十.警備兵試験
<宿屋「羊毛」>
チュンチュン……
「……ん………っ! ぅう……頭痛い………あれ?……もう朝……?」
「ZZZ」
「あ、イシハラさん……ん……そういえば私……お酒飲んで……そっか……私お酒飲むと記憶が無くなってすぐ寝ちゃうんだ……よくお母さんに怒られたっけ…………イシハラさん……ここまで運んでくれたんですかね……ふふ、マイペースで……不思議で……何考えてるか全くわからない奇妙な人ですけど……やっぱり優しいところもあるんですね……………くしゅんっ! えっ? 寒い……なんで………………………………………!!?」
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
ムセンの言葉を感覚だけで聞いていると、突然金切り音が響き意識が覚醒する。
何だ? もう朝か。こんなガラスを引っ掻くような不快な目覚まし使ったっけ?
隣を見るとムセンが体に布団を巻いて俺を睨んでいた。
「ひどいです! イシハラさん! 信じていたのに……お酒を飲んで寝ているのをいい事に……裸にして……悪戯するなんて! 最低ですっ!」
「おはよう、よく眠れたか?」
「私のセリフ聞こえてます!? 別の次元にでもいるんですかあなたは!? それよりも説明してください!! 私に何をしたんですか!?」
何怒ってんだこいつ。
「昨夜あれだけ求めてたから応えてやったのに何をそんなイライラしている」
「…………え、も……求めて……いた……? わ、私から……ですか? ……う、嘘です! 信じません! 私っ……した事ないのに……そんなわけないじゃないですか! そんなふしだらじゃありません!」
「何だふしだらって。お前が背中をかけと言ったんだろう。それにしてもそのパイロットスーツの構造はどうなってるんだ? イライラしたからとっとと寝たぞ」
「…………?? 背中?? かく??……あ、そういえば……微(かす)かにそんな記憶が……それにこのスーツ……自分の意思じゃなきゃ着脱不可能な特殊な造りで………」
昨夜に起きた出来事を説明してみた。
<昨夜、布団の中>
「イシハラさぁん………背中かゆいですー…かいてくださいよぉ…」
「 」
「んっ……もっと下で……そうですー、そこですー、でもやっぱり地肌を直接かいてくださいー」
「 」
「あ、これ私じゃなきゃ脱げないんでしたー、ちょっと待ってくださいー、今肩出しますからぁー……」
「ZZZzzzz……」
「あーん、寝ないでくださいよぉ……イシハラさぁん…仕方ありませんねー……お布団にこうやって擦って……はぁ、痒くなくなりましたー……あれ……なにか肌寒いけどまぁいぃやぁ……おやすみなさぁい…zzzz」
~~~~~~~~~~~
「……………ごめんなさいっ!!! 私の勘違いでした!!! 本当にごめんなさいっ!!」
何謝ってるんだ? 寝ぼけてるんじゃないかこいつ。それよりも今日は警備試験の日だ、さっさと準備するか。
「うぅ……もう男の人とお酒飲みません……イシハラさん以外の男の人と飲んだ事はありませんけど……私……今までずっとこんな事してたんでしょうか……恥ずかしい……」
こいついつもブツブツ言ってるな。
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<警備兵試験会場前>
試験会場とやらはまるでファンタジーには似つかわしくないビルみたいな造りの建物だった。おかしいだろ、ハンター試験じゃないんだからもっと中世風な造りにしとけよ。
どうやらこの世界は異界人を呼び込んだせいで従来のイメージのファンタジーに色んな文化が混ざっているらしい。
会場前にはまるでセンター試験みたいに騒がしかった。何か賑わって人多いな。こいつら全員警備兵志望なのか、何か重装備に固めたやつから普段着のような村人っぽいやつ、しかも人間だけじゃなく色々な種族のやつらがいる。奴隷職とかで通って人手不足って言ってたけど結構人気なんじゃないか。
「…………………」
ムセンは道中もここに来てからもずっと黙っていた。どうやら緊張しているようだ、まぁ人見知りって言ってたし無理もないか。
「違います………気恥ずかしさと……その、イシハラさんに申し訳なくて……最低なんて言ってごめんなさい……最低なのは私でした……」
一体何の話をしてるんだ。これから試験だっていうのに大丈夫かこいつは。
俺達は受付にエントリーカードを渡して会場に入った。
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「よく集まったな!! 社会不適合者のゴミども!! 俺が今回の試験を取り仕切る試験官の【マルボウ】だ!! よく覚えておけ底辺ども!!」
試験場は結構広くて学校の体育館くらいのスペースがあった。そこにぞろぞろと五十人くらいの試験者が集まる、俺とムセンもそれに続いた。
試験場に集まった五十人くらいの試験者を待っていたのはなんか筋肉ムキムキのハゲと、眼鏡をかけ帽子をかぶりスーツみたいなのを着た秘書みたいな女だった。
なんか懐かしいなぁ、一時期流行ったな。『ブリブリビートキャンプ』とかそんなんだったっけ? なんか鬼軍曹みたいなハゲが踊るやつ、そんな感じのブリブリだった。
「貴様らは何者でもない! 何者にもなれはしないグズだ!! この場所に来たからといって何かになれると思うな!! 世界は貴様らなぞ必要としていない!! 甘ったれるな!!」
何いきなり怒鳴ってんだあのハゲ。まさに軍隊の教官って感じの事を言ってるな、本当に軍隊めいてるのか警備兵ってやつは。
「皆さん、本日はよくお集まりになられましたね。ワタクシは副試験官の【アマクダリ】ですね、本日は皆様の警備兵への適性を見る審査をさせてもらいますね。宜しくお願いしますね」
秘書みたいな女はスーツの下のシャツをはだけさせ胸部を露(あらわ)にしている、そして紙と羽根ペンを持ち何か紙に書きはじめた。
それにしてもマルボウとアマクダリて。何て名だっ!
「何か……凄く厳しそうですね……試験って……でも、お仕事をするためには仕方ありませんよね! 私、頑張ります! イシハラさんも飽きて途中で帰ったりしたらだめですよ?」
ムセンが小声で俺に話しかける。誰がするかそんな事。いや、だるかったらするかもしれない。するべきになきにせずもあらず。
「では、詳しい説明は抜きにして第一試験を始めましょうね」
集まった五十人くらいの試験者が試験官の言葉を聞いてざわついた、隣を見るとムセンも何か変な顔をしている。
「い……いきなりですか……? 内容も何も説明されていないのに……それに第一って……」
何動揺してるんだどいつもこいつも。話が早くて助かるだろうに。内容を聞かされようが聞かされまいがやる事には変わらないんだからやればいいだけだ。
「みんながイシハラさんみたいに逞(たくま)しい神経を持ってるわけではないんですよ……不安じゃないですか…………あの……試験って何をするんですか?」
ムセンが秘書女に質問する。
「質問は禁止ですね、あなた達はワタクシ達の言う事に黙って従えばいいのですね。しかし第一試験の内容だけは発表させてもらいますね、第一試験は……『何もせずに十時間立っていること』ですね」
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