第01話 目覚め
ギルド、『ベヘアシャー』(君臨者の帝国)の本拠地、シュテルクス卜城。
典型的な白い大理石が敷き詰められた床。入口から玉座までの道のような真っ赤な
一番奥の壇になった場所の玉座に腰を据えたアレックスが、イベントの結果を振り返る。
「――っとまあ、今回も我らがベヘアシャー帝国の勝利で終わった訳だが、今回の報酬は既にみんなも知っている通りだ。適用は明日の八時からだそうだ」
途端、今回のイベントに参加した数百人の歓声が玉座の間に響いた。
「これもみんなのおかげだ。これからも俺たちは最強であり続けるぞ!」
その言葉に合わせて玉座の間の歓声が、より一層大きな声となって鳴り響いた。
「おーけー、おーけー。時間も遅いし、その元気は明日に取っておいてくれっ。それじゃあ、以上! 解散!」
アレックスがそう締めると、
「おつかれしたー」
だとか、
「おやすみー」
などと言ってから、玉座の間を出て行く者や、そのままログアウトして姿を消す者たちと方法は様々だ。
つい今しがたまで熱気で包まれていた玉座の間は、五分もしない内に物寂しい雰囲気となった。
そこに残ったのは、アレックスと幹部を含めた四人だけ。玉座の間は広すぎた。が、今更場所を移すのも億劫だ。ゲームの世界では真昼間だが、現実世界ではとうに夜の一二時を回っている。
「今回はいつにもまして無茶したわね。風間くん、仕事で何かあったの?」
ゲームの世界に居ながらリアルの話を持ち掛けた霊獣族の
「神門部長、聞いてやってくださいよ?」
レンレンを役職で呼び、不健康そうな真っ青の容貌をしたユニーク種族である鬼人族は、
リバフロ最強ギルドであるベヘアシャー帝国の幹部は、
それ故に、彼ら幹部だけのときは、よく本名で呼び合ったりする。
「あー、確かに、『今日は無茶苦茶暴れたい気分なんだよ!』とか、言っちゃったりしてましたもんね」
イベントでの会話を思い出し、ケモケモがアレックスを茶化した。
「うるせー。余計なこと言わなくていいんだよ。このケモ耳オタクが!」
「それ、俺にとっては褒め言葉っすよ」
「ぐっ」
この憎まれ口がなければ可愛い後輩なんだがな、と思いながらもこの青年、
「話して楽になるなら聞くよ、話」
「ああ……いやっ、いいすよ。実はもう眠くて眠くていつ寝落ちするかわからなくて」
少し残念に思いながらも
「そう、じゃあ、気が向いたら明日でもいいし、話してよ。どうせインするでしょ?」
「ええ、当然ですよ。何と言ってもレベル上限解放ですからね。他のプレイヤーが一か月立ち止まっている間に、俺たちは先に進めるんですから」
子供っぽくにかっと笑い、現最強であるアレックスが差をより広げるためにそう宣言した。それから、それぞれのインする時間を確認し、時間はバラバラでもパーティーを組んで早速レベル上げをする約束をして解散した。
アレックス以外の三人は、その場でログアウトしたが、
「はあーやっと寝られる……つっても、もう夜中の二時か」
と、彼だけはシステム画面に表示された時間を確認し、城内にある皇帝の私室へと向かう。
どこでもログアウトは可能だが、アレックスはゲーム内のベッドに寝っ転がってからログアウトすることにしている。それは、彼の平凡なリアルの寝室と、皇帝らしく豪奢に装飾された寝室との差を実感し、脳内の切り替えを行うためだった。
リバフロがあまりにも理想の世界過ぎて、自分自身を失わないようにするための彼なりの儀式でもあった。
歩き慣れた廊下を暫く進むと、ミスリルのプレートアーマー姿の近衛騎士風のNPC傭兵が自室の前に二人立っていた。
アレックスがその扉に近付き、「開けろ」と、一言。
すると、「はっ!」と小気味よい返事と共に、この世界の敬礼に当たる仕草――左手で拳を作って左胸にナイフを突き立てる――をしてからNPCが扉を開けた。
開け放たれた扉を抜けると、秘書風のダークスーツに赤縁眼鏡といったドレアをしたスレンダーなダークエルフが立ち上がり、アレックスの行く手を阻む別の扉を開ける。
「俺はこれから寝るから、誰も通すなよ」
「
意味のないアレックスの命令にそのダークエルフは、恭しくお辞儀をする。
アレックスが更に奥へ進むと、扉が独りでに閉じた。
そこからは完全にアレックスのマイルーム扱いで、許可を出しているプレイヤーしか入出ができない。
ログアウトすることを決めていたアレックスはそのまま真っすぐ右手に向かう。新たな扉を自らの手で押し開けた。
「ああ、やっぱり限界だわ……」
感じるはずのない頭痛に頭を押さえる。フラフラになった足取りで、シルクのシーツが掛けられたキングサイズのベッドに身を投げた。ゲーム内であるため、その柔らかそうな感触を感じられないのが残念でならない。
「八時なんかに起きられそうにはないな……」
そんな呟きの中、メニュー画面のログアウトタブを選択し、アレックスの視界が闇に落ちる。
ベッドに沈み込む感覚を身に受けて現実世界に戻ったと思ったアレックスが、ヘッドマウントディヴァイスを取り外すべく頭に手をやる。
「あれ?」
あるべき物の感触を感じず、間の抜けた声と共に目を開けると、見慣れた寝室だった。
が、
そこは、荒木風間のではなく、アレックス――皇帝の寝室のままだった。
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