桐谷レイト君の決闘

@Omega000

桐谷レイト君の決闘・前編

俺、桐谷レイトがゴールデンウィークに仮想空間に閉じ込められた一件から早一ヶ月近くが経ち、気が付けば梅雨の季節になっていた。

 あの事件の後、色んな面倒ごとが降り注いだ。

なぜなら、俺は完全に職を失い、大家さんに部屋の撤去を命じられ、今月中に出ていかなければならない。

 なぜか口座に一千万が振り込まれていたが、住む家がなくなる寸前の俺はそのお金だけでは生活できないので、短期バイトをすることにした。

 といっても、今じゃ単純作業はほとんどロボットがやる時代なので、俺の考えていたような荷物整理や倉庫管理等の肉体労働、なおかつ単純作業のバイトなど殆ど無く、あるとするなら建築作業の補助や、前の会社並みのブラック労働であろう引っ越しのバイトくらいしかなく、書いてある内容も人を集めたいがごとくウソ淡々な募集内容ばかりだった。

 という訳で、俺は朱美や銀次に相談したら短期でしかも一週間働くだけで5万円のプログラムのバイトを紹介してくれた。

 その仕事内容は、プログラマーが残した仕事をこちらが補助する仕事だ。

 しかも仮想空間でも出来る仕事なので隙間時間で出来る仕事だし、一週間で5万はありがたい。

 まあ、最初は怪しかったが、騙されたと思って募集したらなんと採用され、俺は今月、その仕事をすることになった。

 だが、俺はそこである壁にぶつかる。

 そう、俺はプログラミングなどもう何年もやっていないし、大学の授業でやった以来だ。

 未経験同然の俺は、銀次と朱美にプログラミング言語や組み方を教えてもらいながら仕事をこなし、蒸し暑い雨の日、 俺は喫茶店クリエでやっと一ヶ月分の仕事を終えた。

「ふう、やっと終わった」

俺は自分仕事を終え、椅子の上で身体を伸ばした。

十年ぶりに達成感を感じ、俺は一息ついた後、コーヒーをもう一杯頼み、ノート型パソコンを閉じた。

「お疲れさん」

「色々教えてくれてありがとう」

 俺はテーブルの向かいにいる朱美に感謝した。

「当然のことをしたまでよ」

「朱美さんと銀次がいなければもうこの仕事投げ出していましたよ」

「まあ、今はこういうバイトしかないからね」

 朱美はテーブルに肘をつけた。

「俺が若かった時代とは偉い違いですね、昔はまだアルバイトの募集も多かったのですが」

「まあ、時代は変化するから仕方ないよ、今じゃプログラミングは出来て当たり前ですから」

 時代の変化を痛いほど感じた。

 俺が十代後半、二十代前半の頃はプログラミングできる人などそんなにいなかったが、今じゃ高校生が普通にプログラミング出来き、しかも俺と同世代のサラリーマンより稼げるようになっていると考えると、ちょっと複雑な気分だった。

 まあ、そんな俺も今、プログラミングという仕事を終え、今月の末に20万近いお金が振り込まれる。

 そう考えていると朱美がこう言いだした。

「ところでさ、ちょっと話があるのだけどいい?」

「ええ、いいけど?」

「あのね、シュアハウスを作ろうと思うのだけど、もしよかったらそこで住まない?」

「え?」

 俺は少し驚いた。

 シュアハウス?まさか同棲するのか?

