【短編】美女とオタクとゲームで一つ屋根の下

MrR

一つ屋根の下でゲーム

 Side 桐乃 コウジ


 昔から俺はオタクだった。


 高校生になればクソッタレな中学時代ともおさらば出来て漫画やアニメで描かれているような非日常的な学生生活を送れる。


 そう思っていた時期があった。


 だが特に何事もなく一年が過ぎて「ああ、現実なんてこんなもんだな」と思っていた矢先に――


 何故か俺は女の子を自分の家である一人暮らしには広すぎる一軒家にあげて自分の部屋で一緒にゲームをしていた。


 オカッパ頭で胸がある。童顔で可愛らしい女の子。背は高二JKの女性の標準ぐらい。とにかく喜怒哀楽の変化が激しく、一人暮らし真っ最中な俺には騒がしいぐらいだった。

 

 異性として意識しているが、同時に「妹がいたらこんな感じだったんだろうか?」などと考えていた。


 彼女の名は福原 アヤセ。

 

 クラスで人気の女の子で噂ではアイドル活動なんかしているとか言われていた時期はあったがそれは誤解である。


 彼女もまた重度のオタクだった。    


 今一緒にゾンビの大軍を銃火器で殺すゲームをプレイしている。


「そんなにゲームやりたかったのか?」


「うん。女の子って色々と金を使わなきゃならないからね。中々ゲーム買う金確保出来ないの。だからアルバイトでもしようかと思ったんだけど親に反対されちゃって」


「大変なんだね、君も」


「てか私女の子だよ? コウジは男で屋根の下でHな事は考えたりしないの?」


「正直言って考えた事はあったけど今の関係続けたいからいい」


「なにそれ? 新手の告白? 顔赤いよ?」


 と、ゲーム画面でゾンビの頭を吹っ飛ばしながらアヤセは笑う。

 最初はこんな感じに打ち解けてはいなかった。


 初期の頃は自分はベッドに寝そべったりしてゲームのプレイを観察してツッコミを入れていたりしていたのだが何時の頃からか協力プレイ出来るゲームは協力している。

 

 どうしてワザワザ自分の家に上がり込んでまでゲームをプレイしているのか正直謎ではあるがそれを聞いてしまうと何故だかその関係が終わりそうでいやだった。



 ふと彼女とこうなったキッカケを思い出す。


 単純にゲームショップで彼女を見掛けただけだ。


 そして挙動不審になり、彼女は逃げ出して、後日呼び出しを食らってアレコレと告白――と言っても自分がゲーム好きであるとかそう言うので恋愛的な意味はない。

 

 そこから彼女との奇妙な縁が始まり、今に至った。



「それにしても過激なゲームが好きなんだな」


「あーうん。そうだね」


 今やっているゾンビゲーとか十分グロい部類だ。

 見えてはいけない人体の内部パーツとかこれでもかと言うぐらいに出て来る。

 他にも世紀末を舞台にしたゲームやらもプレイしたし、かと思えば女性がやるようなゲームとはイメージが程遠い、お色気満載な方面で過激なゲームとかもやった。


「他の友達とゲームは出来ないのか?」


「本当はしたいけど。オタバレとかするのが恐いからね」


「んじゃあ俺との付き合いも止めといた方がいいんじゃない? どっから情報漏れ出すか分かったもんじゃないぞ?」


 俺は学校ではボッチのオタクだ。

 たぶん周りからもそう思われているだろう。

 それと――高校生になって分かった事だが学生社会は一般常識とかそう言う物が通用しない独自のルールがまかり通る事が多々ある。


 その終着点が陰湿なイジメとかだ。

 

 オタバレを警戒するのは当然だろう。


「私との関係続けたいと思ってるんじゃないの?」


「ああ。だがそれで福原さんが不幸になるんなら俺はいやだ」


「優しいんだね」


「・・・・・・ただ寂しかっただけだ」


「何か大人っぽいよね。コウジ君って」


「中学の時、クラスメイトの死人を目にしたからな」


「え?」



 俺は語った。

 

 中学時代の忌まわしい記憶を。


 中学ではイジメが横行していた。


 俺はそれを知っていた。


 クラスの皆も、他のクラスの連中も全員知っていた。


 それを特に問題視していたワケではなかったが――イジメを受けていた生徒が死亡して問題が明るみに出た。


 そっから雪崩式に状況は最悪となっていく。


 警察も介入した。


 一人一人取り調べが行われた。

 

