第8話 急襲

side凛子


頭の中は混乱している。


かつて弟がやっていたようなゲームの世界がこの世界であるという事実。


そんな事実と共に現れたあの時の少年。藤島健。


彼の中身は死への恐怖ばかりだった。

右の扉と左の扉を選べ、間違えたら死ぬ。

もちろん選ばなくても彼に待つのは死だ。


とても簡単なテスト問題があったとして、彼は100点を取らないと死ぬのだ。


どれほどの辛さだろうか。


普段の自分なら、何も考えずに助けるだろう、助けになろうと考えるだろう。


でも、これはウチの気持ちなの?

ゲームの設定に動かされてるだけじゃないの?


だから悩んでた。悩んでたら呼ばれた。


ここに来なきゃいけない気持ちに無理矢理されたのだ。

精神と時の狭間と呼ばれたこの場所に。これもゲームの知識で得た場所なのだろう。


彼はレベルアップと言ったもの、前の怪物もそうだったが、怪物が死ぬとマナを拡散する。そのマナを浴びたり、吸い込んだりすることで、肉体が強くなり、魔力が増えていくのがわかる。


こんな怪物がいるという話を魔法学校で聞いていたが、初めての体験だった。


そして、このダンジョンと呼ばれる場所で嫌という程することになる。



………


「ダッシュストリーム!」

戦闘の際、特殊な陣形を取ることでできる技を使い敵にダメージを与える。


ここにいる怪物はグミスライムという敵で、プニプニしてるただのデカいグミだ。


「才子は右を!凛子は左を!俺は正面をやる!」

「承知!」

「わかった!」


スライムが消滅する。そうするとマナが身体に入りまた一つ壁を超えた気がする。

そして使えなかった魔法がまた使えるようになった気がする。


呪文を唱えるは戦闘中はともかく、素に戻ると恥ずかしいので、そっとかけておく。


うん、発動できる。


藤島健曰く、咄嗟に使えるように1回は撃っておくべきだとかなんとか。


「少し休憩しようか」

藤島健が自分にドリンクを渡してくる。


「………ありがと」


自分の好きなフルーツオレだ。

内面を見透かされてるみたいで気分が悪いが、フルーツオレに罪は無いので飲む。


これを飲むだけで昔から気力が出てくる気がするのだ。


才子ちゃんには別の飲み物を渡していた。


この人はこんな綺麗な人にあんなことやこんなことを…とか考えてると思うと嫌な気持ちになってきた。


「これをめちゃくちゃ繰り返すぞー」


また戦闘に戻る。



……………



何時間経っただろうか。


手渡されるフルーツオレを捨てたくなってきた。もういらない…


時計の針は進んでない。


体感は1日ぐらい経った気はする。

強くなった。グミスライムも杖で一回叩くと消える。


また一つ壁を越えた感覚がある。


頭の中で覚えてる魔法は全て使えるようになったはず。


まだ強くならねばならないのだろうか。



………


ふと、嫌な感覚が沸き起こる。

あの夜と同じような…


「何か嫌な予感がする…」


そう呟いた瞬間藤島健の表情が変わる。



「なん…だと…急げ!ダンジョンを出るぞ!!走れ!!」

「何?なんなのよ?」

「いいから走るんだ!!」

もの凄い形相で藤島健が走る。


まあ、帰れるなら嬉しいので、ひた走る。

私は空を飛べるし、才子ちゃんは忍者なので見た目通り早い。むしろ藤島健が遅い。


ようやくダンジョンの外に出ようかという時


「凛子!」


藤島健の叫びと共に







ウチは死んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る