6話 魔王のサポーター

 魔王の突然の提案に、幹部達は驚きを隠せなかった。


「魔王様の城でですか!?失礼ですが、それは少々危険かと存じます!」


 ダイヤが激しく反対する。身元も分からない者、そして女性を魔王の近くに置いておくことに賛成出来なかった。


「ダイヤは……人質が女性だから嫌なんだよね?」

 恋愛に鈍感なアームですら気がついていた。


「そ、そんなことないわよ!私はただ、明らかに敵意を向けている者をわざわざ魔王様自ら面倒見ることないって思ってるだけよ!」


「ふぉふぉ、こやつには魔法を封じる呪いの首飾りをつけるつもりじゃ。魔法なしで魔王様に危害を加えられるとは思わないがのぉ。」

 アイがニヤッと笑う。


「ち、余計なことを……」

ダイヤはアイを睨みつけると、今度は魔王に必死に訴える。

「例え魔法が使えずとも、このような輩は何をしでかすか分かりません!魔王様、こやつは私の独房にて捕虜として管理します!」

 魔王は首を縦には振らなかった。

「いや、この者の真意を知りたい。レジスタンスの戦闘員として訓練されてきたのだ。拷問でも口を割らんであろう。ゆえに、違う方法を試してみたい。」


「恐れ入りますが、違う方法とは…??」

 ここまで黙って聞いていたクールが口を開く。


「これまで我々はレジスタンスを好戦的なテロリストと捉えていたが、今回の攻撃を見る限り、少し様子が変わってきたようだ。戦争を望むのであれば、先ほどの初撃、離れた場所から仕掛けるのではなく、一発目で魔王城に命中させていたであろう。恐らく、相手の真意は、私の対応を観察することだ。」


「おっしゃる通りでございます」

 クールが頭を下げる。


「レジスタンスも馬鹿ではない。本気で私に勝てるとは思っていないであろう。我々との和平交渉も検討しているはずだ。そこでだ…この捕虜をきっかけにし、レジスタンスへの歩み寄りを考えている」



 レジスタンスとの和平?可能なのか?



 この場にいる全員がそう思った。

 魔王軍とレジスタンスとの紛争の歴史は古く、およそ300年前から抗争が続いている。

 レジスタンスは、魔王軍と人間の覇権争いに痺れを切らした者達の集まりで、魔王軍、人間のどちらにも属さない。

 彼らの活動は町や村に潜入し、情報やメンバーを募るというものが主であった。

 時に権力者に対する報復として、襲撃なども行なっているため魔王軍だけでなく人間達もレジスタンスをテロリストと捉えていた。


「今回の事例は、極秘である。ここにいる者達以外への情報提供は許さんぞ」


 幹部達は「はい」と了承する他なかった。


「ああそうだ、クールよ。私の城に使用していない客人用の部屋があるはずだ。悪いがその部屋の掃除、つまり……この者が生活できる準備を頼めるか?」


「はい。仰せのままに」

 クールはすぐさま魔王城へ向かった。


 魔王はレジスタンスの女性を抱きかかえ、城へゆっくりと歩を進める。

 残された者達が口を開くことはなかったが、一抹の不安を振り払うことはできなかった。


どうなるのだろうか。


 魔王に絶対の信頼を置きつつも、レジスタンス相手に話が通じるのか。魔王以外はそう考えていた。


「はっ!」

 新品のシルクの布団がふわりと折り返された。その女性はキョロキョロと辺りを見回す。 部屋には赤い絨毯、木製の家具、そして少し離れた扉の先には洗面所が見えた。


「ここはどこだ……」


 頭がぼーとする。記憶が曖昧だ。

 女性は自分の記憶を辿っていく。よく見るとベッドには自分の赤色の髪の毛がちらほら散らばり、額には汗をかいていた。

 女性は自分がここで数時間眠り、激しくうなされていたと理解した。


 女性の肩程まである髪は見事なほどの赤色であり、肌は透き通るような白色で戦闘員とはかけ離れた見た目であった。


 ガチャ


 女性が深く考えていると、部屋の扉が開いた。

「体調はどうだ?」

 魔王がゆらりと部屋に入る。


 同時に女性の記憶が急速に回復し始める。点と点が繋がる。


 女性の最後の記憶は本気で作った魔法陣を、圧倒的な力で破壊されたものであった。


 ダッ!


次の瞬間女性はベッドを飛び出て、机の上の武器を手に取り、魔王の首元に突きつけていた。


「私をどうするつもりだ!?」

 常人であれば、女性のスピードに目が追いつかず、何が起こったか理解できないであろう。

 しかし、相手は魔王。ナイフを持ってゆらりゆらりとゆっくり歩いてくるように見えていた。


「……元気そうで何より」


 魔王はそう言うと、すうっと姿を消した。

「ど、どこに消えた!?」


「その武器は、お主自身を守るために保管しておいたのだ。私を攻撃するためじゃない……」


魔王が女性の背後から現れた。

「こっちか!」


 女性は振り向きざまにナイフを振り回した。



「まずは、落ち着いて話そうか」

 いつの間にか魔王はソファに腰掛け、コーヒーを飲んでいた。そして女性に一杯勧める。


「ここから東、ルボア地方で取れるコーヒー豆を煎じて作っている。カフェインが少なく栄養価が高い。気分の悪い朝にはぴったりだ」


 この男には勝てない

 女性は先の戦いで埋まることのない実力差を魔王に感じていた。


 ドガッ!