 自分も例外なく取り調べが行われた。


 当時の俺はまるで正気に戻ったように泣きながら全ての罪を告白して、知っている限りの情報を全て暴露した。


 その時、取り調べを行っていた警察官は平静を装っていたが怒りを抑え込んでいるようにも見えた。アレは犯罪に大して怒りを覚えているのではなく、今にして思えば怒りの矛先は見て見ぬフリをして救えた命を見捨てた自分達にもその怒りは向けられていたのではないだろうかと思った。

 

 その時に自分の心の針は止まったように思える。


 修学旅行もキャンセル。

 保護者が関わる行事もキャンセル。

 卒業式はまるでお通夜のような雰囲気で執り行われた。


 高校生になれば何かが変わる。

 アニメのような明るい出来事が起きて変わる。

 そう思っていた。

 だが変わらなかったからこそ、今この何時終わるか分からない福原さんとの今の時間を終わらせたくなかった。



「話してみて思ったが――自分から行動しようとしない奴に幸せなんか訪れるワケないわな。異世界に憧れるオタクとかと一緒だ――だけど積極的に動かなくて正解だったように思える」


「どうして?」


「ほら? 今は犯罪者の家族は全員犯罪者みたいなところあるじゃん。俺もそうなる可能性も考えられるだろう」


 他の国ではどうだかしらないが礼儀正しい民度が高い国の実態がこれである。

 福原さんもそれを何となく理解していたからオタバレ隠しをしていたのだろう。 


「大変だったんだね」


「で? どうする? もう通うのやめとくか?」


「やめない。コウジ君今なんか捨てられた子犬みたいな顔になってるよ」


「そ、そうか?」


 そう指摘されて急に恥ずかしくなって来た。


「あのさ。私達もっとこう真剣に付き合わない?」


「え? 何を急に――」


「後数ヶ月もすれば受験生だしさ、それに大学生や社会人とか――そう言う風に人生死ぬまで続くんだよ」


「それがどうして急に付き合う事に?」


「欲しくなったから。私を分かってくれる人が傍にいて欲しいから」


「ッ!?!?」


 何も考えられない。

 なにこれ? 

 天使の様な笑みで告白された?

 なにこれ?

 ラノベか何かの見過ぎですか自分?


「だけどこう言うのって本当は男の人から言わないとダメだよ? そうだ、何時かこれをネタにからかってやろっと」


「おい真剣にちょっと待て――正気か?」


「うん、正気だけど?」


「ゾンビゲーやりながら告白とかマジでありえないんですけど?」


「なにエセ臭いギャル口調で言ってるの?」


「いや、それは――はあ・・・・・・俺も腹括るわ」


「じゃあ告白聞かせて欲しいな」


「えっと――」


 頭が干上がる。

 喉がカラカラする。

 体全体が熱い。

 汗がダラダラでている。

 心臓がとてもドキドキしている。


 それでも言わねばなるまい。


「その、えーと、キッカケは確かに、アレで、正直常識的に言うと――ってこう言う前置き抜きにして――貴方の告白で好きになりました!! 付き合ってください!!」


「わーわー!? そんなやけっぱちに言わなくていいじゃん!? たぶん外にも響いたよこれ!?」


 などと言う感じになり、今日のゲームはこれでお開きになりました。



 数日後――


 事前に学校へ許可を取り、イジメで死んだクラスメイトの墓参りをすませた。

 

 本来の墓は別の場所にあったのだろうが。


 確かに彼は学校で死んだのだ。


 これでようやく心の時計の針が動き出したように思える。 

 

 どうして今更お墓参りをしようとしたのか。

 キッカケをくれたのはアヤセだった。


 俺はずっと後ろ向きに人生を見ていた。


 イジメが起きる前からずっと前から。


 しかしアヤセがキッカケはどうあれ、家に上がり込んできて、恋仲になって、逆告白されて、告白して――過去と向き合い、未来に歩まなければならない――だから墓参りに行ったのだ。


 

 家に帰宅し、一緒にゲームをする。

 アヤセがゲームをして留守番してくれていた。


「墓参り出来た?」


「ああ。友達とはどうだった?」


「うん。私と付き合っている事とか全部話したから」


「そうか――っておい!? それって――」


「何時かはバレるでしょ。気にしない気にしない」


「はあ。それもそうか」


 ピンポーンとインターホンが鳴り響く。

 猛烈にイヤな予感がした。


「アヤセそこにいるの!?」


「彼氏紹介して!?」


「私もゲームしたい!」


 外では三者三様の女の子の叫び声が。

 あれ? ルート確定してからいきなりハーレム系ラノベみたいになったぞ? 


「取り合えず機種をスイッチに替えましょうか?」


「はあ――もうどうにでもなれ」


 どうやら楽しい夢はまだまだこれからのようだ。


 END 

 

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