第20話

洸介のマンションに行くと、

本当に女っ気は無くなってきた。


「それじゃ、こっちの部屋を適当に使っていいからさ」


洸介は中学時代に母親を病気で亡くし、

その後、洸介が高校生になる頃には

父親は元々いた愛人の家で住むようになり

この家で兄と2人暮らしをしていた。


そのお兄さんも2年前に結婚して

家を出た為、洸介は一人暮らしとなったのだ。


と言っても、

いつも女の子がいたので

本当に1人で暮らした事は無い様に思う。


「この前までの恋人とはどうしたの?」


僕はその辺の事を何も聞いていなかったので、

不思議に思った。


「あー、浮気がバレて出て行っちゃった。

でも、まぁタイミング的にはちょうど良かったかもな」


洸介を良く思い過ぎかもしれないけれど、

別れを言い出すよりも

わざとそうしたんじゃないかと思う。


相手にとって、どっちがいいかは別として。


「響太こそ、ナントカちゃんと

バイバイしてきたのか?」


「…っていうか恋人でも無かったし」


「そうなの!?確かに今回はいつもと違うと思ってたんだけどさ」


「洸介って嫉妬とかする?」


「急に何の話だよ 笑」


「いや、お前ってそういうの無さそうだから。」


「それって響太の方だろ?俺は普通に嫉妬するよ。しかも、ずーっとお前に嫉妬してきたし」


「は?真面目に聞いてるんだけど」


僕は冗談を言い合いたかった訳じゃなくて、

さっきのマリコさんのまるで覚悟の様な

話の続きを誰かに聞いてもらいたかったのだ。


「俺だって真面目に話してるって。

だってさ、俺が好きになる子はみーんな響太を好きだったし。その上俺に無いものばっか持ってる。

嫉妬の塊ですよ」


「いつ、お前の好きになった子が俺を好きだったって言うんだよ」


洸介は笑いながら、


「あの子もこの子も、あー、あの子もだ!

って半分嘘だけど 笑。でも半分ほんと。俺ってさ顔いいじゃん?」


「自分で言うなよ 笑」


僕も呆れて笑った。


「でもさー、それだけっていうかさ。響太といると

そう思っちゃうんだよなぁ。それなのに一緒にいちゃうというか、俺ってお前が好きなんだよね」


上目遣いで洸介が見てきたので

僕は少し後退りして


「本気でそういうのやめろよ。」


と言った。


「勘違いするなよ。俺も禁断の扉は開けるつもりないし、何せ女の子大好きだから!」


「確かに」


そこで顔を見合わせて二人で笑った。

そりゃ、そうだ。

洸介ほどの女好きには会ったことがない。


「でも、俺が女の子だったらやっぱり響太を好きになると思うよ。傷つくのは分かっていても」


「なんで傷つく前提なわけ?」


「だって、お前優しくしてくれるけど、好きになってくれないじゃん」


…。


「みーんな、そう言うのな!」


「だって図星だろ?」



僕にとって、

優しくする事と好きになる事

イコールで結ばれないのは

何故なんだろう。


「まぁ、それが響太の詩や曲を、

唯一無二にしてるんだから、いいんじゃんか!な?」


そう言って、洸介は俺の方をぽんと叩いて

冷蔵庫からビールを取って

僕に渡してくれた。










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