犠牲 第四章

〈城田孝助ともうします。

 これはぼくの遺書です。

 もう時間がのこされていません。なので乱ぴつになろうかとおもいますが御容しゃください。まずこの手紙をうけとったかたにもうしあげたいのですがぼくの死体をみつけたらからみえる大学の病院に搬送してください。そのときにはポケットのなかにこの手紙と一しょに封入したけんこう保険証を提示してほしいのです。法律上ゆるされるのかはわかりませんがぎょう幸にもぼくが脳死じょうたいになってぞう器移植が可能ならばぼくのからだのすべてを入院中の皆川さんにじょうとします。もし法律上不可能であればすきにしてください。ぼくのぞう器をだれかこまっているひとに移植してもらえたらさいわいです。こんなぼくでも最後の最後にはひとの約〔原文ママ〕にたてたのだから満足です。といえどもねがわくばぼくのいのちで皆川さんをすくいたいとおもいます。ぼくは人生でいくつもの奇せきをおこしたみたいです。神様もしいらっしゃるのならば最後にぼくのために奇せきをおこしてください。奇せきとは無論ぼくのちからで最後まで皆川さんを救じゅつすることです。

 皆川さんへ。

 こんなぼくをともだちにしてくれてありがとうございました。皆川さんは忘れてしまったかもしれませんがぼくは一度皆川さんにたすけてもらってるんです。幼稚えんのころでした。もともと不細工なぼくは幼稚えんのころからみんなにきらわれていてなかんずくおんなのこたちからはだかつしされていました。幼稚えんのころなので記憶が曖昧もことしているのですが多分年中組のころにおんなのこたちのいじめがはじまったのです。せんせいのいないところでなぐるけるの乱ぼうをされていました。ほかのおともだちは気付いても気付かないふりをしていたのです。そこで皆川さんがぼくをかばってまんしんそういになってくれました。ぼくは恋をしたのです。それからおんなのこたちは皆川さんをいじめるようになりました。ぼくはけっ起したのです。〈死ぬまで皆川さんをしあわせにしよう〉という決意です。今度はせんせいのいないところでぼくがおんなのこたちと対寺〔原文ママ〕して皆川さんへのいじめをくいとめました。ここからぼくの〈皆川さんをまもるためだけ〉の人生がはじまったのでした。

 事実を書きたいとおもいます。

 幼稚えん時代に皆川さんが道路にとびだして車にひかれようとしたことがありましたね。あのとき皆川さんの制服をひっぱってたすけたのはぼくです。といえども皆川さんは宮内くんに感しゃして〈結婚する〉といっていたのでぼくは宮内くんにしっとするようになります。幼稚えんを卒えんして皆川さんと宮内くんがけつ別したのちぼくは小学校中学校高校大学と皆川さんをおいかけておなじ学校に進学しました。小学生時代にはおなじクラスになったこともあり窓から転落しそうになった皆川さんの背中をひっぱってたすけたこともあります。中学時代には真夜中に皆川さんがでかけるのでじゅってきそくいんして金属バッドをもってついてゆくとごうかんされそうになりその車をバッドでめつうちにしました。高校時代にはやくのとりひき場所として有名なライブハウスにいったのでりあとをついてゆきたすけだしたのです。やがて大学に進学すると別学部に宮内くんが入学したことをしってはやく告白しなければとしょうそうしこうかんのラブレターをわたしてしまいました。ぼくはストーカーになったのです。

 すみませんでした。

から筆跡はみだれてゆく〕ストーカーとして宮内くんにげき退されてからもぼくは片思いをやめられませんでした。遊えん地でのデートまでついていったぼくはまた皆川さんをたすけました。ゆえにこそふたりのき絆はつよくなります。ぼくはかんがえかたをかえました。〈皆川さんは宮内くんとしあわせになってくれたらしい〉と。それからは皆川さんと宮内くんがつつが無く結婚できるようにおいかけてゆきました。そこでこんかいの事古〔原文ママ〕となったのです。ぼくはけんこうほけんしょうにドナーとしてのいしをあらわしこのてがみといっしょにポケットにいれてじさつすることにきめました。ぼくのどりょくをみながわさんがきせきとよんでくれるのならばきっとこれがさいごのきせきになります。ぼくのほんとうのきせきはみながさわんとみやうちくんをかいこうさせたことです。どうかいきてください。みながわさんはあぶなっかしくてたすけられてばかりだったけれどこんかいはしょうがくせいをたすけるためにじこにあいました。だからこれからはみんなをたすけてやってください。きせきはきっとおこります。

 みながわさんへ

 しろたこうすけより〉

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