「いや、嫌ならいいんだけど、ね」

 朱美が顔を赤くしているのを見た俺は思わず、

「い、いいですよ」

「え?いいの?」

 朱美はものすごく驚いていた。

「ええ、実は今月中にアパートを追いだされるところだったので、住む場所をどうするか考え中だったので」

「やったー!」

 朱美の喜ぶ姿を見ると、なぜか心が和む。

「声が大きいですよ」

 俺は周りを見回しながら朱美に注意した。

「あ、ごめんなさい」

「わかればよろしい」

 俺は朱美に言うと、

「ところで、なんでアパートを追い出されるの?家賃でも滞納していたの?」

 と聞いてきたので。

「ああ、あのアパートは前の会社の社長と大家さんとつながりがあるから、俺がクビになった事を聞いて追い出すことになったのでしょう」

「ええ、酷―い」

 朱美は驚いていたと同時に社長に怒りを覚えていた。

「まあ、シュアハウスに住むのですから、結果オーライですよ」

「そうね」

「ところで、なぜシュアハウスを作ろうと思ったの?」

 俺はシュアハウスについて気になり、朱美に聞いた。

「ああ、父が知人からある家を買い取ったのだけど、使い道がなくて困っていたのよ、だから、シュアハウスを作ろうと思ったのよ」

「朱美さんの父はどんなお仕事を?」

「父は仮想空間や拡張現実の開発する会社の重役で、取引先のオーナーが別荘をくれたのよ」

 なるほど、どうやら朱美はお嬢様のようで、シュアハウスは取引先のオーナーがくれた別荘のようだ。

「で?その別荘ってどんな感じなのですか?」

 まさか幽霊のでるヤバイ家じゃないだろうな?そう思っていると。

「この近くに山があって、山頂近くに学校があるわよね?」

「ええ、確か」

「その近くに別荘があるのよ、まあ、行けば分かるわ」

 なるほど、行ってみてのお楽しみか。

 そう不安と期待を膨らませていると、誰かが店に入って来たようだ。

 まあ、客でも来たのだろうと優雅にコーヒーを飲んでいると、その客は俺を見つけるとこう怒鳴って来た。

「おいレイト!探したぞ」

 ええ、誰だ?

 そう思い、レジの方をみると、七三分けでスーツを着た男性がガニ股で俺に怒鳴って来のだ。

「なによ!あんた」

「うるさい、あんたは黙っていろ」

男性は俺を睨みつけながら近寄って来た。

「レイト、よくも俺の顔に泥を塗ったな!」

「あ、あの~落ち着いてくれませんかね?兄さん」

 男性は俺のむなぐなを掴み、その光景を見ている朱美と店員も唖然としていた。

「あの~、あなた誰ですか?」

 朱美は男性を怒らせない程度に名前を聞いた。

「ああ?俺は桐谷ユウト、レイトの兄だよ!」

「ええ?レイトのお兄さん?」

 朱美は俺に怒鳴りつける兄貴を見て、驚いていた。

「そうだよ、弟が会社を辞めたと聞いて探しまわっていたんだよ!」

「ま、まあ。とりあえず落ち着いて、ゆっくり話しましょうよ、ね?」

 朱美は空いている椅子を持ってきて、何とか俺の兄貴を落ち着かせた後、座らせた。

「ところで、なぜレイト君の探しに来たのですか?」

「ああ、レイトが会社を辞めたと聞いて、どうして辞めたのか聞きに来たんだよ」

 兄貴はイラつきながら朱美に言った。

「でも、それなら怒鳴りつけなくてもいいのでは?」

「あのね、あの会社は就職活動でくすぶっていたレイトの為に推薦した会社なんだ、なのにこいつは辞めやがった!しかも社長直々に俺に嫌味を言った後、上司にまで怒られたのだ、怒鳴らずにはいられないだろう!」

 いや、やめたのではなくクビになったんだけどな。

 どうやら前の会社の社長は都合よく話を作り替え、兄貴の会社に乗り込んできたようだ。全く、迷惑な奴だ。

「いや、兄さん。辞めたのではなくクビになったんだ」

 俺は正直に話した。

「はあ?クビだ?ウソつくな」

「いや、嘘ついてどうする」

「そうよ、しかもいきなり怒鳴り込んでくるなんて大人としてどうなの?」

 朱美のいう事は正論だ、俺がクビになった事が気に入らないならいっそ俺に直接連絡すればいいのに、わざわざ喫茶店でゆっくりしているところを怒鳴り込んで来ることはないだろう。

