偶像 第二章

 世界がさんらんとしていた。

 人生ではじめてのことだった。

 ゆきちゃんに戀してからアルバイトをはじめた。らんなる性格ながら全身全霊でしんしようたんしていった。新聞配達からの袋詰めCDのこんぽうといったにくたい労働にびんべんしながらけつけつたる資本金をろうだんしてゆく。りゆうりようたるゆきんこのライブにまいしんするのは無論握手会でゆきちゃんとかいこうするためにも資金が必要だった。握手会でうたびにゆきちゃんはいってくれた。〈熊谷さんまたいにきてくれたの〉と。〈ダヨーちゃんもかわいいね〉と。あんたんたる自室に帰還するとぬえてきなる感慨にひようされる。TVとPCの画面だけがかくやくせんしやくしている室内にてミクダヨーのフィギュアと会話する。〈ダヨーさんぼくほんとうはゆきちゃんと結婚したいんだ〉と。〈駄目だよねゆきちゃんは全人類を愛してるんだ〉と。ゆきんこの公式サイトにて〈ゆきちゃん誕生日イベント 誕生日プレゼントの譲渡会開催〉とあった。ゆきちゃんしやしん集を購入して参加するけつをした。ミクダヨーにいう。〈ダヨーさんの大型フィギュアあげようとおもうんだ〉と。

 ゆきんこはきよくべんしていた。

 りゆうじようはくの毎年恒例ご当地アイドルコンテストで優勝するために投票権をろうだんするファンをばいしなければならない。興奮の坩るつぼだったライブを遂行しろうこんぱいしたスタッフたちとともに九人乗りのワゴンバスで夜間移動していたゆきんこたちはけんけんごうごうかんかんがくがくと議論していた。こめちゃんいわく〈コンテストで優勝しても全国区にはなれないでしょ〉と。ときちゃんいわく〈月給はあがるんじゃないの〉と。さどちゃんいわく〈おまえら真面目にかんがえろよこれだけ金ふんだくってコンテストで優勝できんかったらどもも激怒するよ仕事どころじゃない〉と。陰陰滅滅とていだんしていた三人は最後尾にゆうすいと鎮座するゆきちゃんをかえりみた。こめちゃんいわく〈ゆきちゃんはどうなのあのたち〉と。ときちゃんいわく〈あのツインテールのでかぶつ気持ちわるいよね〉と。さどちゃんいわく〈よくたえられるね〉と。たるゆきちゃんは照明の明滅する夜景を凝視しながらほおづえをついて沈黙している。

 ごうおんめく。

 めいもうたるはちがいせんぱくを通過せんとした運転手が絶叫しワゴンバンが急停止せんとした。衝撃をうけたゆきんこメンバーが無表情のまま運転手席をかえりみる。かいなるワゴンバンの前方をこんほうたるタンクローリーらしきしやりようが激走したかとおもうとしやりようはワゴンバンに激突してちら側にてんした。はくのタンクローリーの巨大なる筒状の荷台がワゴンバンの運転手席を圧迫してゆく。はくの荷台はワゴンバンの前方からこつぱいりようれきしてゆき圧殺された運転手は脊椎やろつこつの露呈した肉塊となる。かいなる荷台はさらにワゴンバンの外殻を破壊してゆき後部座席にとんざんせんとしたスタッフたちをれきさつしてゆく。こめちゃんが〈あ〉と素頓狂なるこえをあげるとゆきんこメンバーたちもとうや胸郭から荷台に圧迫されていってワゴンバンの外殻がつきささったこともありきゆうきようひやくがいは襤ぼろぼろまんしんそうとなって脳髄やぞうろつがむきだしにされてゆく。最後部に鎮座していたゆきちゃんはぼうぜんしつしたふうぼうながらぜんとしてきようかんの景色をながめていた。荷台はゆきちゃんに猛襲してくる。

 あんたんたる自室で準備していた。

 最愛のゆきちゃんの誕生日会でプレゼントすべきミクダヨー大型フィギュアが配達されていたのでTVとPCのこうぼうのなかでこんぽうをひらいていると夜中のニュース番組を放映しいていたTVで速報が発表された。TVキャスターいわく〈先程午後八時五十五分頃新潟県新潟市にてご当地アイドルゆきんこをのせていたワゴンバンが石油運搬中のタンクローリーと接触事故をおこした模様 タンクローリーの運転手は過重労働で意識がもうろうとしていたらしく信号無視したようです タンクローリーの荷台がワゴンバンを圧迫して運転手ふくめ搭乗者八名が死亡 最後部座席の女性は生存しましたが意識不明の重体――〉と。まつしぐらにPCのブラウザを起動させて状況をせんめいする。ないにゆきんこのライブにきようどうしてくれたくだんのさいはいからガラパゴス携帯にれんらくがあった。いわく〈さどちゃんが死んださどちゃんが死んだ〉と。〈ゆきちゃんはどうなったの〉と尋問すると〈ファンクラブ内のうわさだとさどちゃんとときちゃんとこめちゃんが死んでゆきちゃんはなんとかっていうのうしようがいで植物人間になったって〉という。

 けつした。

 ツインテールの頭部をスキンヘッドにする。

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