劇団やきそばグランギニョル
「やきそばグランギニョル」は、かつて存在した若手アングラ劇団だ。活動期間は2000年代初頭の四年間ほど。作風は、アングラと言うだけあって、泣く、叫ぶ、呻く、吐くと激しく、出演者は男も女もほぼ全裸に近い格好で舞台と客席を縦横無尽に暴れ回ったという。肝心のストーリーの方は、死体と姦淫しラジオ体操することを崇める新興宗教の話や、ゾンビの痴呆老人がヒグマの女子中学生と援助交際する話、ぬいぐるみが軍事クーデターを起こして国会議員たちをなぶり殺す話など、現代的で過激なナンセンスものが多かったが、それ故に評判は鳴かず飛ばずだったようである。
さて、そんな「やきそばグランギニョル」だが、とある公演によって『検索してはいけない』存在となってしまう。それは、第11回公演「労働と自慰」でのこと。なんとこの公演中に、出演者が死亡してしまうのである。それも事故ではない。台本通り、演出通りの「死」なのだ。事件後にインターネットで公開された台本によれば、二幕三場に『主人公が包丁で通行人Aを刺す』とあり、ここで主人公を演じる俳優は本物の包丁でそのとおりのことを行った。そのあと、共演者もスタッフも気に留めることなく、血まみれで横たわる通行人Aの死体と共に芝居を進め、終幕までやり遂げてしまうのである。
更に恐ろしいことにこの殺人演劇は、公演3ステージ目が終わるまで誰にも通報されなかった。くだんの通行人A役は、ステージごとに人を変え、なんと通算三人殺されたというのだ。観客はそもそも少なかったようだが、それでも、演技か本物の死亡事故かぐらいは、もっと早く誰かわかりそうなものだが……。しかし何よりもわからないのは、共演者やスタッフの感覚である。過激な劇団の中には、舞台中に排泄行為や自傷行為をするものもあるらしいが、殺人はどう考えてもアウトだろう。ちなみにこの「労働と自慰」、全12ステージを予定していたようなのだが、果たして通行人Aも12人殺す予定だったのだろうか。警察の調べによると、各ステージで殺された通行人Aの死体は、小道具や衣装と共に楽屋にただ雑然と積まれてれていたというのだから驚きだ。「やきそばグランギニョル」はどうやら正真正銘、本物の「アングラ劇団」だったようである。
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