 だが、兄貴は変な所で頑固なのか、こう返答した。

「うるさい、若娘が、レイト、この屈辱は一生忘れん」

「わ、若娘だと・・・」

 兄貴の言葉に朱美もイラっとしていた。

 朱美がお嬢様という事を知ったらどんな反応するのやら。

 そんなことを考えていると、兄貴は更に。

「レイト、俺と勝負しろ!」

「はい?」

 兄貴はいきなり決闘しろと言いだした。

「俺が勝ったら今すぐ会社に行き社長に謝罪し、実家へ帰る」

「で?俺が勝ったらどうするんだ?」

 すると、しばらく黙っていたので、

「なにも考えていないのかい。わかった。なら、俺が勝ったら朱美さんのシュアハウスに暮らす。これでいいだろう?」

「な、なんだと?」

 兄貴は目を丸くしながら俺と朱美を見ていた。

「お、お前らそんな関係だったのか!」

「いや、誤解しないでくれ」

 俺は朱美を見ると、

「レイトさん、ふつつかなですが・・・」

「誤解を招くからやめろ。てか、俺は女子高生など興味ない」

「くすん・・・」

 朱美はウソ泣きをし、まるでぶりっ子のような可愛いしぐさで俺を見ていた。

「れ、レイト、お前。そんな趣味があったとはな・・・」

「いや、だから違うって」

「とりあえず、3日後に仮想空間で会おう、いいな?」

 勝手に言いやがって、

「わかった。で?決闘の内容は?」

 俺は一番需要なことを聞いた。

「バトルマシーンをご存知かな?」

「バトルマシーン?」

 なんだそりゃ?すると、朱美がこう説明してきた。

「バトルマシーンは巨大ロボットに乗って一対一でバトルしたり、チームで対戦可能なゲームよ」

「ほう、詳しいな若娘」

「あん?」

 朱美は歯を食いしばり怒りを抑えていた。

「なるほど、ようはマシーンに乗って対戦しろと?」

「その通りだ、それで決闘をする、リアルファイトでもいいが、それではお互い得しないからな」

 へんな所で利口だな、兄貴は。

「いいだろう、わかった」

「いいか?逃げるなよ」

 そう言うと、椅子から立ち上がり、店を後にした。

「嫌な男」

 朱美は兄貴を睨みつけていた。

「昔から嫌な奴なので」

 朱美には同感だ、兄貴はいつも俺を見下していたし、結婚式にも呼ばなかった奴だ。

 嫌な雰囲気の中、俺は。

「ところで、バトルマシーンとは一体」

「ええ?あんた何も知らないの?」

「まあ」

「何も知らずに決闘を受けるなんて馬鹿よ」

 朱美はため息をつきながら俺を見ていた。

「まあ、なんというか受けなければならないような気がして」

「まあ、断れないよね」

 多分断れば強制的に連行され、前の会社の社長の元へ連れて行かれ、謝罪させられていただろう。

 無駄にプライドが高く、頑固だからな兄貴は。

「とりあえず、また色々教えていただいてもいいですかね?」

「いいよ、協力するわ」

「どうも」

 すると朱美は、

「あ、そうそう。今度飯奢ってよ、プログラミングも教えて、あんたのクソ兄貴の決闘にも付き合うし」

「いいでしょう」

 まあ、プログラミングも教えてもらったし、今回兄貴の持ちかけた決闘にも協力してくれるから当然と言えば当然だろう。

「それなら仮想空間で会いましょう」

 そう言うと、朱美は自分のカバンを持ち、店を後にした。

 俺もパソコンをカバンにしまい、そそくさと店を後にし、家路を歩いていた。

 アパートに戻り、大家さんの冷たい目線を無視しながら部屋に戻ると、早速ベッドの上で横になり、VRウォッチを起動し、仮想空間へ移動した。

 仮想空間へ移動した俺=レイは朱美=アキに前もって送信された場所へと移動した。俺は草原の静かな空間で、地平線の向うには山脈が見えた。そこにアキと小太りの男がいた。

「レイ―、ここよ!」

「今行きます」

 俺は二人の近くへ行った。

「すみません、遅かったでしたか?」

「大丈夫よ」

 俺とアキが会話していると、

「やあ、元気そうだね」

 小太りの男が話かけてきた。

「ああ、おかげさまで」

「ところで、僕を覚えているかい?」

「ええっと・・・」

 俺は必死に思い出していると、

「コラ、あの人よ。ノーマンの事件の時に言ったショップの店主よ」

「あ、ああ!そうだ」

 そう、小太りの男はノーマンの事件の時に訪れたショップの店主だ。すっかり忘れていた。

「そうか、あまり覚えていなかったか・・・」

「すみません、すみません!」

 しょんぼりする店主に必死に謝った。

「店主さん、例の件」

 アキが言うと、

「ああ、そうだね。こっちだ、ついてきて」

 店主は手から別の空間につながる青紫の渦を出現させ、アキはそこへ入って行った。

 俺も恐る恐る渦へ入ると、その先は古びた工場のような場所に繋がっていて、中央には50メートルほどで、赤と青の模様に平行四辺形の黄色い目、頭部には二本のナイフの様な刃が装着された巨大ロボットが横たわっていた。

