小児粛清工場からの脱出②

バードマンとひろみの二人と別れて自分の寝床に戻ってから

思考を悶々と続けている。


実はひろみは、この件で何故かバードマンやおバカとこの施設からの

脱走に合意していないみたいだ。そういや、ここの施設の者の中でも

常に主立って子供らに対し感情にモノを言わせて傷つけていたのは

間違いなく雑役係の加藤なのは間違いない。

ただ、ひろみはコレに関して何の積極的に関与も何もしていない。

ここでおバカの頭が弾き出した答えとは、もしかしてだが

彼女も実は遺体処理か何かの形で関与している為、

おバカが今夜、ここでやってた事に協力は出来ても

ここからの脱走とかいったそれ以上の事が実は不可能なのでは無かろうか?

もし、そうだとすればひろみが、この施設内において

何であんな腰にボロ布を巻いただけの全裸で居るのか

加奈子が知り合いと謀って嘘ついてここへ連れて来られるだけあって

暗愚とされるおバカもやっと飲み込めて来たというものである。


そう。彼女はここの施設の者らに忠誠心があるからとか

忠義を誓っているから裏切らないんじゃなければ、

ここがやけに恋しくて固執してる訳でも無い。

彼女がそこまで忠義あるくらいなら、さっきの段階で

ここの施設の責任者夫婦にメールを送るなり、

雑役係の加藤が何かされるのを見越してここの子らの誰かに

おバカやバードマンが何かしてもいい様、予め保険をかけているはずだ。

それが無いからして、彼女は実はもう心の何処かでこの生活に

嫌気がさしており誰かが終止符を打ってくれるのを望んでたのだろう。

要するにひろみは、法律上では人を殺し

死体を遺棄したという扱いになっているのだ。

だからおバカとここから逃げようなんていう返答が、彼女の口から

絶対に出てこないのも判った。恐らく施設の責任者夫婦と雑役係が

ここの子供らを殺した件は一度や二度なんて少ない件ではあるまい。

ただ、その乱暴の果てに子供を死なせてしまい当時、

一番よく言う事を聞くひろみに命じ手伝わせ出したのが最初だろう。

それに彼女にあんな恰好をさせているのも、これは恐らくおバカの憶測だが

裏切りや逃亡を防ぐのも兼ねてるが、雑役係の加藤にとって

自分の性欲処理の対象でもあったのだろう。本来、彼女は

義務教育を受け将来は、高校か専門学校か大学か、自分の望む道を

歩んで然るべき道を歩んでたはずなのに、16歳にも満たぬ若さで

あの様な、あられもない恰好をさせられているのである。

それにもう彼女は、見た目こそ10代の乙女ではあるが

中身は最早、ボロボロと言えよう。

もし、おバカの予想が間違って無ければひろみは

もう既にあの若さで、何名かの子は母親になっていたのだろう。

たが、雑役係の加藤にとって当時孕んでいたひろみのお腹の子供とは、

この施設の子らと同じで鬱陶しいだけと存在でしかないのか、

既に全員、生まれて早い時期の内に

加藤や施設内の誰かに殺されるか、あるいはそれらによって

ここでの仕事の妨げになるという理由であるという理由から

堕胎させられるという形でこの世からは無かった事にされたのだろう。

実際、この施設に加藤の子が訊ねたのを見たことが無い。

それにここの施設の夫婦も子供は嫌いらしい。

その二人の家族が訊ねてくるのを見たことは無い。

だからこそ、こんな未来の無い施設を存続させたくないからこそ

ひろみはおバカの反逆にすべてを賭け様としたのだ。

唯一の懸念としては、ひろみが刑事訴訟法でなにがしかの

重い裁きを受けはしないだろうかという事だ。

でも、彼女は自身の未来を半ば失った事を百も承知の上でおバカに頼ったのだ。

そもそもこんな施設が乱立する原因を招いているのも、

今の社会が格差社会であり、今の社会の上に位置する者たちが

