親友 第三章

 こうせつで教室はいんしんとしている。

 生徒たちはあいまいと勘付いていた。

 小説家志望の生徒にも〈うわさ〉はでんされた。学級内にくだんの弁護士と同期である弁護士のまなむすめがいるらしくが発信源となり波紋状に〈うわさ〉はえんされていった。内藤清一が辣腕弁護士に委嘱してしのはら京介を起訴するらしい。学級内の生徒たちにとって〈実験〉は公然の秘密となっていたのでけいかつとして経緯をはるかしていた。階段の踊場でどんなるふたりの友人とたむろしながら小説家志望の生徒はいう。〈一旦実験からおりるわ〉〈長高の入試勉強もあるし〉〈親が大金そそいで家庭教師やとったりしてさ〉〈新人賞の期限もあってまじで小説書いてるし〉うんぬんと。ろんなる友人たちは沈黙する。小説家志望の生徒のみならずみずからまで起訴されるかもしれない。小説家志望の生徒はいんのふたりともけつべつしてたくさいしてゆく。いくばくかのえいきよけみして七階建てのマンションに帰宅するとり訴状がほうちやくしていた。顔面そうはくの両親が息子にも譲渡する。原告は内藤清一。被告はしのはら京介。罪状は自殺ほうじよおよび殺人未遂。証拠は廃ビル解体業者の撮影した映像記録となっている。

 家庭内はふんうんとする。

 さんがんたる七階建てのマンションだが中古物件らしい。怒髪天をいた両親の言質をとるときようあいなるマンションをすみにすることでびたせんを捻出して息子の教育費にとうじんしていた。しようしやなる居間にて父親はふんまんやるかたないがんぼうで息子をきくじんする。こくそくたる息子は〈実験〉のいちいちじゆうれきした。父親は息子の両肩をわしづかみにする。いわく〈おまえを長高にいかせるためにいくらの大金をそそいだとおもってるんだ〉と。〈賠償金を支払わされたた一家破綻だぞ〉と。〈おまえがおもってるじように金をつかってきたんだ〉と。きよする母親もざんぼうする。いわく〈少年院や少年刑務所にったらもうだいがくはあきらめてもらうからね〉と。〈多分こういう裁判なら少年院は決定だよ〉と。〈わたしたちの努力はなんだったの〉と。えんのような状況にきつきゆうじよとして息子はいう。〈学歴もお金もどうでもいいよ〉と。〈おれはほんとうに小説家になりたかったんだ〉と。〈わかってくれなかったでしょ〉と。〈だからうさばらししなきゃならなかったんだ〉と。じゆうたんにくずおれてつづける。〈おれの人生もうおわっちゃったよ〉と。

 息子は部屋にちつきよした。

 せいひつたる室内でPCを起動させてみずから執筆したこうかんの小説の原稿ファイルをひらく。おしなべていとおしいファイルたちだ。ぜんぺん最後のえつをしてけつけつたるUSBメモリに転送する。ほうふつとした。そういえばあいつのゆめは画家だった。真面目に絵画を制作していたかもしれない。おれとおなじだ。〈実験〉のときも自分の作品のことをおもっていたんだろうか。息子は〈遺書〉をごうせんとした。両親に謝罪することはない。謝罪するとしたら画家志望の生徒へだ。息子は画家志望の生徒のために〈遺書〉をつづってUSBメモリとともに制服の内ポケットに挿入した。けんけんごうごうかんかんがくがくと居間で両親が激論をかわしているうちにマンションからとんざんする。〈実験〉を遂行していたはいきよのマンションにちんにゆうして七階までとうはんする。遺書とともにUSBメモリをあしもとにのこして七階の廊下のりからとびおりる。一瞬で地面が眼前に肉薄する。〈あもう死――〉とおもった刹那きゆうきようひやくがいに激痛がほとばしりこつかくが湾曲するおとや頭蓋骨がひびれるごうおんが脳内にひびく。 

 わたしはせきをおこした。

 小説家志望の生徒は一階の花壇をはずれてかいわいの地面に激突した。衝突の衝撃により複雑怪奇なるふうぼうふくしておりとうからねんちゆうたる血液とのう漿しようがあふれ股間からは失禁した小便が漆黒のしみをひろげている。ありきたりのたいのありさまだ。めいちようと死んだわけでもない。大手通から裏通りへスマートフォンを掌握した上半身裸の青年と背後からついしようする警察官がばくしんしてきた。青年はだれかとれんらくしている。いわく〈やべえって大麻きめてたら警察官にみつかってよういま逃げてんだけどよううわなんかひとが死んでるわ〉と。小説家志望の生徒に勘付いた青年はてきちよくして警察官にほうこうする。〈ひとが死んでます〉と。やく中毒患者逮捕どころではなくなった警察官は生徒のにくたいひんしつして〈とびおりたばかりだたすかるかもしれない応急措置するからおまえ一一九番してくれ〉とさけぶ。青年はスマートフォンをかけなおし一一九番する。いわく〈救急です〉と。〈場所は大手通のはいきよのビルで〉と。〈急病か事故かわからんけど意識はないようです〉と。

 サイレンがめく。

 めいちようと死んだわけではなかった。

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