ミミルは十歳、賢い子 ※
40分、1780文字程度。手直し20分程度。合計所要時間60分。
毎度お馴染み、なんちゃってSF短編。
天才の話が続いてしまったが、全てはアインシュタインの脳が輪切りになっていることを思い出したせいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――はい、皆さん。全員揃いましたね!
今、四年A組の皆さんがいるこちらのコーナーでは、この施設にいるミミル・プロジェクト・日本支部参加者の皆さんの生前の資料やプロフィールを展示しております。
例えば目の前のこの写真ですが、これは参加者の一人、ナオミちゃんの脳を輪切りにしたスライドの拡大写真です。
ナオミちゃんは大分県の公立小学校に通う女の子でしたが、三年前に飲酒運転による交通事故に巻き込まれて、七歳でこの世を去ってしまいました。
しかし生前の小学校での素行やご両親のお話から、高いIQを持つ可能性があるとして、当プロジェクト参加者候補に選ばれたので、脳死判定が出た段階で、当機関にて彼女の脳を引き取ることになりました。
その脳を解剖・分析したところ、科学――――特に微生物研究にて優秀な成績をおさめる素質があるということが判明し、晴れて参加者として脳の再生が行われました。
これまでの展示で説明した通り、ミミル・プロジェクトは志半ばで亡くなった優秀な若き学者や、将来有望でありながら死んでしまった子供たちの脳を解剖・分析し、そのデータを元に脳を再現、保存。引き続き研究や学習を続ける機会を与えるという企画です。
これにより我々人類が前時代では救えなかった、あらゆる天才の可能性の芽を保存し、将来の有益な発見や発明に繋げることができると言われています。
実際、北米や中東などのプロジェクト先進国では、ミミル・プロジェクトで再生・保存された頭脳が参加した研究プロジェクトにて、既に三種の画期的な治療薬の開発と、レアメタル加工のための新技術が発表されています。
実際には、脳死判定された後の脳だけでなく、それ以外の全身も再現することも、今の技術であれば可能だと言われています。
しかし、いわゆる「死者の蘇生」――――――それも一定以上の何らかの才能をもつ人でなければ再現しない、というのは倫理的に問題があるとして、現段階では頭脳のみの再現にとどまっていることは、先程のプロジェクトの歩みを展示したコーナーで、もうお話しましたね。
とはいえ頭脳のみでも学習・研究・及び私達とのコミュニケーションに支障がないよう、一定以上の補助機能を加えております。
再生頭脳でも人工音声やモニターでの会話はできますし、何かを見たり聞いたりすることは皆さんと同じようにできますから、安心してくださいね。
更には人間的な活動が研究・及び学習には不可欠として、参加者にはヴァーチャル・リアリティ世界での生活も用意されています。
皆さんももしかすると、オンラインゲームやヴァーチャル・SNSにて、当プロジェクト参加者と会話したことがあるかもしれませんよ。
このスライドの脳の持ち主だったナオミちゃんも、まだ基礎的な学習が終わらないまま人生を終えてしまったということもあり、現在は再生された脳でオンライン・スクールの授業を受けています。
三年前に亡くなった時七歳でしたので、現在は十歳。ここにいる四年A組の皆さんと同い年に当たります。
我々の始めの解析通り生物学の方面にて素晴らしい成績を残しており、現在は飛び級で中学生の授業を受けております。
フィールドワークにも興味を示しており、最近ではスタッフへの遠隔指示を通して近所の河原の散策も行っています。成績次第では自分で操作できるポータル・ロボットアームの申請も可能であると聞いて、更に熱心に勉学・研究に取り組んでいる最中です。
今回の解説では、皆さんと歳が近いということもありナオミちゃんを紹介しましたが、その他にも、ミミル・プロジェクトには様々な人が参加しています。
このエリアに展示されている参加者の生前の資料を見て頂くことで、このミミル・プロジェクトにより天才の可能性の芽を、あらゆる形の妨害――――――死や病気、また生前の頭脳の持ち主本人の選択などから守ることが出来るのだということが、分かって頂けるのではないかと思います。
ここまでで何か、質問はありますか? ―――――大丈夫ですね?
それでは今から、十五分間の自由時間にしたいと思います。
この展示エリアで興味のあるものがあったら、自由に見学してくださいね。
何か分からないことがあったら、遠慮なく私や他のスタッフに訊いてください。
これまでの話で気になることがあるけれど、皆の前では聞きにくい……なんていう質問も、大歓迎ですよ。
トイレに行きたい人は、あちらの角にあるカーテンの先にあるので、集合時間までに済ませておいてください。
次の展示エリアでは、特別にミミル・プロジェクト参加者の者数名の再生頭脳とのトークイベント・および質問コーナーを用意しております。
参加者本人に訊きたいことがあれば、この時に訊いてみても大丈夫ですよ。
それでは、十五分後にまた、このナオミちゃんの脳スライドの前で集合しましょう。
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