今の世の中の状況のひとつでもあるコレを放置しなければ

こうはならなかったのだ。今の政治家や官僚、企業や富裕層らの価値観の

根底にありがちな「富裕層以外は、人間では無い」なんて思いあがった結果、

この世の誰かが、敢えてこういう件のような憎まれ役を買って出ないと

世の中は誰も関心を持たないだろう。おバカがやらかした今夜の件で

もし明日、警察なり税務署なり市の社会福祉協議会なり何なりが

ここの立ち入りしてそこから、この施設の不都合な真実が露呈し

それの後ろ盾を成している市の代議士が今の貴族生活から一転して

刑務所へ転落するとしてもそれはおバカの責任では無い。


そう悶々とした、一夜が明けるとおバカは、夕暮れ近くに

何やらひろみからとある事を聞かされ抜き差しならぬ

事情を抱える事になった。あの雑役係の加藤のヤツが

殊の外、激怒しているらしい。どうやら警察と市の担当が

入れ替わり立ち代りに雑役係の加藤に詰め寄ったのが原因だ。

無論、誰がやったのか特に名前は明記はしておらん。

だが、やましい事情を抱えている向こうとしては

この施設でパソコンを扱えるヤツは限られている。

この場に居ない施設責任者夫婦以外じゃ、ひろみとおバカと

新一と金坂だろう。まず新一は雑役係の加藤とは

反りが合わず、この前から行方不明だ。

金坂は高齢に加え脳溢血で倒れて、入院中だ。

ひろみは今の彼らからすれば疑う理由が無い。

となると加藤や施設責任者からすれば消去法で判断すると

どうしてもおバカに疑いの目がが行くのは時間の問題だ。

あの施設責任者夫婦も大急ぎでこちらに向かってはいるものの、

こういうときに限って、渋滞に見舞われるもので

ここへ戻って来るのは早くても夜の9時を回るという。

酒に細工を施されて、悪酔い気味なため偏頭痛気味なのか

激怒していた加藤はひろみに対し、施設責任者夫婦が

ここに帰り着くまでの間、おバカの身柄の拘束を頼んだ様なのだ。

ちなみにバードマンのヤツはというと最後まで

おバカの関与も自身の共犯も最後まで自供しなかったという。

それが原因でとうとう、怒りに任せた加藤によって

撲殺され死んだという。それでも怒りの収まらない加藤は

ひろみに対し、おバカを身体を拘束しろと強硬に言ってたという。

でも彼女としては内心、このままおバカを向こう側に

売る様な真似などしたくはない。願わくばひろみとしてはおバカが、

危険を察知して彼女の許から逃走したって事にして欲しいという。

おバカとしては、願わくば彼女と共に逃げ出したかった。

だがそれは叶わない。何故なら彼女は、法律の上では

殺人犯扱いとなっており司法も社会もきっと彼女の事など許しはしない。

だから彼女はおバカに対し、自分の事など構わず早く逃げ出して欲しいと

内心、言いたいのだ。半ば躊躇したものの

「済まん。いつか・・・」

いつか、戻って来てやると遠回しにでも言う。

おバカの言葉をそう受け取ったのかひろみは軽く頷くと

この施設から逃げ出すように走り出したおバカに対し

何もせずただ見送るだけの様だった。

それからのおバカはただもう、ひたすら走り続けた。

途中で眠くなりそうになった。

だが眠ったら終わりだ。必ず捕らわれてしまう。

そんな思いで、夜も更ける山の中を走り捲った。

こうしている間にも、自分を逃がした事を知った

雑役係や施設の責任者夫婦は自分らが信用していただけに

怒りに任せて彼女に大いなる憎しみをぶつける一方で

こちらの事を沢山の人手を増やして探し出しているだろう。

そこで何処か手頃に一晩過ごせる場所は無いか探し出した。

どうやらそこに廃屋らしき場所を見つけた。

一見、何かが幽霊なり何なり出てきたら怖いなとは思った。

でも出てくるかどうか判らない幽霊より生きてる横暴な

