出るねん

 これは私、源爽が、ラーメンズ小林賢太郎氏のパフォーマー引退を惜しんでしたためた漫才の戯曲である。






※若い男が二人、舞台の左右から同時に1人ずつ出てきて、舞台中央のマイクの前に並ぶ


※舞台に向かって右側がA、左側がB


 


A: はいどーもー、[[コンビ名]]ですーよろしくお願いしますー。


B: 僕ねぇ、最近悩んでるんです。


A: えぇ、なんで?


B: 最近僕の部屋にねぇ……出るんですよ(手を前に垂らしてオバケのジェスチャー)。


A:(Bを爪先から顔まで眺め上げて)…………プレーリードッグ?


B: ちゃうわ!なんでそうなんねん、ユーレイやユーレイ!決まっとるやろ……。


A:(↑の決まっとるやろに被りながら)ユーレイ!きみんちユーレイ出んの!


B: せやねん、そんでな、


A:(↑のそんでなに被せながら)ほぉーっ……(うんうんと頷きながら前を向いて、手を前で組み、ちょっとリラックスをした姿勢に)。


B:(えっ?という表情でAの横顔を見る)……。


A:(何も言わずにアルカイックスマイルで前を見る)……。


B: ちょっと、(肩を叩こうとする)


A: あ、いま目が合った(客席の適当な人を指差したあと、嬉しそうに小さく手を振る)。


B: おい!(肩をどつく)。


A: ね、見てくれてはる(嬉しそうにさっきの人を指差す)。


B:(その方を見て愛想良く)あ、どうもー(小さく手を振る)ちゃうわ!(肩をどつく)俺の部屋のユーレイの話を聞けや!


A: ごめんごめん、プレーリードッグちゃうって聞いた瞬間興味失ってもうた。


B: なんでやねん、そんな好きちゃうやろプレーリードッグ。


A: そうやけど、ユーレイって……ねぇ?(小馬鹿にした笑いで客席に同意を求める)。


B: なんやねん。はっきり言え。


A: だってなんか……勘違いとかではないの~?そんなん……、ねぇ~?(馬鹿にした笑いで客席に同意を求める)。


B: 勘違いちゃうねん!既に実害が出とってん!


A: 実害ぃ?


B: そう!こないだな、うちの排水溝がいきなり詰まって、全然流れんから詰まってるものを掻き出したのよ。そしたらな……中にびっちり詰まっててん。


A:(ちょっと怯えた顔で自分の頭を指しながら)……髪?


B:(怯えているしかめ面でゆっくり首を振り)……砂。


A: 砂!?


B: そうやねん、そんでよくよく見たら、部屋のあちこちに落ちてんねん、身に覚えのない砂が!! 俺お砂場とか行ってへんのに!!(顔をしかめたまま両腕を組んでさすり怖いわ~のジェスチャー)


A: え、砂……?


B: それだけじゃないねん(カッと横を見る)。


A:(気圧されながら)おぉおぉ。


B: 夜中な、2時とか3時とかのほんまの夜中にな、一人暮らしなのに、何者かの足音がすんねん。最初は遠いんやけど、段々近づいてきて、多分裸足の足音で……。


A:(うわ~と言う顔で、顔の前に両手をあげ、ひたひたという足の動きを表現しながら)ひたひた、ひたひた……って聞こえんねや。


B:(怯えているしかめ面でゆっくり首を振り)(両手を顔の前に上げてピースにした右手の指先を左手の甲に寝かせ気味に乗せて素早く優しく足踏みみたいにしながら)とてててて……。


A: とて!?


B: まだあんねん!!


A: まだ!?


B: 仕事から帰って動画でも見よ思ってPCつけたらな、画面がもう、(力を入れて)チカチカの(力を入れて)ガビガビやねん。


A: おぉ……。


B: んで、デスクのライトもチカチカしだして、慌ててテレビつけたけどそっちも映像音声両方めちゃくちゃで。


A: おぉ!一番それっぽい! ポルターガイストやん!


B: そうやねん!ポルターガイストでコード類ズタズタにされてん!


A: え?コード……?


B:(↑のコード……?に被せて)ガビガビ怖いから電源抜いとこ思って見たら、電源やら映像とか繋ぐコードがな、ポルターガイスト現象によって、まるで鋭い前歯でかみ切られたかのようにズタズタにされとってん!


A: 前歯……。


B: もう家電全滅。


A: 全滅!?


B: もうほんま怖い~、なんなんやろあれ~、お前どう思う?


A: (俯いて眉間を抑え、息を鋭く細く眺めに吸ってBの顔を見上げる)……プレーリードッグ?


B: ちゃうて!茶化すなお前(相手、茶化してへんて……と小声で言う)、俺は真面目にどうしたらええか悩んでんねん!


A: 害獣駆除。


B: だからプレーリードッグちゃうねん!もうええわ、お祓い呼ぶ、今連絡したる。


A: (Bの肩に掴みかかりながら)いや先に業者呼べて!家電全滅は洒落にならんて!今すぐ家からプレーリードッグ一掃せんと次カベ穴だらけにされるて!


B: うっさいわお前、しつこいねん!最初っから言ってるやろ、うちに出るのはプレーリードックじゃなくて、部屋中に砂をまき散らし!夜中に俺の枕元を徘徊して!家電のコードをズタズタにする!プレーリードッグのユーレイが出るねん。


A: (Bの肩を小突きながら)結局プレーリードッグなんかい。


両: どうも、ありがとうございましたー。


 


※Aの部屋に出るユーレイはAの部屋に昔住んでた人が飼ってたプレーリードッグのユーレイ


※プレーリードッグは現在輸入禁止だが、禁止される前に輸入されたプレーリードッグを国内で繁殖させた子孫ならペットとして流通可能


 


 


 


 


 


 小林賢太郎さんは、本当に色々な喜劇やコントをプロデュースしたり演じたり鼻ウサギという漫画なんかも描いていたり、色んなことをしてきた本当にすごい人である。


 まだまだ舞台上での彼の活躍を見たかったし、ラーメンズ(小林賢太郎さんと片桐仁さんによるお笑いコンビ)の新公演も心待ちにしていたが、2020年をもって彼の数ある肩書きから『パフォーマー』を外し、演者として舞台に立つことはもうしないと先日彼自身から表明があった。寂しく、名残惜しいことこの上ないが、小林さんがそう言うなら「わかりました」と言う他ない。


 言う他ないが、やはり、寂しく、名残惜しいこの気持ちを心の中だけに収めておくことはできない! 色々な感情が膨らみ混じり合っているのに、胸の底はすうすうとして、今にも右脳と左脳がくっつきそうである。


 かといって、一人暮らしの私にはそういった心情の吐露を受け止めてくれる相手もいないため、やりきれなさを漫才と言う形にしたためてみた。案外、心が落ち着くものである。

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