不思議な卵。

とある、森の入り口にある平屋建ての小さな家。

そこにこの家の家人のひとりと思われる、小学校高学年くらいの

男の子が家の玄関先で立ち止まっていた。

そこで入るかどうかを考えていると、

「どうした?カギでもかかってるのか?

それとも入りにくい事情でもあるのか?」

その男の子の背後から、自分より年上の少年が問うて来た。

「あ、いや。何でも無いよ。」

そういうなり、そそくさと玄関のドアを開けて中に入った。


「お帰りなさい。」

この男の子の姉と思われる女の子が返事する。

男の子は玄関口で靴を脱いで言う。

「さっき、お姉ちゃんと同じくらいの人が来てたでしょ?」

「林原くんが?いいえ。私は何も知らないわ。」

それを聞いてその女の子が返事する。

「そう?今、家の中を覗いてたよ。」

「覗いてたって?林原くんが?」

女の子は不思議そうにいぶかしむ。

彼女は自分と同世代の男の子が家の中を窺うというのが

どうも信じられないというのだ。

ちなみに林原というのは林原祐二つまり、ゆうじの事だ。

それに彼女もゆうじの事はある程度知ってはいる。

確か、この家からは近場の古い瓦屋根かわらやね

サビ止めの下塗り塗料を塗り

乾いてから撥水はっすい塗料を上塗りした

薄いブリキ板を貼り付け木造住宅が多い

住宅地に住んでいたという。要するにあそこの住宅地は

昭和30年代から40年代にかけてのような仕様の

現代から見ると掘建ほった小屋ごや同然というべき

あまりにも質素な造りの家だ。無論あそこの住人たちも

似たような家だ。トイレも汲み取りだし。浴室も

通称、五右衛門風呂ごえもんぶろと呼ばれる

鋳鉄釜ちゅうてつがま製の浴槽だ。

底の部分は加熱による足底の火傷を防ぐために木の板を張っている。

自宅にその様な浴槽がある家はまだマシな方で、

多くは銭湯などに行くか浴室のある家に住んでいる

知り合いや友人の家のお風呂を借りに行くという。


この姉弟の名は佐伯友里と正志である。

だがこの家には、この二人しか居ない。

それというのも両親が出稼ぎに出たっきり戻って来てないからだ。

ただ仕送り自体は多めに送られては居るため、

生活自体に困る事は無い。

「そういや、お姉ちゃん。僕はこんなのを見つけたよ?」

「何?どれどれ?」

そう言って正志が姉の友里に提示したのは、

白と黒のマダラ模様したたまごである。

「それ、何の卵かしら?初めて見るわ。

見た所、にわとりとか鳥類ちょうるいの卵にしては小さそうだし。」

友里も思わず頭をかしげる。

「そうだ。この卵を抱いて暖めて視ようよ?

