第五話 時間

時間 第一章

 わたしはせきをおこす。

 これはおぎわらのぞみのせきの物語だ。

 新潟県から移住してきたのうよりアパートの掛時計はうごいていなかった。めいちようたる時間を認識したいにはTV画面や携帯電話の時間表示にしやしている。てきとうながららんな側面もある父親はおうりゆうらんした〈時計をみるものはなまけものである〉というなにがしかのアフォリズムを姉妹にけんでんしていたものである。今日としかいいようがない今日も父親が台所でふたりのべんとうを調理しているに姉妹はあいあいとしてTVを閲覧していた。NHKのニュース番組を映写しているようだが前述のとおり幼稚園の送迎バスがほうちやくする時間を確認するためにすぎない。ニュースではタイムマシンの話題を放送していた。いもうとはあねに尋問するがておしえてくれない。いもうとは台所へばくしんし父親に絶叫する。〈タイムマシンてなに〉と。父親は調理しながら無愛想にこたえる。〈未来へいったりむかしへもどれたりする機械だよ『ドラえもん』にでてくるだろうでもね特殊相対性理論においてぶつたいの時間的遡及性には限界がみちびかれるから現代宇宙物理学では――〉

 わたしはせきをおこした。

 不彀本ぽこぺんなるところもある父親の日常茶飯事たる謎語の途中でいもうとは〈わかった〉とほうこうしてまたTVのある居間へばくしんする。不器用なる父親が調理を完遂せんとするになると同時に姉妹はカウントダウンをはじめた。カウントダウンがおわると〈わんこバスがくるよ〉と父親に絶叫する。ふたりは丁度完成したべんとうを通園かばんにほうしてアパートからまいしんしてゆく。背後から父親が〈車に気をつけろよ〉とさけぶ。実際には姉妹の通園通路には道路を横断する箇所はない。姉妹は『スイートプリキュア♪』の主題歌を絶叫しながら送迎バスのほうちやく地点へむかう。途中奇妙な衣装をてんじようさせた女性が正面から疾駆してきてあねにだきついた。身長差からはいするかたちで抱擁しながら女性はいう。〈やっとえたねこの日のために生きてきたんだよ〉と。〈今日がなかったことにもできるんだけれどそうするとわたしはわたしの最愛のひととえないことになるの〉と。〈これが最後のおわかれだけどね〉と。ゴールデンレトリバーのふうぼうをした通称〈わんこバス〉がほうちやくするとくりげるかたちで女性はてのひらをふりながら疾駆していった。

 夢幻泡影の出来事だ。

 わんこバスがほうちやくするとふたりはまた『スイートプリキュア♪』の主題歌を絶叫しながら搭乗していった。きんじやくやくとしている。わんこバスが幼稚園に到着するとふたりはそれぞれの出席簿に出席シールを添付してもらいそれぞれの教室にまいしんした。あねは年長組なのでひらがなの勉強をする。年中組のいもうとはお絵描きの時間になった。しゆんぷうたいとうたる教室に鎮座しお絵描きノートをひろげるとせんせいから指示がでる。〈みなさんのかぞくの絵をかきましょうおとうさんでもおかあさんでもいいしおばあちゃんでもおじいちゃんでもいいしみんなそろっていてもいいですけどむずかしいですよ〉と。いもうとは家族全員ひつきよう父親と姉妹の肖像画にせんとけつする。おともだちがせいひつとお絵描きするなかいもうとはれいめいからの出来事をほうふつとして絶叫する。〈今日ゆめちゃんがねへんなおんなのひとにだっこされたの〉と。顔面そうはくとなったせんせいは園児からいちいちじゆうさいてつけつしてゆく。せんせいが警察にれんらくするとひるの時間となり帰宅の時間がきた。バスに搭乗する地面がうごいた。

 同時刻父親はだいがくにいた。

 ぼうしたしようへい教授としてしようへいされただけのうだつのあがらないだいがくである。といえどせいかくなる学生たちはせいひつとして聴講している。けんじんなる教室にて黒板に相対論の概論やプランク定数の説明をごうしながら教授はいう。〈――ぶつたいは光速にちかづくほどゆっくりうごくことは高校物理でならいましたね光速をりようするとぶつたいはタイムスリップするというやつね特殊相対性理論ですまた時空連続体仮説からいって空間と時空はこうはんされて重力にひっぱられますからプランク単位系でタイムスリップはつねにおこっているとかんがえてよい実際我我の重力によってこの教室の時空連続体はわんきよくしているわけですですがおしなべて特殊相対性理論でぶつたいが光速をこえることはないとこうかくされるのでハイデッガー的時間の矢のなかでタイムスリップはおこりますが過去への移動は不可能ですゆゑにタイムマシンが製造可能だとひようぼうする宇宙物理学者はおしなべていんちきです――〉教室中の携帯電話のアラームがめく。教授はほうこうする。〈講義中は携帯を〉学生たちはしようじゆしあう。〈地震だって〉〈何処で〉〈緊急地震速報だよ〉

 地面がゆっくりとうごいた。

 今日がやってきたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る