花に喩えろ

 前回は、10代の私がBL小説や夢小説を好んで読んでいたことについて、「なぜ画像や動画でなく小説だったのか」という理由を話した。今回は、「なぜBLと夢だったのか」という部分について説明していこう。


 まぁ説明と言っても、理由は極めて単純である。第一に、タダで読めるから。そして第二に、男がたくさん出てくるからだ。




 インターネットの大海原に跋扈するアダルトコンテンツは、それぞれの特徴から様々な枠にカテゴライズされる。『野外』、『室内』、『主観』、『盗撮』、『寝取り』、『寝取られ』……。絡み合い混ざり合い、恐ろしく複雑な構造を呈するこれらの枠組みの、その最外殻に存在するのが、『男性向け』と『女性向け』の枠である。


 「エロに男向けとか女向けとかあんのかよ?」と、すぐにはピンとこない人もいるかもしれない。が、あるのだ。歴史は歴史でも世界史選択と日本史選択では学ぶ内容が大きく異なってくるように、エロはエロでも『男性向け』と『女性向け』では、どちらを選ぶかによってコンテンツの毛色がガラリと変わってくる。シナリオ構成、人気の絵柄、細かな違いは色々あるが、最も大きくて分かりやすい違いは、『男の描写にかけられている熱量』だと私は感じている。




 『男性向け』のアダルトコンテンツというのは、その多くがヘテロセクシャル(異性愛者)の男性に向けて作られたものである。そのため制作者が傾ける情熱のほとんどは、女性のあられもない姿をいかに魅力的に描写するかというところに注がれており、翻って男性の描写は、極限まで省かれている場合が多い。AVでは男優の顔や体は最低限しか映らないし、エロ漫画では男性キャラの表情はおろか、顔のパーツさえロクに描き込まれないことがほとんどだ。エロ小説でも、大体は女性視点で「どう感じているか」、あるいは男性視点で「女性がどうなっているか」の描写に力が込められている。


 しかしながら、ヘテロセクシャルの女性である私は、女性のあられもない姿に、あまり興味がないのだ。水着のグラビアアイドルやエロコスプレなんかは、時に写真集を買ったりするくらい好きなのだが、けっしてリビドーを感じているわけではなく、服を脱いでしまった途端、「しまいなよ」以外の感想を持てなくなる。


 ヘテロセクシャルの男性に、男性ばかりが出てくるAVやエロ小説を渡したとして、喜ぶよりも困惑する方が想像しやすいだろう。ヘテロセクシャル・女性の一例である私にも、性別を逆転して、これと全く同じことが言えるのである。




 どうにかして、『男がしっかり書かれたエロ』が見たい。


 そう切望した10代の私が、下手くそなネットサーフィンの末ついに流れ着いたのが、BLと夢小説の島だったのだ。




 男しか出てこないBLはもちろん、男×女が主軸の夢小説においても、男に関する描写の量は『男性向け』に比べれば格段に多い。が、しかし、実のところ、夢小説はそんなに沢山の種類を読んでいない。


 登場人物の性別にのみ着目すれば、BLよりも夢小説の方が、敷居が低いように思える。しかし大前提として、夢小説はその全てが二次創作なのだ。ワンピースで言うと、どこかの島の酒場で働く『私』にエースが惚れ、気まぐれにやってきては絡んでくるエースに『私』も惚れ、立場的に恋人にはなれないがやることはやる蜜月パートののち、最近エース来ないな~と思っていた『私』のところに、新聞カモメがエースの訃報を届けに来るシーンで〆……みたいなのが、夢小説というやつなのだ。


 私は原作厨である。原作を最も重んじ、好きな作品が映画化されたりするとすぐ「原作では~」「原作の方が~」と鳴き出す、ウザがられがちで頭でっかちな悲しい生き物だ。そのせいで私は、『私』という原作には存在しないキャラが必ず出てくる夢小説の基本構造を、どうしても受け入れることができなかった。


 唯一テニスの王子様の夢小説だけは、原作に一切手を付けていなかったため、よく読んでいた。テニプリの夢小説が読めなくならないよう、必死で原作とのエンカウントを避けていたあの日々も、今となっては良い思い出である。




 一方でBLであるが、一般的なイメージだと、これも人気漫画の男キャラ同士が恋人になっていたりする二次創作作品が真っ先に思い浮かぶかもしれない。確かに二次創作のBLは非常にたくさんあるが、ストーリーからキャラクターまで全てがオリジナルのBL作品というのも、世の中にはたくさんあるのだ。


 このオリジナルのBL小説というのが、無料でアクセスできるアダルトコンテンツの中では、最も私の肌に合った。男しか出てこないのも、上下2パターンの男性が同時に見られるので、むしろお得感すらあった。金がなかった学生時代は主にアマチュア小説だけだったが、社会人になった今は商業BL漫画やゲイポルノなんかもたまに買って鑑賞している。男性向けのエロコンテンツの中にも『百合』(平たく言うとガールズラブ)やビアンAV(女同士のAV)というジャンルがガッツリ確立されているあたり、アダルトコンテンツの中に、かならずしも同性の存在を必要としない人というのは、男女共に一定数存在するようだ。




 ここまで長々とBLの話をしたが、私はBL「も」好きというだけで、いわゆる腐女子ではない。(腐女子だと思われること自体に問題はないのだが、ここでハッキリと宣言しておくことに意味がある。)書いているエロ小説や絵は、性癖が曲がっているものの『男性向け』であるし、BLではない女性向けのアダルトコミック(通称レディコミ)やAVも好きだし、リビドーを感じないだけで、普通の『男性向け』エロ漫画やAVも結構見ている。自分のことを的確に言い表す言葉が見つからないが、シンプルに 助平 とでも思っていてもらえれば、それで概ね合っている。

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