「これは」

「ああ、これはマシーンZEROさ」

 店主は自慢げに言うとアキは、

「これはバトルマシーンで使用できるロボットよ」

「かなり大きいけど、何か規定でもあるのですか?」

 俺が尋ねると、

「ああ、バトルマシーンの世界で対戦するには体長30メートル以上で3分以上活動できるマシーンがないと参加できないのさ」

「結構厳しいですね」

 俺は巨大ロボットに圧倒されていた。

「まあ、あの世界にはガンプラオタクやロボット大戦好きしか集まらないからね、まあ、仮想空間とは言え、素材に集めるのに結構苦労するから、結構お金かかるけどね」

 まあ、あんなロボット作るのにかなり金がかかりそうだ。数十万では済まなさそうだ。

「それにしてもあなたの兄貴ってバトルマシーンのマスタークラスなのよね?」

「え?そうなの?」

 俺はアキの方を見て言うと、

「やけに詳しいから、気になって調べてみたのよ、そしたら、あの界隈ではかなり有名らしいのよ、イベント戦や、大会で結果を残しているらしいし」

 これを聞いた俺は驚いた。

 仮想空間に行きそうな雰囲気の無い兄貴が裏でバトルマシーンにハマっていたとは、しかもネットで有名になっていたとは驚きだ。

 ということは、俺は有名人になった兄貴と決闘しなければならないのか、ちょっと不安になってきたな。

 そう考え、早速ロボットを動かす練習をしたくて、

「あの、このロボットに乗ってもいいですか?ぶっつけ本番は流石に不安ですので」

 と俺は店主に言おうと、困り顔で。

「いやぁ、そうしたいのだが、未完成なんだよね」

「はい?」

 俺は耳を疑った。

「その、まだ光線エネルギーと起動エネルギーが十分入手していなくて、これだと多分動かしても1分も持たないし、ビーム技も使う事が出来ないからあまり意味ないよ」

「マジかよ。てか、光線エネルギーやら起動エネルギーとはなんだ?」

 俺は首を傾げていると、アキが。

「光線エネルギーというのはバトルマシーンのエネルギー源の一部よ」

「そりゃ分かるが、なぜそれが必要なんだ?」

 すると、アキが説明し始めた

「ええっと、バトルマシーンには四種類のエネルギーが使えるの。一つ目は起動エネルギー。マシーンを起動するのに必須なエネルギーよ。二つ目は光線エネルギーと言って、光線技や武器をより強化して使うのに必須なエネルギーね。まあ、大体のマシーンはこの二つを兼ね備えているわ」

「ふむふむ、で?残り二つはなんだ?」

 俺が質問すると、

「三つ目はエレメントエネルギー、属性を宿すことのできるエネルギーよ。四つ目がフュージョンエネルギーで、他の力を融合させることでマシーンを強化できるのよ。まあ、この二つは持っている人が非常に少ないけど」