もし卵が割れて雛が孵るといいし。」

「そうね。今夜からして見るのもいいわね?」

友里も協力して見ようと思い立った。

そしてそれを窓越しからゆうじは窺った。


現在に一度戻る。

日本閣の中でゆうじとおバカは会話している。

「俺があの姉弟を、あの時から見たんだよ。

あんな仲の良い姉弟なのに、何で二人きりで暮していたのかと思い・・・」

「そして、あの姉弟とその不思議なマダラの卵を?」

ゆうじが言い終わらない内におバカが話を遮るように応答する。

「それで俺は近所のよしみとして、あの姉弟と

拾われた卵に注意を払う様にしたんだ。」

ゆうじはその様に言う。

そしてふたたび当時に舞台と視点を移す。


ゆうじはその日、作った豚汁とんじるのお裾分けと称して

佐伯家に赴いた。そして、窓から窺うとその居間には

姉の友里しか居ない。その時、彼女はというと

勉強もひと段落したのか何やら気分転換をやろうというみたいだ。

ゆうじとしては一度、持っていた豚汁の入った鍋を

玄関脇のコンクリート面に置く。そして窓に戻って家の中の様子を窺う。

すると友里に何やら変った事をし始めた。

それというのも彼女は、赤い薄手のセーターを

捲り上げるとブラを上にずらした。

すると手頃な大きさの乳房が露わになる。

そして赤い薄手のセーターのすそ

片手で押さえながら空いた手で、

薄い青色のデニムショートパンツのチャックを下ろして

そこから股間に手を入れまさぐり始める。

そして頬を赤らめながら少し苦しそうに悶え、喘ぎ声を出す。

ゆうじはそれを眺め続ける。女っ気が皆無に等しい彼としては

滅多に拝めないであろう、その光景を見て何やら無意識な

興奮を思わずに居られない。そして友里のしている手淫を

最後まで見届けると玄関に戻り、何食わぬ顔して

玄関のドアをコンコンとノックした。

「はーい、どなたですか?」

友里の方も身支度を整えると、すぐに玄関に向かう。

ドアを開けるとそこには両手鍋を持っていたゆうじが居た。

「あら、林原くん。」

ゆうじの方も何とか何食わぬ顔をしながら

「ウチで作った豚汁が余ったのでお裾分けに来ました。」

そう言って手前を取り繕った。

「あら、どうもすいません。」

「いえいえ。」

「では俺はこれで。」

そう言ってゆうじは佐伯家を後にした。

(私のしていた事、見られて無かったかしら?)