大人の方が怖い。どうせ、朝まで過ごさせて貰うまでだ。

そして朝を迎えた。辺りを見回した。

どうやら自分以外、誰も居ないみたいだ。

近くに誰も居ないのを確認してからすぐに街へ向かった。

警察署前の所で巡査がおバカを見つけた。

そして保護された際に、メモリースティックを持ってたので

警察はそのメモリースティックの内容を解読した。

するとその内容にただもう驚愕するばかりだ。

おバカを保護したと聞き、施設はおバカの引渡しを要求して来た。

もしここで警察がそのとおりにすればおバカはもう終りだっただろう。

だが、ここで天佑が来た。警察はおバカからの供述により

捜査した結果、数々の施設で行われていた事が明るみになっていた。

しかもひろみも彼らに殺されていたのか、遺体の遺棄を試みようと

していたのを警察側も確認していた。

この話は非常にこの上なくとんでもない事になって行った。

その結果、警察としては施設なんかに引き渡すなど出来様など無く

むしろ、逆に施設側の夫婦と雑役係の逮捕となり

そこで日常的に横行していた小児らに対する

虐待と強制労働の実態を喋らされる事になった。

無論、警察はおバカからも知っている限りの事を喋らされた。

この話はやがてマスコミを介して明るみになり加奈子としては

面子は丸潰れに到る結果となった。それというのも、

加奈子が息子を預ける理由になったというのも元はと言えば

昼下がりの情事と引き換えに加奈子は相手の富裕層の男から

生活費と資産運用のための資金を捻出していたのだった。

それを甘えたい盛りの子とはいえ、昼下がりの情事の密会の場に

場の空気を読まず、雰囲気をぶち壊す様なヤツに

お灸をすえてやろうという加奈子の厳しさの表れから

思いついたのが今回、あの施設に預けるっていう事だったのだ。

それを良人のヤツは我が子にあるまじき勝手な真似して

英雄ぶった挙句、この件で新聞社やノンフィクション作家に

嗅ぎ回られ、彼らにとってのメシのタネを蒔きやがったのだ。

思い出せば思い出すほどムカムカしてきた加奈子は、警察から

息子さんの身柄の引き取りの連絡を聞き、すぐに応じると称し

警察署の前でおバカと対面した。

この時、何も知らない刑事さんや警察の職員さんとかは

母子の感動の再会とでも思っていたらしい。

だが、そんな雰囲気は次の瞬間に

一本の爆竹を鳴らしたかの様な頬を叩いた音と共に消えたのだ。

驚いたのはその場に居た刑事さんや警察の職員さんだけではない。

音を聞いて振り向いた人たちも、誰かがこの警察署内で

爆竹でも鳴らしたのかと思ってしまったくらいリアルな音が聞えたのだ。


「お、お母さん!幾ら何でもあんまりですよッ!?」

一番先に反応したのは中年の男性刑事だ。

「そうです!この子は貴女に怒られる筋合いは無いんですぞ!?」

パートナー組んでる若手の刑事も異議を唱える。

だが加奈子は二人の事など意に介さず、我が子を責める。

「アンタは何で、私がわざわざあんなとこに送りつけたのか

もう忘れたみたいね?なら、そのクズ同然のアンタに思い出させてやるわ。」

それって何だと二人の刑事は思った。

本来、ねぎらうべきはずなのにそれすらやらず

逆に、罵声を浴びせてまであんな小児への人権抑圧が横行している様な

施設におくりつけ、あわよくば自分の手を汚す事無く相手方をして

我が子を葬り去らせるなんて世にも恐い事をやろうとしていたのだから。

「アンタ、私が仕事中は勝手に部屋の中に入って来ず

外で過ごして来いって言ってたわよね?」

「でも母さん、お金をくれないじゃん。」

「食べ物だったら、探せばあるでしょ!?

お水だったら公園の水を飲めばいいし。」

「それじゃ、食べ物はどうするんだよ?」

「そんなの死ぬ気で探せばいいでしょ!?