「なるほどね」

 なんと言うかこう、特撮ヒーローとロボット大戦を混ぜ合わせた感じだな。

「だけどよ、武器があるならそのまま攻撃すればいいだろう?」

「分かってないわね、そのまま使用しても折れるだけよ。鉄の巨人同士が戦うのだから普通に考えたらわかるでしょ?」

 まあ、確かに、普通に殴っても意味無さそうだしな。

「わかった、それで?今その光線エネルギーやら起動エネルギーとやらはどの程度あるんだ?」

 俺は店主に聞くと、

「実は10%もないんだ」

「10%しかないのかよ」

「ごめんよ、本体にこだわり過ぎちゃって、肝心のエネルギーの事を忘れていたのさ」

 このクソデブが・・・。

 俺は店主を殴り飛ばしたい気分だったが、ここは怒りを抑え、エネルギーをどう入手するかを考えた。

「とりあえず、エネルギーを入手する方法を教えろ」

 でなきゃ今すぐ殴り飛ばす。

 すると、店主はタブレットを取り出し、俺とアキに見せてきた。

「これで買えるよ」

「お前、それを先に言え」

 俺は呆れながら店主に言った。

 しかし、タブレットの画面を良く見て驚愕した。

 なんと、光線エネルギーは10%で3000円。起動エネルギーは10%でなんと5000円だ。

 つまり、光線エネルギーは100%買うのに3万以上必要で、起動エネルギーは5万いるのだ。

 本体の素材を作るのにどのくらいいるのか分からんが、サラリーマンのお給料などあっという間に吹っ飛ぶだろうな。

 と、金銭の事を考えていると、店主がこう言いだした。

「これを買うのに結構お金かかるのさ、自分で作る事も可能だけど、結構時間かかるのよ」

「どのくらい時間がいるんだ?」

「全部で一ヶ月かな?自分でガソリンを作るようなものだからかなり時間がかかるし、うまく起動しないことがあるからあまりお勧めしないけど」

 そう聞いた俺は、

「なら買うか。いくらいるんだ?」

「え?いいの?レイ」

 アキが驚いた様子で俺を見ていた。

「明後日、兄貴と対決だからな。ここはお金をかけて完成させないと。それに、動かす練習もしたいからな」

「わかったわ」

 アキが微笑みながら答えた。

 俺は自分の口座から10万円近い金を使い、エネルギーを購入した。

 購入画面を見ていると、アキが。

「なんか、ノーマンの事件以来凛々しくなったわね」

「そ、そうか?」

 俺は少し照れくさくしていると、

「最初出会った時なんか渡しに頼りっぱなしだったのにね」

「おかげさまで」

 俺とアキが笑っていると、店主が。

「あの、いいムードの時に水を差すようだけど、エネルギー購入完了したよ」

「ああ、すまん。で?どうすんだ?」

 すると、俺からタブレットを取り上げ、操作すると、USBケーブルをつなぎ、ロボットの胸につながっている線をつなげた。

 すると、ケーブルから黄色と青の光が伝わり、ロボットの胸にあるコアらしきものに流れていき、パソコンが起動する時のような機械が動く音が徐々に大きくなってきた。

「よし、もう少しだ」

 店主が叫ぶと、ロボットのV字の目と、コアの光が強くなり、そして、ついにエネルギーが満タンになったのかタブレットから満タンになりましたという画面が表示された。

「レイ、上手く行ったぞ」

「本当か!」

 俺は光輝き、今に出も動きそうなマシーンZEROを見ていると、

「早速乗ってみろ」

 と店主が言い、タブレットを操作していた。

「どうやって乗るんだ?」

「ちょっとまちい、今やっているから」

 店主がタブレットを操作し終えると、俺の身体が光の粒子のようになり、マシーンZEROの頭部へ移動した。

 気が付くと、俺は操作室のような場所で立っていて、目の前には天井らしきものが見える。

“おい、気が付いたか?”

 ん?なんだ?

 操作室に店主の声が鳴り響いた。

“今天井を開けるから待っていろ”

「あ、はい・・・」

 すると、天井が真っ二つに開き、夕日の空が見えてきた。

 天井が開き切り、美し夕日の空が見えると。

“よし、立ち上がっていいぞ”

「立ち上がる?どうやって?」

 俺はどうすればいいのかわからずにいると、

“普通にベッドから起き上がるようにすればいいんだよ、とりあえずやってみろ”

 俺はしぶしぶベッドから立ち上がるような感じで動くと、マシーンZEROから鈍い音が聞こえた。

「ええ、なんだ?」

 俺が立ち上がると、目の前にある画面から夕日の空と、地平線の先にある山脈が見えた。

“よくやったな、合格だ”

「おい、一体何が起きたんだ?」

 俺は何が何だか理解できず、店主に聞くと。

“そのマシーンはお前さんと同じ動きをする。今工場の上を突っ立っているよ”

