おとなちゃれんじ ~逆ナン編~

 数年前までは、ふとしたことで「寄る年波には勝てないねぇ」なんて冗談を言って友人たちからひと笑い取ったり取れなかったりしたものだが、年波がマジで寄って来つつある現在においては、事あるごとに感じられる身体の機能低下から目を背けることに力を注いでいる。


 とはいえ体力面では、さほど衰えを感じていない(そもそも、元から大したことがない)。問題は内臓機能である。加齢により油物を受け付けなくなったという中年の嘆きはよく耳にするし、お笑い芸人のカズレーザーも、「若いうちにしておいた方がいいことってありますか?」という若者からの問いに「脂っこいものをお腹いっぱい食べること」と返したという。


 私は、今のところ、まだ揚げ物なり脂身の多い肉なりが嫌いではない。たくさん食べてもそんなに気持ち悪くならない。しかし、数時間後に決まってお腹を壊すようになった。昨日なども、夕食にメンチカツ×2とコロッケ×2と肉じゃがを食べたら夜中の3時に腹痛で目覚め、社会人の貴重な睡眠時間を大幅にロスしてしまった。全く、認めたくはないが、寄る年波には勝てないものである。




 ところで、二つくらい前の記事の最後に、「コロナも収まったことだし、これからは既存のコミュニティに潜り込んで新しい友だちを作ったり、何か新しいことにチャレンジしてみたりしたい!」みたいなことを言ったと思うが、先月その一環で逆ナンをしてきた。


 逆ナンとは、男性が見ず知らずの女性に声をかけるナンパの逆で、女性が見ず知らずの男性に声をかける行為のことを指す。


 当初は「既存のコミュニティに潜り込んで新しい友だちを作ったり」の方をやろうとして、ボードゲームバーのような、特定の趣味の人たちが集まる酒場に一人で行ってみたのだが、常連たちの醸し出す空気感があまりに濃厚過ぎて全く潜り込めなかったのだ。現代風に言うと、日和ってしまったのである。


でも席代だけで三千円支払っているし、すぐ諦めて帰るのもなあ……と周りを見回したところ、恐らく同じような理由から呆然と立ち尽くしている同年代らしき男性を見つけたので声をかけ、しばらく談笑し、次に会う約束を取り付け、連絡先も貰って、期せずして「何か新しいことにチャレンジしてみたり」の方を達成した次第である。


 そのあと彼とどうなったかというと、実はどうにもなっていない。冷静になってみると会話が楽しかったわけではないし、行きたい場所や食べたいものを聞いても「合わせます!」しか言わないし、次会うときのことを考えても別にワクワクしなかったので、やっぱりその日は都合が悪くなったと断りを入れてから連絡先を消してフィニッシュした。


 という経緯を、友だちのコミュ力マスターに報告したところ、「えーでも、そこで連絡先を消しちゃわないで、その人からまた別の人を紹介してもらえば良かったんじゃない?」というアドバイスをもらった。




 ──────正直に言うと! 私は、人が集まってわいわいする場所に一人で乗り込み、そこで総スカンを喰らってもめげずに切り替えて、初対面の異性から連絡先をもぎ取ったことで、自分自身をかなりの傑物だと感じていた。私は今までモテようとしてこなかっただけで、やればできるんだぞと。本当はコミュ強なんだぞと。


 しかし、コミュ力マスターの言葉で目が覚めた。今回のチャレンジを経て、私は一体何を得たというのか。

 コミュニティに爪痕を残してくることもなく、新しい友だちも、ましてや恋人もできていない。唯一掴んだ糸口さえ、くだらない驕りから手放してしまった。


 この世はゲームではない。大切なのは、というか意味があるのは、Achieve(達成)ではなくただひたすらにGet(入手)なのだ。逆ナンに成功したこと自体は私の人生においてなんの意味も持たず、逆ナンによって「新しい繋がり」を得てはじめて意味を成すのだ。


 職場の自己紹介で座右の銘を訊かれたとき、私はいつも「健康第一」と答える。しかし裏・座右の銘として、「すぐに結果を求めない」というのも掲げている。

 絵の練習を地道に続け、ブログも(頻度はさておき)更新し続け、スプラトゥーンでもすぐに交戦せず、回り込み、攻撃を躱して、敵の隙を狙い続ける──────。そうすることで、すぐに嬉しいことは起きなくても、少しづつ輝かしい未来に近付いていけると、そう信じているのだ。実際、スプラトゥーンの勝率は随分上がって、今ではXマッチに参加できるほどになった。


 今回の行いは、そんな信念に反する軽率な行動だったと反省している。次に逆ナンに成功したときは相手の連絡先はなるべく消さないし、恋愛だけでなく他の関わり方も同時に模索していこうと思う。



 あとそれとは別として、次は社会人バレーかデッサン教室に参加してみようと思う。

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