世にも 記憶食堂

 言わずとしれた長寿番組、世にも奇妙な物語。約30年にもおよぶ放送の中には、「懲役30日」や「おばあちゃん」など、いわゆるトラウマ回と呼ばれる作品も多数存在する。検索ワードの「記憶食堂」は、そんなトラウマ回のひとつとして知られる世にもの初期作品。そのあらすじはこうだ。

 仕事や恋人のことで悩みを抱え、自殺しようと自宅のマンションの屋上にやって来た主人公の青年(演じるのは「楊貴妃の双六」や「ロンドンは作られていない」など、多数の世にも出演作を持つ野村宏伸)。しかし、なかなか飛び降りる決心をつけられずにいた青年は、ふと眼下に一軒の見慣れない古びた食堂を見つける。自殺を中断してビルを降り、引き寄せられるようにその食堂へ入ると、女将からこんなことを告げられる。

「この食堂では、何かを食べると、忘れていた幸せな記憶を思い出すのです」

 よくわからないまま、とりあえず好物のカレーライスを頼む青年。一口食べてみると、不意に仕事での昔の成功体験を思い出す。それは入社したての頃、些細なことで先輩に初めて褒められた、忘れていた思い出だった。続いてカレーの付け合せのコンソメスープに口を付ける青年。すると今度は、恋人と付き合いたての頃の、初デートの記憶がありありと蘇る。何気ない会話、二人で笑いあったこと、繋いだ手の温かさ……。涙を流しながら、カレーとスープを完食する青年。自分の人生にはこんなにも素晴らしいことがあったのだと知り、彼は自殺を辞めることを心に決めた。

 と、女将が現れて、他にはなにか食べないのかと尋ねてくる。青年は、多少の満腹感を感じつつも、まだまだ忘れていることがあるかも知れないと、うどんとおにぎりを頼む。うどんをすすり、おにぎりを頬張り、大学での友人たちとの思い出や、幼少期の両親との思い出が蘇り、またしても涙を流す青年。すっかり思い出に浸る喜びに目覚めた青年は、餃子、唐揚げ、エビフライ、ラーメンと次々に料理を頼み、食べきれずに吐いてしまいながらも無理やり口に食べ物を詰め続ける。

 そうして時間は流れ、テーブルに皿やどんぶりがうず高く積もり、苦しげにうめきながらも、まだ追加注文をしようと女将を呼ぶ青年。しかし、どれだけ呼んでも女将が現れない。ふらふらと立ち上がり店の奥へと向かうが、どこにも女将はおらず、それどころか厨房にも誰もいない。何でもいいから食べたいと厨房を漁るがどれだけ探してもなぜか食材が何も見つからない。もはや禁断症状のようなイライラが募り、思わず爪を噛む青年。すると、生まれたばかりの自分を抱く両親の笑顔の記憶が蘇る。そこで青年は女将の言葉を思い出す。

「この食堂では、“何か”を食べると、忘れていた幸せな記憶を思い出すのです」

 そう、つまり、食べ物を食べる必要はなかったのだ。この食堂で “何か”を食べれば思い出せる。そのことに気づいた青年は、両手の爪をガリガリとすべてかじり尽くし、さらに両手の指をかじり、手のひらにかぶりつき、ついには厨房に転がる出刃包丁を手にして自分の腕を切り落とそうと大きく振りかぶって……暗転。

 途中まで感動系の話かと思わせておいて終盤からの恐怖の展開、指をかじり血が吹き出すなどの今のテレビではお目にかかれなくなった容赦ないグロ映像、思い出の魅力に取り憑かれた青年を演じる野村宏伸の鬼気迫る狂気の演技、さらには野球中継の延長により大幅に繰り下げとなった結果、深夜0時過ぎの放送となってしまったことなど、あらゆる要因が複合してトラウマ回となったこの「記憶食堂」。リアルタイムで見たことがある人はかなりの世にもマニアと言えるかも知れない。

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