■十二話番外編.ムセンの想い ※ムセン視点
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頭が痛い………上手に呼吸もできない……。お酒なんて飲んだからでしょうか…………私が……甘かったですね。よく警備という職業の事を調べもせずに……イシハラさんについていって……試験にのぞんで……立っているだけだからといって慢心したから。
全て私の甘さが招いた事です……何も言い訳できない…。
イシハラさんは……全く問題なく平然としてる……凄いなぁ……やっぱりイシハラさんは……この試験も難なくクリアしてどんどん先に行っちゃうんだろうなぁ……。
たぶん……振り返って私に手を伸ばすような事はしてくれないんだろうなぁ……………うん、たぶんというか絶対しませんね……。
思えばこの異世界に来てから……ううん、この世界でだけじゃない。
私はずっと色んな人に頼ってきた。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、友人、同僚、船員のみんな…。
私……一人じゃ何もできないから……。いつでも一人じゃどうしたらいいかわからなくて……他人に頼って依存して……皆さんに迷惑ばかりかけてきたんだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
今回だってそう。イシハラさんは自分一人で何でもできちゃうから……それに甘えて……不安な異界の地でもきっと助けてもらえると思ってた。ついていくのも心地よかった。マイペースな人だけど……物事の本質を捉えて進むべき道を示してくれるイシハラさんは私の不安をも取り去ってくれていたから。
それに甘えてた。
でも……それじゃ駄目なんだ。私は……今まで……みんなの優しさを……利用してたんだ。私には何もできない。だったら……せめて。自分の事くらいは自分でしなきゃダメなんだ。……諦めたくない。ここで諦めたら……私は本当にこれから一人で何もできなくなる気がするから。
だから……絶対に挫けてたまるもんか。
(何とか……体力と精神力を戻す方法を……考えなきゃ…………そういえば……イシハラさんは『技術』を使えって言ってましたけど……)
私は手を前にかざし、ステータスオープンを試みます。
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【ムセン・アイコム】
◇『技術』
・『キュアライト(回復)LV1』・『キュアテーゼ(精神回復)LV1』
・『アンチヴェノム(解毒)』
・『アンチパラム(麻痺回復)』・『アンチゾンビ(腐蝕回復)』
・『アンチストム(石化回復)』・『アンチブラム(盲目回復)』
・『調理LV10』
・『薬調合LV5』
聞いた事もない技術名ですけど……これは本来持っていた私の技術がこの世界では不可思議な力と化して使える『技術(スキル)』というものになったという認識でいいんですよね?
イシハラさんの話では使おうと思えばいつでも使えるって話でしたけど………どうやって? 念じればいいのでしょうか?
(キュアライトっ!!)
…………………………………………
………何も変わった様子はありません……どうすれば……。
(キュアライトっ!!キュアライトっ!!キュアライトっ!!)
何度心で念じてみてもやっぱり何も変わらない。
………………やっぱり何も……
やっぱり……私一人じゃ何もできない……何も……変えられない。諦めたくないけど……私にできる事が……もう何も……ない……。
「そうやってすぐ諦めるから何もできないだけだ」
「!!」
(……え!? イ、イシハラさんの声……?………何故? 私の思ってる事が……?)
「おい! ナンバー55!! 貴様誰と話している!? 何だ今の言葉は!」
「あ、また声に出てた。何でもないハゲ、俺の脳内で繰り広げられる笑いあり涙ありの感動大作『マカロニvsマカロン』の名台詞だ、気にするな」
「っ!? な、何だそれは! 貴様ふざけているのか!?」
「ふざけてるのはお前だろハゲ。会話っていうのは対話する人間がいて初めて会話というんだ。今のはただの一人言だ、いつ一人言が禁止なんてルールができたのか言ってみろ」
「~~~~~っ!!!」
…………………………………ふふっ。
「………ふ、ふふふ……あはははっあはははっ!」
「っ! ナンバー56! 今度は貴様か!! 何が可笑しい!!」
「い、いえ……何でもありません。笑っただけです、禁止じゃありませんよね?」
「~~~っ!!!」
本当に……貴方という人は……。
きっと当人にはそんな気もない。
本当にただの一人言。
なのに……いつでも私に道を……光を与えてくれるんですね。
(お願いします。私の技術……私、まだ諦めたくありません。突然こんな世界に来て…嫌な人達にあって……それでも。私……希望を捨てたくないんです)
だって。
『キュアライト』
すると突然、祝福の音色のような音を立てながら私の体が光輝きはじめました。
【「ムセン・アイコム」の体力が100回復】
「「!」」
試験官のお二人が驚いた目で私を見る。試験官だけじゃない、残りの試験者さん達も脱落した人達も……いつの間にかいた大神官さんも。
みんなが驚きの目で私をみる。
全く気にしていないのは……イシハラさんだけ。
(ふふっ、本当にマイペースすぎますよ貴方は。でも……これで)
「異界に来て……こんなに早く……神官としての力を発現させるとは……回復技術は……いくらその才があろうと技術を持っていようと一朝一夕で発現できるものではありません。自身のためではなく、誰かを想いやる心……それがないと扱う事は不可能です。………ムセン様、きっと貴方は……」
まだ、これで続けられる。きっと……イシハラさん、貴方のおかげです。
貴方はたぶん……きっと、一人だとどんな無茶でもしてしまう。どんな無茶でも……一人でしてしまう。危ない事も……誰かと敵対してしまうような事も……きっと平然と受け入れてしまう。
頼れる人ですけど……たぶん孤立する事も厭(いと)わない。平然と何でもできてしまいそうですけど……それ故に…………敵も多く作ってしまいそうな……そんな感じがするんです。
きっとそんな事気にもしないんでしょうけど……
(言うなれば……貴方は……見ていて危ういのです……だから)
だから、私は貴方の力になりたい、助けたい。いつでも貴方の味方でありたい、強い貴方を支えたい。
まだ出会ったばかりですけど本心からそう思ったから。何故かわかりませんけど……きっと私は……貴方の不思議な人柄に少し惹かれているのかもしれません。
絶対秘密ですけどね。秘密にしなくてもたとえその想いを伝えたところで、きっと貴方はマイペースに聞き流すだけなんでしょうけど…ね、ふふっ。
【試験開始から三時間経過】
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