場合によっては、相手から何かを貰えばいいんだし。

それでも向こうが断るのなら相手の頭を金づちで殴ってでも

食べ物やお金を手にすればいいんだし。」

それを聞いた刑事さんは堪らなくなった。

要するにこの母親は、自分のお金を作るのにマメな一方で

息子の良人に対しては、自分のカネは自分で調達する

サバイバルをやれっていうのだ。要するに、古代地中海にかつて実在した

スパルタという島国の様な自分の生きる糧は自分で手にしろというのだ。

ちなみに現代において生徒である学童の基本的人権や能力的な限界を

半ば無視した厳格教育の代名詞とされるスパルタ教育の弊害とは

こういう自分の実力を極限まで高めるために

下手すれば自らを生命の危機に晒しかねない事や、

弱肉強食と称して自分が食いつなぐために人としてやってはならぬ

強盗殺人や窃盗などの粗暴犯罪や詐欺行為などの知的犯罪の正当化や

礼賛や美化を招き寄せる事である。

この女は、自分のカネをこの子に対する生活費を割きたくないために

良人に自分のカネは自分で何とかするのであり、それが原因で

しくじって相手方に殺されたり、警察に突き出され監獄生活する憂き目に

遭ったとしても、あくまでも自己責任としてそれに甘んじ

誰のせいにしてもならないという鋼鉄の掟を強いてるのである。

「アンタ、さっきから聞いてれば何て身勝手な言い草だ!

アンタのやっとる事は、過去に俺が逮捕し死刑台へ去って行った者たちの

親によくありがちな育て方だぞ!自分のしている事に疑問を感じないのか!?」

これに我が意を得たりと若手の刑事も反論に加わる。

「そうだ!俺も警察に入って12年だが、俺がここ10年逮捕した犯人ほしのウチ

死刑になった宮部や大下、山井、村瀬、石塔、小宮山も

本来、子供を立派にすべき家庭の親が原因でダメになったのだぞ!?」

つまり、名前を出した彼らの共通点とは

親自身が人として半人前なまま結婚して家庭を持った結果、

我が子を犯罪者にしてしまい自身も最終的にダメになってしまった。

お前はそれらと同じになりたいのかと叱責した。

だが加奈子は聞く耳を持たなかった。

そればかりかあまつさえ、我が子に対し

「何やってるの良人。帰るわよ?」

「あ、うん。」

「もう、この街じゃ仕事出来ないから次の街に移らないといけないわね。

言っとくけど良人、今度、母さんの仕事の邪魔したらその日の晩は

ドラム缶の中にコンクリート詰めで寝てもらうからね?返事は!?」

「うん。じゃあさ母さんの仕事がある日はちゃんとお金を渡してくれる?」

「ふん。考えておいてやるよ。どうやらアンタを素寒貧にしたまま

放置したのがそもそもの失敗だったみたいだからねえ。」

母子を見送った刑事二人は胸糞悪い思いを引きずらないでは置けない。

特にこの若い刑事は殊の外やるせない思いだ。

この事件で一番、許せないのは誰だろうか?

あの身勝手な良人の母親なのか?子供をまとまった金を得て居ながら

小児殺しを請け負っていたあの町はずれの施設の夫婦と雑役係か?

そして逆に報われないのは誰なのか?

あの身勝手な母親に振り回される良人か?

あの施設の子供らか?雑役係の加藤の専横と不法行為を

苦々しく思っており、それを近々警察に告発しようとして

それを察知した加藤に殺された新一か?

あの施設で結果的に事件発覚の立役者的存在になり得たとはいえ

自分の命よりも良人との友情と信義に殉じて加藤の怒りに任せた殴打で

殺されたバードマンこと烏丸悠紀夫という少年か?

それとも、あの16にも満たぬ若さでもう既に、望まぬとはいえ

2人以上は孕んでおり、それを殺されたり堕胎させられたりして

もはや、見た目こそ少女でも心と身体はまったく違う何かとして生きているという

浪川ひろみという女か?無論、警察の方でも彼女の正体とは浪川という

モノではない。彼女の父親はあの施設の責任者夫婦の妻の弟の娘。

つまり、あの責任者にとっては孫に当たる少女だ。

ちなみにあの施設責任者の苗字は原阪であって浪川では無い。

その彼女はああいう仕打ちをされてもまだ離れられ無かったのも

そういう経緯があったからだ。無論、刑事はこの事を良人には教えていない。

結局、この事件とは誰が責められるべきで誰が報われるべきなのか?

脳天を電子レンジの様に炙る季節が夏場に近づく太陽は何も教えてくれない。

日中の建物の陰に吹く中途半端な涼しい風は皮肉な涼しさをするだけだ。

若い刑事が穿いてるのと同じ色した青いデニムの様な空は何も示してはくれない。

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