 女性が荒っぽく席につき、コーヒーをすする。女性の身長は160センチメートル程であり、魔王と比較するとかなり小柄であった。

 しかし女性は舐められないようにと胸を張り、背筋をピンと伸ばしている。


「お、美味しいんじゃないの??このコーヒーというもの?」


 ズズッー


女性が勢いよく音を立ててすする。


「やはりな、コーヒーは贅沢品か。今まで飲んだことなかったのか」


 魔王がコーヒーを見つめながら問う。


「こ、こんなものレジスタンスの戦闘員に出回る訳ないだろ!私達は必要最低限の食料しか配給されないし、それ以上も求めない!」


「ああ、そうだろうな……」


ズズーー


 女性はコーヒーをすすり続けた。


「それで、お前、私をどうするつもりだ?捕虜になったところで、レジスタンスの内部事情は教えられない。というか、知らない。私はただ命令に従っただけの兵士だ。」


「今回の攻撃の目的は何だ?何か知っているか?」


「それは、お前……、魔王を討伐するためだろう?それ以外に何があるんだよ?」


 末端の戦闘員は攻撃するのみか。


 魔王はゆっくりとコーヒーを口に含む。洗練された豆の栄養が体に染み渡る。このコーヒーは魔王のお気に入りであり、毎朝自ら煎じて飲んでいた。


「現状は理解した。しかしそう安安と、お前を解放することもできない。レジスタンスの戦闘員に城の内部構造や、人員も知られてしまったからな。」


「城の内部構造って……!お前が私を勝手に連れてきたんだろう!?その場ですぐ殺せば良かったんだろう!?」

 矛盾を感じた女性が声を荒げる。


「お主は捕虜として利用できると感じたのでな……。暫くは魔王軍として活動してもらうつもりだ。解放して欲しいのであれば……ある条件を飲んでもらおう」


「じょ、条件って何だよ?」


  魔王はカップを静かに置く。

「この城より西に800キロ程先にとある渓谷がある。龍の渓谷と呼ばれれている場所だ。そしてそこには勇者が生まれる街がある」


「ああ、知ってるよ。レジスタンス内の資料で見たことがある。勇者候補の猛者が沢山いるとも書いてあったぜ。だからレジスタンスもあそこは滅多に襲わない」


 すると魔王が女性の口の前で人差し指と親指を広げ、何かを摘むような動作をする。

 シュルシュル


 女性の口から薄紫色の半透明の長いプラスチック製のテープのようなものが出現した。

 そのテープには文字が書かれているが、解読できそうにないものであった。


「これは、契りの印と呼ばれている。お前は今から聞くことを人に話せないし、共有もできない」


  え、おい!これ何だよ!


 言葉にしたはずなのに声がでない。契りの印を掴まれた女性は話すことも動くこともできなかった。


「契りの印の発動条件は、相手に本心を伝えることだ。これからの言葉は私の本音と受け取ってほしい」


 口をパクパク動かしている女性を尻目に、魔王は語り始めた。


「実を言うと……私は武器に目がない。短剣、大剣、銃、鎌、槍、棍棒、弓など種類は問わない。素晴らしい武器とは、フォルム、デザイン、そして破壊力に優れたものだと私は考えている。ちなみに、世界には3つの三大武器というものがあるのは知っているな」


 コクコク

言葉を失った女性は首を縦に振る。


「そう。覇王の弓ダビデ、修練の短刀アルガデリア、そして聖剣エクスカリバーだ」


 魔王の目が少しばかり輝き始めた。

「この三大武器こそ、世界最高峰の武器と呼ばれている。その中でも聖剣エクスカリバーは選ばれた者、つまり勇者しか持つことも許されない特殊武器である。特殊武器は制限が多いものの、その分威力は跳ね上がるんだ。私は……」

魔王が顔をしかめ、下を見つめる。


 ドン!


 魔王はテーブルを叩き、地団駄を踏む。

「私は、聖剣エクスカリバーを一目見た時から!そのフォルムと威力の虜になってしまった!あの聖剣は、私のこの角をいとも簡単に貫いたのだ!私は……あの武器を一度で良いから、振ってみたいのだ!!」



  女性は魔王の言葉をすぐには理解できなかった。極悪非道の最恐最悪な魔王と聞いていたが、その本心は実に子供じみている。


  この男が本当に魔王なのか。


  先の戦いがなければ信じていなかったであろう。


「それで私は何をすれば良いんだよ??その聖剣をかっぱらってこればいいのか??……ってあれ、喋れるぞ!」

  女性の声が急に戻る。


「聖剣は既にこの城に保管してある。必要なのは、私の資格のみ」


「資格って……勇者のみしか触れないんだろ。え、あんたまさか……!」


「そう、私はその勇者の街に赴き、そこで勇者になる」


「……まじかよ」


 予想外の展開に開いた口が塞がらない女性であった。


「ゆえに、お主には私とその村に同行し、勇者になるためのサポーターとなって欲しい」


「は!?」


 女性の口がさらに大きく開く。

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