは作り方を教えてもらえるのか怪しくなってきました。
ぐっと不安を押し込めて、サーバルちゃんは明るく言いました。
「わからないなら、一緒に考えてみようよ!」
「・・・ありがとう。優しいね」
その子は、にっこり笑いました。
「どうやってフレンズにサンドスターをあげるのか?」
「フレンズにとって取り込みやすい状態にするの」
「じゃあ、取り込みやすい状態は何か?」
「濃度を薄くし、加工しやすくする。一番いい方法があるの」
「・・・次の部屋に来たよ」
大きな機械から、ジャパリまんの生地が流れていきます。
「すっごーい! たくさんあるね!」
「そう、たくさんあるの」
たくさんある。そう聞いたら、忘れていたお腹の減りを思い出してしまって、サーバルちゃんのお腹がきゅうとなりました。
「わわ! えーっと・・・」
「いいの。気にしないで・・・ お腹が減っているのなら、後で食べていいから」
ジャパリまんの作り方がわからなくても、お土産を持って帰ることはできるかも。ついでにちょっと食べちゃって・・・
さっきの不安はどこへやら、サーバルちゃんは嬉しくなりました。
「ほんと!? 楽しみだなー!」
「ええ、楽しみにしていてね・・・」
その子は、にっこり笑いました。
通路を二人が歩いていきます。
うきうきしているサーバルちゃんでしたが、今まで何も聞こえなかった耳に、誰かの声が聞こえてくるのを感じました。
「あれ? ほかにもここを見に来た子がいるの?」
「いいえ、ここに来たのはあなたが最初・・・」
じゃあさっき聞こえたのは?
先に進むたびに、聞こえる声が大きくなります。サーバルちゃんはだんだん不安になってきました。
誰かいるの? そう聞こうとしたとき、突然、その子が振り向きました。
驚くサーバルちゃんを、熱がこもった目で見つめます。
「この先で、ジャパリまんの材料を作っているの」
その子は、にっこり笑いました。
ガラス越しに誰かがいます。
ぼろぼろの赤い服のようなものを着ています。腕がありません。
白かった半ズボンのようなものをはいています。足が片方ありません。
体液が、辺りを汚しています。
回転する刃が、唯一残った足へ向かっていきます。
恐怖と、悲しみと、諦めが混じった瞳で、誰かは刃を見つめています。
「___________________」
足が切り落とされるとき、声にならない悲鳴を上げました。
刃が胴体を切り裂きます。
「____」
空けた口から、ごぼりと体液が流れます。
切断面から何かが零れ落ちました。
瞳は光を失っています。
彼女は、かばんちゃんでした。
もう響かない声だけを残し、サーバルちゃんはその光景を見つめていました。
目を離すことができませんでした。
「ぁ、・・・・ぇ?」
大切な人が、目の前で人でなくなっていきます。
まだ動いている大切なものは、どこかへと持っていかれました。
「彼女は私なの」
声にびくりと震えます。
「私はフレンズのなりそこないなの」
「サンドスターを取り込みすぎるとどうなるか教えるって言ったよね?」
サーバルちゃんは揺れる瞳でその子を見つめました。
「なりそこないは、自分のフレンズを体の一部から作ることができるの」
「そのフレンズもなりそこない・・・」
「でも、何度でも生み出せるということは、一つの利用法を確立させた」
その子は頬を上気させています。
薄く笑顔を浮かべながら。
「腕一本・・・足一本・・・」
「それと引き換えに、フレンズにとってちょうどいい濃度のサンドスターを持つ私を作ることができた」
「私は何度も体を捧げた」
一歩一歩近づいてきます。サーバルちゃんはガラスを背にして動けません。
「体を切り取られるのは痛かった。私が何度も死ぬのを見るのは苦しかった」
「10のために1を捨てる」
「その1に私はなり、みんなを支えていきたかった」
サーバルちゃんの目の前にその子が来ました。
濡れた瞳で見上げます。
熱い吐息が顔にかかります。
「でもあなたが来た」
「1でよかったのに、あなたがここにいてくれたらと思ってしまった」
「一緒にいてほしい・・・あなたを、私のものにしたい」
胸がどくどくといっています。頭がぼんやりとしています。
その子が、サーバルちゃんを抱きしめました。体を預け、こすりつけます。
「私はサンドスターの塊のようなもの。姿はあなたの一番大切なものになる・・・」
「サンドスターを取り込みすぎるとどうなるかはわかっているよね?」
「・・・ねぇ」
ぐっと引き寄せられました。抵抗できずに、サーバルちゃんはその子を抱きしめました。
理性が、少しずつ溶かされていきます。サーバルちゃんの息が荒くなります。
サーバルちゃんの耳に顔を近づけ、その子は囁きました。
「私を、食べて」
サーバルちゃんのお腹が、きゅうとなりました。
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