27話 強者の悩み
「奴らは近くまで来てるのね。だから静かにね……沢山の気配がするのね」
リンが振り返りベアに状況を説明する。
「来てる……!? 何も見えないけど…」
ベアは戦闘体制に入るも見えない敵を前に、オロオロしている。
「ベア、リン……我々はすでに包囲されている」
「え、どうしよう!? 逃げ場ないじゃん!」
バースクウィーンを握りしめ、慌てふためくベア。
しかしノゼはニヤッと笑い、空を指差す。
「え!? ノゼ? 無理! 無理だからな!」
「……飛ぶぞ!」
手をバタバタさせて嫌がるベア。
しかしノゼは構わず、ベアとリンを抱き抱える。
そして大地を驚異的な力で蹴り、上空にジャンプした。
ドシューーン!!
「た、た、高いー!!」
突然の急上昇。ノゼ達は空を切って上空へと舞い上がる。
ベアは目を開けるのが精一杯であったが、地面をしかと見ていた。
すると地面がモコモコと盛り上がり、そこから大型のネズミが出現した。
「奴等、下にいたのねー」
リンが冷静に敵の数を確認する。
「30匹はいるみたいねー。あの子達が爆発したら大変だよねー」
「爆発!? あいつら爆発するのか!?」
ベアがぽかんと口を開けて驚く。
そ、そんなの聞いてないぞ!
単純な猛獣退治を想定していたベアは、予想外の敵に唖然とする。
「そうねー。ガスタマニアは体温調節と仲間を見分けるためにね、体内にガスを貯めているんだよねー。本来は爆竹程度の威力だけど、あの子達は一際大きいからねー。ここら一帯は吹き飛ぶかもねー」
ゴゴゴゴゴ
するとノゼ達より少し離れた場所から爆発音が鳴り響く。
「おい、あっちって、クール達がいる所じゃないか!?」
同時多発なのか!?
ベアも自分達が置かれている戦況が芳しくないことを理解し始めていた。
「イ、イシカワ隊長―!!」
遠くの方から団員の叫び声がこだまする。
「あちらの方が遥かに数が多いな。クールでも全ての団員を守るのは難しいかもしれん」
ブゥーン……
ノゼはそう言って移動式の魔法陣を出現させた。
「お、おい向こうに行くのか!? この下はどうするんだよ!?」
ベアが慌ててノゼを引き止める。
「お前達に任せる。では!」
そう言い残しノゼは姿を消した。
「お、おい! ちょっと待て、おい……待ちやがれー!」
ノゼが消えた直後、途端に二人の落下速度は上がり、猛スピードで地面へと急降下する。
「おい、おい、おい、おいーー!」
ま、まずい!
ベアはバースクウィーンをぎゅっと握りしめる。
私だけなら助かる……でもリンは多分助からない! 魔法で衝撃を和らげるしか……!でも間に合うか!?
「天に召される空の神よ……」
ベアは超スピードで魔法を唱え始める。
するとそんなベアを見たリンが落ち着いたトーンで声をかける。
「ベア、魔法はいらないね。そこいら一体、くり抜くからねー」
何も問題ない。ベアはそう言われた気分であった。
しかしリンの表情はどこか暗かく、目の奥の光が徐々に消えていったのをベアは知る由もなかった。
「え!? くり抜く?」
ベアはリンの言っていることが理解できず、混乱していた。そして完成間近だった魔法陣も同時にスゥーと消えのであった。
「よーし、やるよー」
リンは手を地面に向け、手の平を閉じて手首をプラプラさせた。
次の瞬間、リンの手におびただしい青筋が走り、骨が浮かびあがる。
「よっ!」
ズズズズ!
リンはその手で地面をすくうような動作をした。
すると敵が集まっている周辺の地面が沈み込み、5メートル程の深さから一気に、まるでアイスクリームのごとく、円状にくり抜かれた。
「え、あ、リン……?」
言葉を失うベアであったが、
これリンがやったのか!?
