さみしい何かを書く

目箒

わざと言わない

 待ちわびた春だった。違う高校に進んで、一度は離れたけれど、同じ大学に行くことになった。また一緒にいられるのだと。

 だったらルームシェアでもしたら、と双方の親からの勧めで同居と相成った。必要なものを買い揃えるために二人で訪れたディスカウントストア。平日の朝、開店直後はしんと静まり返って白々としている。春なのに、秋のような乾いたキャスターのカラカラと言う音が、そばを通った台車から聞こえた。

「卵焼き器いる?」

「いらない」

「そう」

「お前が欲しいなら買えよ」

「ううん、続くかどうかわかんないからいい」

 卵焼きが食べたかったら、普通に焼いて切ればいいや。そう思いながら、手に取った品をラックに戻す。

「でも、まさかお前が俺とルームシェアしてくれるなんて思わなかった。一人が好きだと思ってた」

 何気なく、隣で皿を選ぶ彼に告げる。自分とは仲良くしてくれた彼のことを、自分は大好きだったが、彼がどこまで好いてくれたかは知らない。嫌われてはないだろうくらい。

「本当にそう思ってる?」

「え?ああ、うん」

 静かに問われて口ごもる。そんな自分を見て、彼はふっと笑った。

「そんなことないよ」


(お前のことだけは好きだからね)


 客のいない、朝の店。二人だけ空間に取り残されても、それだけはわざと言わない。

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