来日の際の手荒い歓迎(元ネタ:日航機逆噴射事故より)

ここはフランスのパリ。

その市内のとある建物の一室。

パリを朝日が照らす頃。

一人の若い女性が目を覚ましベッドから起き上がろうとしていた。

歳の頃は10代の前半と思われる。

だが、その年齢とは裏腹に背が高く美貌は

生半可な成人女性よりも非常に大人びていて美しく、

一切の無駄を持たぬその肉体は抜群のプロポーションに優れている。


すると、ベッドの傍にある仔犬の形をした置き物が突如、音声を発する。

「マリエルよ。お目覚めか?」

「はっ。私はたった今、ご起床致きしょういたしました。」

マリエルと呼ばれた美しき少女は片手を胸に当てながら置き物に応答する。

「宜しい。では、これからが出す命令を実行せよ。」

「どの様な、ご指示ですか?」

「これから日本に行き、門摩家かどまけ

豪邸『日本閣にほんかく』におもむき、

メイド長として着任するのだ。お前の事だが、よもやと思うが

くれぐれも寄り道も、お遊びも控えるのだぞ?」

「はっ。」

「では、、お前の部屋にパスポートとはじめ一式を持った

使いの者を送る。受領を確認次第、直ちに空港へ向かい

日本行きの便に搭乗せよ。」

そう発言し終えると仔犬の形をした置き物は沈黙する。

マリエルは起き上がると、早速寝間着としていたYシャツを脱ぐ。

その美しいプロポーションが垣間見える。

そして私服を着込む。そこへ使いの者とされる

メイド服の少女が荷物を積んだカートを押して来る音を感じる。

ドアの外からノックが来た。

「マリエル様。荷物をお届けに参りました。」

「いいわ、入りなさい。」

「それでは失礼します。」

ドアを開けて荷物を積んだカートを押したメイド服姿の少女が入室する。

マリエルは荷物の入ったトランクを受け取ると、受領証にペンでサインした。

「では後の事、宜しくお願いね?」

「はっ!」

メイド服の少女は背筋を正して敬礼する。

建物を出たマリエルは用意されたハイヤーで空港に向かった。


そして彼女を乗せたハイヤーはシャルル・ド・ゴール空港に到着する。

ターミナルで搭乗手続きを済ます。

羽田行きの日本航空の旅客機が待機している搭乗口へ行き

そして機内に入り尾翼寄りの指定席に座る。

搭乗案内のアナウンスが終わると、他の乗客とともに

マリエルを乗せた日本航空の旅客機は、滑走路を走り

やがて離陸し朝日に照らされるシャルル・ド・ゴール空港を後にした。


離陸してから、日本に向かうまでの空いた時間を利用して

マリエルはネット端末を使って日本の事は元より、

門摩家の豪邸日本閣の事、そしてそこに現在居る者の事など

色々と事前に調べ上げた上で機内食を頂いた後、しばしの仮眠を取る。

それからかなりの時間が経ってから目が覚めて見ると、乗ってる機体は

何時の間にか東シナ海上空から日本の領空内に入り、九州北部から

豊後水道の上空を飛び高知県西部を抜けて太平洋側に出る。

そして八丈島沖東方の上空から北に旋回する。

房総半島南部上空を抜けて東京湾に入った。機内アナウンスが

もうすぐ羽田空港への到着を告げる。だが、ここで異変が起った。

高度200フィート(約61メートル)までは順調であり、

後は滑走路に着陸するだけだった。

ところが、何故かいきなり機首を下げながらエンジンが逆噴射に及び

機体が海面めがけて急降下した。やがて海面に突っ込んだ衝撃と共に

その機体が機首と機体後部で真っ二つになって止まった、

墜落したその羽田沖が浅瀬だったため機体の沈没は免れた。

このとき機内の尾翼寄りの座席に居たマリエルは

凄まじい衝撃とともに機首部分が裂けて機内の電源が消えると同時に

黒い泥濘でいねいの混じった海水が逆流してくるのを感じた。

機内に居た多くの乗員や乗客は次々と悲鳴を上げる中、

彼女は敢えて冷静を保った。そして機体が止まった後

救助活動が始まるまでの間に、何とか応急処置を取ろうと動いた。

まだ無事だったキャビン・アテンダントと共に、他の乗客を助け出す。

遅れて他の日本人客もそれを手伝い始める。

このときオランダ人やベルギー人、フランス人の男性客はというと

ただポカンと見ているだけであった。それを見たマリエルは怒鳴った。

「何をしているのです!?貴方たちにも大事な人が居るでしょッ!!?

やれるべき事はあるはずですッ!!早く行動を起こしなさいッ!!」

叱られて悄然と項垂れた外国人男性客は手伝い出すのだが

韓国人や中国人に到っては、そんな事知るかとばかりに

被災した他の客を置いて我先にと機外へ逃げ出すだけだ。

これを見てマリエルは思わず胸糞悪い思いを禁じ得なかった。

やがて救助隊が辿り着き数々の乗客たちが救い出された。

後に救助隊員が残った乗客の中の負傷数が驚くほど少なかったのが

マリエルの行動によると助かった乗客たちの証言によって判り

思わず感心した。それに対し我先に逃げ出した韓国人や中国人は

マスコミを経由して知った世論から非難を浴びた。


「どうやら手荒い歓迎を受けた様だな?」

ホテルの一室の中で置き物から声が発せられる。

「ええ。今回のおかげで、同じ東洋人でも

日本人と他の東洋人とは非常に格の違いを体験しましたから。」

「ははは、そうか。なら念のためにしばらく身体を休めるといい。」

そう言い終えると置き物は沈黙した。

マリエルは次の仕事に就けるまでの間、身体を休める事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る