戦う詩人と人形の町、または賭博人
Fafs F. Sashimi
#1 運命とチャンスは別物
見上げていた。
目の前には壊れて途中から光っていないネオンサイン。そこには"
突っ立っていると路地裏にあるその入口を行き交う人がちらほらと見える。そういった人間は私のことを絶対に一瞥していた。賭博場に似合わぬ可憐な少女が居ると見ているのか、それともみすぼらしい浮浪者の子供が餞別を待っていると見ているのか。そんなことは私には問題ではなかった。
手元に握られたレジュ紙幣はその現実を痛いほどに表している。今、ここに立っているのはその日暮らしを変えるためだ。まともな服も買えず、路上で適当な仕事を得てはその日の命を繋いでいるこの生活を変えるためだ。
ピリフィアー歴1992年だか、1993年だか知らないが
"
自分を突き動かしていた希望。その呟きは壁に染み込むようにして消えていった。賭場に足を踏み入れようとすると身体が震えた。入り口を通るとすぐに聞こえてくる喧騒に緊張感が高まる。部屋の中では様々なゲームが行われていたが、その隅で殴る蹴るの好き放題をされている奴が居ることに目が行った。イカサマがバレればあの様になると聞く。私にとってはまともに賭けても負ければその日の食事は抜きということになる。それはそれで死活問題だったが、仕事は他にもある。そう考えれば今までここに来なかったことが馬鹿らしく思えてきた。暇して後方の安全地帯のリゾートで私腹だけでなく自分の腹を肥やしているとある戦争成金曰く、人生を変えるチャンスはそこら中に転がっているという。自分にとってはこれがそのチャンスとやらなのだろう。
適当なテーブルに向かって、手を打ち付けた。その中には100レジュ紙幣3枚が入っていた。
"
テーブルに付いていた男は見下しながら、そういうと手でハエを払うように私の目の前で手を振った。身なりからストリートチルドレンだと気づいていたのか、最後の言葉に皮肉が込められているように感じた。私達の家といえば路上だ。その言葉は見えないところで勝手にくたばってろと言うのと何ら大差ない――にしても、デーノの市民としては兼ね一般的な――考え方だった。
私はテーブルに身を乗り出して、男に詰め寄った。賭けが出来ないにしても、煽られたなら黙ってはいられない。
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"
皮肉を言った隣の男がイライラしながら、私の言葉に反応した。
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"
皮肉男がそういうとイライラ男はため息を付いて諦めたような顔になった。この間、数分。テーブル付きのディーラーは静かに目を閉じながら、カードを切ったりしていた。目の前の会話に興味も無いようだった。
イライラ男はいきなり下衆な笑みを浮かべながら、私に詰め寄ってきた。人差し指を私の額に押し付けると少し強めに突いた。
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"
"
"......
"
臆病者と言われた瞬間、血が沸騰するほどに怒りの感情が湧いてきた。お前のような遊び人に私の人生が分かってたまるか――そんな言葉も出ずにテーブルを叩きつける。イライラ男は半分嘲笑気味に、皮肉男はビビって目をパチクリさせながら私をまじまじと見つめていた。
"
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