 試しに下を見ると、確かに、真下にアキと店主が見上げていた。

“よし、ここからジャンプしてみな”

「え?いいのか?」

 俺はジャンプする動作をすると、マシーンZEROが勢いよく飛びあがり、大気圏を飛び越えるくらい高くジャンプした。

“そこから光線エネルギーを使用してみろ”

 俺は光線エネルギーを使用してみると、マシーンZEROの腕と足首から黄色い光線が出され、一定時間、空中を浮遊したのだ。

「おお、すごいぞ」

 光線が消えると、マシーンZEROは大きな地鳴りと共に地上へ着地した。

“初めてにしては上手いじゃないか”

「そ、そうですか?」

 俺は戸惑っていると、

“初心者の大多数は僕の工場を破壊してしまうのさ”

「そ、そうなんですね」

“そんじゃ、そこらへん歩いてみろ”

 俺は歩く動作を繰り返していると、マシーンZEROもその通りに動いていた。

 どうやらマシーンZEROは俺と同じ動作をするようで、マシーンZERO工場の周辺を歩きまわっていた。

 すると、胸のコアが青色から赤色に変化し、警告音が鳴り出した。

「おい、なんか鳴りだしたぞ」

“ああ、マシーンZEROの活動時間は3分だからな、残り1分になると赤く点滅するんだ”

「マジか」

 活動時間がある事をすっかり忘れていた。

「で?どうすればいい?」

“ああ、活動時間が終わるまで適当に散歩していていいよ”

「いいのかよ・・・」

 とりあえず残り1分の間、俺は周辺を歩きまわったり走りまわったり、下手くそで意味不明なダンスをしていた。

 まあ、周りにいる人からしてみたら何がしたいか分からないロボットに見えただろう。

 そして、残り10秒になった頃、俺は工場へと戻り、横たわった。

 すると、再度体が粒子になり、マシーンZEROの外へと移動した。

「お疲れさん」

 俺のもとにアキが駆け寄って来た。

「ありがとうございます」

「それにしても、君上手いね、初心者なのにあれだけ動けるなんて」

 店主は拍手しながら誉めてきた。

「いえ、的確な指示をくれたおかげですよ」

 すると、店主は腕を振り回しながら、

「それじゃあ、早速だが、明日から戦闘訓練だな」

「ええ、そうですね」

 俺は返事を返した。

 とりあえず今日は解散し、現実世界に戻った俺はベッドでゆっくり身体を休めた。

 仮想空間の疲れが現実世界でも感じているのか、俺は脱力感に浸っていた。

「今日は寝るか・・・」

 俺は夕食を食べる気力もなく、ベッドの上で眠りについてしまった。


 次の日、俺は朝食を済ませ、早速仮想空間へ移動し、店主とアキがいる場所へ移動した。

「お待たせしました」

 俺は二人の元へ駆け寄ると、店主はマシーンZEROの近くにあるパソコンと睨みあっていて、アキは俺を見つけるや。

「おはよう、来たわね」

「ええ、店主は一体なにを?」

 俺は店主の方を見ると、

「ああ、今格闘モーションをマシーンZEROに読み込ませているのよ」

「モーション?」

「いきなり格闘しろと言われても無理だから、マシーンZEROに格闘モーションを読み込んでいるのよ」

「読み込むとどうなるんだ?」

 一体に何をするのかものすごく不安だ。

「それは入ってみてのお楽しみじゃないかしら?」

 そう言うと、アキは俺の後ろへ回り込み、店主のいるほうへ押し出した。

「おう、来たか」

「ええ、で?今はなにを・・・?」

 俺はパソコンの画面をのぞきたかったが、店主のドデカイ図体のせいで見えない。

「訓練の準備だよ、なにせ1日3分しか活動できないし今日中に色々仕込むのなら頭を使わんとな」

 そう言うと、ドヤ顔しながら俺を見た。

「さて、そろそろ時間だから入ってもらおうか。準備はいいか?」

「ええ・・・」

 すると、俺はまたもや光の粒子に変わり、マシーンZEROの内部へと転送された。

“よーし、そんじゃ訓練の時間だ、くれぐれも時間を無駄にするなよ”

「わかりました」

 俺は歯を食いしばるような厳しい特訓をすることになってしまった。

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