16話 成長と待遇

ガチャ……バタン


 荷造りを終えたノゼとクールは民家を後にし、町の出口へと向かっていた。

 幸いにも出口は破壊されておらず、来た時と洞窟を抜けることができた。


 この洞窟、なんだか昨日より暗いな……

 ベアに慣れ始めていたクールは、物足りなさ、そして静けさに若干の寂しさを感じていた。


 洞窟が出口に近づくにつれ、朝日が差し込み、眩しくなっていく。

 朝日がやけに身に染みるクールであったが、その理由を理解しようとはしなかった。

 うるさいのがいないからか……?

 クールは自分を否定するように、首を大きく横に振る。



 洞窟を抜けると、朝焼けで神々しく光る大地が広がっていた。

 クールは「ふー」と深呼吸をし、地図を広げる。

「では、ノゼ様……次の目的地ですが……」


  ヒュッ!


 その時、洞窟の上から何かが飛び降りた。

 瞬時に臨戦態勢に入るクールであったが、その正体を見るやいなや、嬉しいような面倒くさいような笑顔を浮かべる。


「おっはよー! お二人さん!」

 ベアが朝日を背景に仁王立ちで、自慢げに立っていた。

「二人とも遅いよ! 入り口周辺の魔物は私が全部やっつけたよ!」


 クールが辺りを見回すと魔物の残骸らしい亡骸があちらこちらに散らばっていた。


「どうだ! 私だって一人でも旅は続けられるし、足手まといになる気はさらさらないね!」

 ベアから発せられる気迫。それは昨日より、遥かに力強くなっていた。


「入り口付近にうろつく魔物はそう強くないが……それでも経験値は確実に貰えるからな。娘……お前、レベルアップしたんだな」

 クールはやれやらといった感じでポケットに手を入れた。


「ベアよ。ひとまず礼を言おう。昨日の異常事態を察知した魔物が、ここの入り口を破壊する恐れもあった。……ご苦労であった」


「まあ、娘にしてはよく頑張ったんじゃないか」


 ノゼとクールから褒められ、ベアは自身満々に胸を張る。


「よし、ではこれより各自、ハンブルブレイブに向かう。私とクールは恐らく明日には到着するであろう。ベアは……」


 ノゼはベアを改めて見る。朝日に照らされたベアは一層逞しく見え、ノゼはその成長力を評価していた。


「ベアは……2、3日程だろう。到着次第、我々と合流するように」


「はい!りょーかい!」

 ベアはピシッと敬礼をする。


「まあ、そのバースクィーンがあれば大丈夫だろうけどな」

 クールが冷ややかに笑うが、その笑みにも、どこかベアへの期待が伺えた。


「よし! では出発しよう。」


「はい! ノゼ様!」


「うん……じゃあ、ノゼ達も気をつけ……」


 ドシューーン!


ベアが言い切る前に、2人は砂埃とともに消えベアの遥か前方を走っていた。


「おい、おい……。まじかよ」

 途方に暮れるベアはその場でストレッチを始めた。

 ベアの入念なストレッチは気持ちを落ち着かせ、「自分は自分、人は人」と暗示をかけるには最適のものであった。

 ノゼとクールが出発してから10分後。気持ちの整理ができたベアは、ようやく小走りで出発するのであった。




 ベアが町を出発してから早10時間が経過していた。

 ベアはジョギングペースで、2時間に一回休憩を取り、長い旅路を無理なく最善のスピードで進んでいた。


「はぁ、はぁ……あー、まだかよ。次の町は……。地図によるともうすぐなんだけどな」

 すでに日が沈みかけており、ベアは少し焦っていた。


「さすがに野宿は嫌だからな……」

 そう言いつつも、雨風を防げる場所を探しすベアであった。

 この地は様々な顔を持っており、西に向かうにつれ、荒野から草原、そして木々が見られるようになった。

「ふー、まあここなら強い魔物もいそうにないし……平気かな」

 走りから歩きに変わり、少し休もうと地面に座ろうとするベアであったが、


 ズァ!

 突如凄まじい魔力の気配を感じる。


「なんだよ! この、魔力は!?」

 ベアは即座に臨戦態勢に入る。

 そして魔力が放出されている方に向かって、ほふく前進でゆっくりと近づいた。


 この魔力の質、これは、まさか……

 魔力の発信地近づくにつれ、その魔力に親しみを感じるベアであった。


「こ、これは!?」

 草木を抜けると、直径50メートルを超える大きなクレーターが現れた。

 その周辺だけ草木がなぎ倒されており、地面からは禍々しい魔力の残り香が残っていた。


 ざわざわ


 事態は大きくなっており、辺りには周辺住民が様子を見に来ている。


「あのー、すみません。ここで何があったか知ってますか??」

 ベアはクレーターを覗き込んでいる住民に話しかけた。


「ああ、旅のお方かね? 実は俺達良く分からねんだ。今朝、突然大きな音と振動があってな….。この周辺だけこんなになっちまってたんだ」


「音と衝撃。それって誰かの戦闘か……??」

 ベアが不思議そうにする。


「いやー、分からねぇ……ただな、その衝撃の後、大きな声で『くそー!』と叫ぶ声が聞こえたな……」


  ノゼが誰かと戦ったんだ。でも一体誰と……

 ベアが真相に近づく。


「お嬢ちゃんは何か心当たりがあるのか?」


「いや、検討もつかないよ!……それよりさ、おじさんここいら辺に宿屋はないか? 旅の途中でさ、明日も朝から走らなきゃだめなんだ」


「それなら俺たちの村にあるが……確か夕食はなかったはずだぞ?」


「おー、そっか! そこで良いや! 夕食は何か買って食べるし。あ、そうだ。これって使えるかな」

 ベアはごそごそと荷物を漁り、ダイヤから貰った通関証を手にとった。


「!?」

 男の顔が一気に青ざめる。


「それは! 魔王軍幹部の証! これはこれは、失礼しました! 責任を持って、我が町であなた様を歓迎させて頂きます! ……おーい、お前達、この方は魔王軍の幹部でおられる! 早急に宿屋と夕食を手配しろ!」


 男は大慌てで準備を始める。

「さあ、さあ、幹部様、あちらに馬車がございますので……。どうぞこちらへ。案内致します」


「あ、ありがとう……はは。」


あんまり多用しちゃいけないな……。

 ベアは罪悪感にさいなまれながらもその日、町の歓迎を受けた。





 ベアが町に着く9時間前、そこにはまだ大きなクレーターはなく、草木が生い茂っていた。


  しかしそこにいたのは……ノゼと、


 竜族の戦士であった。



「その身なり……魔力の質。一応、聞くがお主、昨日会った奴らと同族だな?」

 ノゼの魔力が跳ね上がり、禍々しさが増していく。


 相対する竜族は、昨日ノゼ達が目撃した賊と同じ黒い鎧を纏っていた。

 背丈はノゼと比較すると幾分か小さいが、常人離れした魔力を秘めている。


「昨日は私の部下がお世話になったそうで……」

 甲高い声が不気味に響く。


「世話って程のことでもないがな……。少し遊んでやっただけだ」

 ノゼは魔力を高め、臨戦態勢に入る。


「そうですか……。報告によるとお仲間がいるらしいですね。あと二人ほど。スーツの奴と、小娘が……」


「彼らは…、私とは別行動だ…」


「そうですか……残念です」


 パリィ!


 雷のような音が鳴り、敵がノゼの前から姿を消した。

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