敵が全て圧倒的な力によって地面の塊の中に閉じ込められたことは理解できていた。
「ほいねー」
そして、リンはその異形とも言える手を天高く突き上げた。
ゴォォーー!
先ほどまで地面に転がっていた巨大な地面の固まりがベア達よりも遥か上空に飛び上がる。
「えー!? 飛んだ!?」
落下中、遥か上空を見上げるベア。
そしてリンはベアの方を見てにこっと笑った。
「ベア、あなたのそのアルガデリアでねー、あれ切ってみたらいいよねー」
「え!? なんでアルガデリアのこと知ってるんだ!?」
リンは「いいから、早くねー」とベアの腰に隠してあるアルガデリアを手に持ち、ベアに手渡す。
「その武器はねー、力を求める者に惹かれるのね。軽くでいいから、振ってみるのね」
リン……何者なんだ? でも……今は考えてる場合じゃない
ベアはリンが自分よりアルガデリアのことを熟知しており、戦闘における経験も自分より上であると感じていた。
リンを信用しても良いと考えていた。
「……分かったよ。やってみるよ」
ベアの返事を聞き、リンは優しく笑うのであった。
そして「よーく狙うんだよねー」と言うと、それ以降口を閉じていた。
「よし! あの固まりを真っ二つに……ぶった切る!!」
これくらいの力だな!
不思議とベアには狙うべき箇所、そして力加減が分かっていた。
「どりゃーー!」
男勝りな掛け声とともに、ベアはアルガデリアを振るった。
ピシッ!ピシィーー!
斬撃音はなく、地面の固まりが綺麗に真っ二つに割れる。
すると複数のガスタマニアがその切れ目から姿を現した。
「そりゃ!」
ベアはさらに続けてアルガデリアをガスタマニアに向かって振るうのであった。
ゴゴゴゴゴ……ドゴォーン!
切られたガスタマニアが爆発し、その爆発に巻き込まれた別のガスタマニアがまた爆発する。
ゴゴゴゴゴ!……ドーーン!
この誘爆は、地面の固まりが粉々になるまで続き、ガスタマニアは完全に消滅していた。
「よっしゃー!」
「やったよねー」
ベアとリンは抱きついて喜びあった。
そしてリンは慌てて手を背中の後ろに隠し、異形の手から普段の手に変形させていた。
「リンはすごいんだなー!」
ベアはそんなリンの素振りをまるで気にかけていない。
二人が地面に近づくと、落下速度が遅くなり最後はふわりと着地することができた。
「なんだよ、ノゼのやつ。地面に激突しないように魔法かけていたのかよ」
ほっとしたベアは呟きつつ、アルガデリアを腰にしまいリンに笑顔を振りまいた。
「ありがとうな! リン! お陰で死なずに済んだよ。アルガデリアの使い方も少し分かった気がする! それに……」
ベアはリンの右手をチラッと見る。
リンは少しドキッとしたような表情を浮かべ、どこか悲しい目をしていた。
しかし、リンのその表情はすぐに振り払われる。
「リン!! あんたすごい強いんだな! 最高にカッコよかったよ!」
ベアはリンの右手を躊躇することなく握る。
リンは体中から汗が出ているのを実感し、顔をパタパタと扇ぐ。
「そんな、え!? 私のこと怖くないのね!? 不気味に思わないのね??」
リンの口調は先程までとは打って変わり、早口で余裕がなくなっていた。
「なんで不気味なんだよ!? カッコいいじゃん! 強いしさー! 羨ましいよ」
「羨ましい……。さすがノゼさんの仲間なのね。そんなこと言われたの初めてよね」
リンは下を向いて「へへ」と笑う。ベアもどこか嬉しそうであった。
「さて、じゃあノゼ達の様子を見に行こうか」
「了解ね……」
二人は遠方から鳴り響く爆発音に向かってゆっくり歩き始めた。
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