友里は少しばかりドキドキしていた。

もし手淫を見られていたとしたらどう対応すべきか思った。

一方のゆうじも、彼女のしている行為を

最後まで見届けていただけに当人の前では言いにくい思いだ。


その日の夜にゆうじは夕方の事を思い出し手淫に耽っていた。

やはりそこは思春期である故の感情なのか、

おもむろに居ても立ってもいられないとばかりに

戸を開けて、佐伯家を目指して夜の暗闇の中へと駆け出して行った。


そしてそのゆうじがやって来たとは知らない佐伯家。

その家の中では友里と正志が不思議そうに卵を見ていた。

「なかなか卵が孵化しないね?」

友里が四つん這いになりながら交互に暖めている卵を見ている。

正志は、デニムショートパンツを穿いてる友里のお尻を眺めていると

思わず股間が疼く思いを感じた。ふと自分の股間を見ると勃起していたからだ。

友里は振り向いた時、その勃起していた正志の股間を見て

彼女の方も驚くどころか興味津々きょうみしんしんなのだろう

そこで少し訊ねて見ようと思った。

「ねえ、私の裸を見てみたい?」

聞いた正志は思わず頷いてしまう。

「それじゃ、お互い見せ合いっこしましょう。」

そういうと正志は着ているTシャツとズボンとパンツを脱いで全裸になる。

そして友里も赤い薄手のセーターを脱ぎ、

デニムショートパンツのジッパーを下げて脱いだ。

これでお互い全裸になった。お互いの生まれたままの姿を同時に見つめ合い

そして、友里と正志はお互い徐々に引き寄せ合う。

やがて二人は、もはや姉弟という肉親としてのわくを越えて

一組の男女として抱き合い始めた。

二人はお互いに唇を交し合い、その肌の手触りと温かさを感じ合う。

そして正志は勃起したモノを友里の股間の中に挿し込み

友里は股間から生温かいモノを指し込まれた瞬間、

痛みを感じたが、やがて性的な快感に押されて行く。

二人はお互いに耐えれば耐える程、快感は深まって行く。

それを紛らわせようとするかの様に二人は、お互いの名を呼び合った。

そんな二人の秘め事をゆうじは二人の居る部屋の窓から眺め続けていた。


そして現在に舞台と視点を移す。

「なるほど。お前はそんな美味しい場面に遭遇したと?」

「べ、別にそんな事を期待してた訳じゃない。

あの姉弟とあのマダラ模様の卵の事が気になっただけで!?」

おバカの冷やかしに対し、ゆうじは思わずムキになる。

「はいはい。お前がいい場面に遭遇するくらいの運の良さの

持ち主であるのはもう判ったよ。そんでその後どうなった?」

ゆうじは冷やかしに対しムキになりつつも語り出した。


そして舞台は又、当時に戻る。

姉弟はその日から、あの卵を暖めつつお互いに

毎晩生まれたままの姿で抱き合っていた。

それから数日くらい経ったある日の事。


胸元を赤いスカーフで留めている紺のセーラー服の

制服姿で友里は友達と別れて、家路に向かおうとしていた。

ゆうじは、その後を少し離れながらつけていた。

後をつけ出して五分余り経ったその時だった。

あの例のマダラ模様した卵が空を飛びながら

ゆっくりと彼女の許へ飛んで来た。

ただ違うのは、あの時の様な小さいサイズでは無く

バスケットボール並みの大きさにまでなっている事だ。

その卵が友里の所に近づくと彼女は思わずそれを胸に抱きかかえる。

「何?この卵。何時の間にこんな大きさになったのかしら?」

そう不思議に思っていると次の瞬間、奇妙な事が起った。

それというのも友里がその卵の中に吸い込まれたからだ。

その光景を目撃していたのはゆうじとその背後に居た

二人の巡査であった。それというのも巡査が何でゆうじの

背後に居たのかというと、ゆうじが友里の後をつけているのを見て

職務質問をしようと思っていた矢先にゆうじと共に

その光景を目撃したからである。

そしてその卵は、パッと消えた。

その場に居た三人は、しばし呆然としていたが

ゆうじは直ぐに気を取り直すと背後に居た巡査二人に

「あの姉弟が、何やら危ない。早く俺と一緒に

あの姉弟の居る家に向かうぞッ!?」

そう怒鳴る様に言うとゆうじは直ぐに駆け出した。

二人の巡査もゆうじに言われるまま、後を追う。


その頃、正志は家に辿り着いたものの姉が居ない事に

気づいて友里を探し出していた。

正志が家のすぐ近くにある池のほとりに辿り着くと

池の水面に、あの例のマダラ模様の卵が浮かんで来た。

浮かんだその卵は池の傍にいる正志の所に進む。

「正志。」

卵の中から友里が正志を呼んでいた。

正志は半ば驚きつつもその卵を拾い上げて

直ぐに足元の地面に置いた。

「その中に居るのは、お姉ちゃんなの?」

「うん。何かいきなり卵の中に吸い込まれて。」

正志は友里が卵の中から話しかけているのを聞いて

一体、この卵はどうなっているんだろうと驚き戸惑う。

この卵も心なしか最後に見た時より遥かに大きくなっているし。

正志は思わずその卵の表面を触ってた途端に、

いきなり卵の中へと引きずり込まれた。


卵の中に引きずり込まれた瞬間、正志は全裸になっていた。

しかも姉の友里も全裸になっていた。思わぬ姿での二人の再会であった。

卵の中はまるで泡の多い粘液状の様だ。それにしては二人とも呼吸出来る。

「一体、どうなってるんだろう?この卵の中って。」

「そうね、あまりにも不思議だわ。」

そう思い込んでいると、手足の指先から

少しずつ身体が溶解しようとし始めた。

「ちょっとヤダ!何よこれッ!?」

「恐いよお姉ちゃん、身体が溶けちゃうッ!?

二人はまだ身体がある内にお互い、必死に抱き合った。

友里は、まるで最後の力を振り絞る様に残った手で

正志の股間のモノを自分の股間に挿し込んだ。

そして残った友里の手も溶解して行った。

「お姉ちゃん!」

「正志!」

姉弟二人はお互い手足が溶けても尚、離れまいと

抱き合い、最後にお互いの唇を重ねた。

そして姉弟は卵の中で急速に溶解し、やがて無に帰した。


その頃、佐伯家に辿り着いたゆうじと二人の巡査は

家の中を探したが誰も居ない。

すると二人の巡査の内、相方が池のほとりに

大きな卵があるのを見つけた。

それに気づいた三人はそのあまりにも大きくなっていた

マダラ模様の卵を見る。しばらくしてその卵の表面に

ヒビが入り始めた。まるで中から何かが孵化するかの様に。

何が出て来るのかと三人がドキドキしていると

その卵は割れて中から出てきた。

但し出てきたのは動物の雛では無い。

人間の様だ。ただ違うのはその人間は胸は女の子なのに

股間の一部が上半分が男性の性器を成している。

そしてその粘液まみれの人間はやがて身を横たえた。

これを見た三人はすぐに署からの応援と救急車を呼んだ。

それからこの件は街の人々からは怪奇な出来事として、

その日から人々の話題になり、街の謎のひとつに加えられた。

そしてその卵から孵化したと思われる

人間は病院へ運ばれたものの、やがて死んだ事が伝えられた。


そして現在に戻る。

「そんな事になってたとはな。」

「ああ。俺も出来れば夢の中の出来事であって欲しかったよ。」

二人のやりとりを聞いていたステラもその奇妙な出来事を

聞かされ、自身としても忘れられないと思った。

あのマダラ模様の卵はそもそも何処で生まれたものなのか?

あの卵は拾ってくれた姉弟を何であの様な姿に変え死なせたのか?

今になってもその問いに答えられる者も

あの出来事の真相を語れる者も誰も居ない。

ただ、ゆうじが体験した事は何の偽りは無いだろう。

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