第44話・魔術の使い方
「セリエ、ちょっといいか?」
移動の魔術でセリエの横に現れたジョンは急ぎ説明をする。
「出来るとは思うけど、やったことが無いから上手く行くかどうかは分からないわ。」
ジョンがセリエに提案したのは魔術の付与による攻撃。付与する魔術はエクスプロージョン、爆発の魔術だ。これを矢に込めて放てば、ガーゴイルに当たった瞬間爆発するのではないか。そうすれば、如何に強固な体を持つガーゴイルもひとたまりもないのではないかと言うのがジョンの目論見だった。
しかし、魔術の付与を行えるセリエもそれがどうなるかは分からなかった。
例えば付与する場所。これは矢じりの部分で問題ない。風の魔術を付与する場合は矢そのものにかけてしまうが、これは射かけた瞬間に矢羽から魔術を発動させて矢を加速させる為だ。矢羽は風を受けて付与された魔術を発動させる。
だが、今回はそれはしなくていい。矢羽が風を切った衝撃で爆発してはいけないからだ。
「矢じりだけに付与するにしても、射かけた瞬間爆発する可能性はあるのよ。」
何せそんな事をやったことが無いので誰にもどうなるか分からないのだ。威力の調節はある程度出来る。セリエはアルベールに習った魔術は全て無詠唱で行使できるように練習してきたし、また威力の調節にも力を注いできた。
だから魔術の行使に関する部分では問題は無いのだ。どうなるか分からないと言うだけで。
「出来るだけ弱い威力で一発込めて撃ってみよう。」
ジョンは苦笑いで提案する。実戦で実験するなど泥縄も良い所だが、しかしやってみるしかないと言うのも事実だった。
何せガーゴイルの戦闘力は高く、現状パーティのメンバーでこれに近接戦闘で打ち勝てる者がいない。
ならばもうやってみるしかないのだ。危険なのは承知の上で。でないと最悪皆が死ぬ。
「仮に上手く行ったとして、ガーゴイルにいきなりお披露目も出来ないから向こうで少し試してみましょう。上手く行ったら威力を上げたエクスプロージョンを付与しましょう。」
エクスプロージョンを付与していきなりガーゴイルに射かける訳には行かない。放った瞬間爆発すれば目も当てられない大惨事になるのは言うまでも無いし、仮に矢じりが当たった瞬間爆発したとしてもそんな威力のエクスプロージョンでは大した手傷も負わせられないだろう。
ガーゴイルに警戒心と言うものがあるかどうかは分からないが、矢に対する警戒が殆どゼロであるこの状態は維持しておきたかった。
「矢柄の部分を持って、矢じりは絶対他の物にぶつけたりしないで頂戴ね。」
ジョンとセリエは現場をミリアムに任せて一先ず跳ね橋付近まで下がった。下は土の地面だが、いかほどの衝撃で魔術が発動するのか皆目見当がつかない。慎重になるのも当然だった。
何せ弱いとは言っても爆発だ。我々の認識で言えば爆竹程の威力はあるだろう。そんなものが至近で爆ぜれば死にこそしないが痛いだろう。勿論怪我だってする。
「さて、それじゃぁ実験開始っと。」
本当ならばもっと悠長にやりたい所だがそうもいかない。何せ戦闘中だ。こうしている間もアルベールやジェラールはガーゴイルの攻撃を必死に掻い潜っている。
「想像通りにいけば良いけど。」
ジョンの後方でセリエが構えながら言う。もし放った瞬間爆発すれば、即座に回復の魔術をセリエがかける。そしてもし失敗したら、次の手を考えなくてはならない。
ヒュゥッと、矢は飛んで行った。そして壁に当たった瞬間パンと乾いた音を立てた。
成功である。
「おっしゃ、成功だ。」
ジョンもセリエもふぅっと安堵の息を吐く。時間をかければかけるほどじり貧になっていく状況にようやく光明が見いだせたのだ。
そしてここからの行動は早かった。
ヴォルフガングに指揮して貰い弓を扱える冒険者達の半数に散発的に矢を射かけさせ、ガーゴイルに矢に対する警戒心を徹底的になくさせる。
いくら当たっても大丈夫だと、傷の一つも付けられない弱い攻撃だと思わせる。
一方もう半数はおっかなびっくりで矢柄を握りしめていた。セリエやジョンから説明を聞いて皆戦慄したのだ。何せ一見なんでもない普通の矢だが、敵に当たれば大爆発を引き起こすと言うのだから。
嘘か冗談だと思いたい所であるが、相手はガーゴイル。想像すらできない石像の敵に、対する武器として提案したのはAランクの冒険者。
説得力は抜群だった。
「インパクト!」
再三威力を調節しようとしてはいるが、どうも上手く行かないのかガーゴイルをよろめかせる程度にとどまっているアルベール。少し前まではハルバードの攻撃を避けていたが、今は攻撃に合わせて衝撃の魔術を放ち均衡を保っていた。
一方ジェラールとジルベルタは肉薄してガーゴイルにハルバードを振るわせないようにしている。ジェラールがハルバードを盾で抑え込み、横合いからジルベルタがガーゴイルの足を蹴って邪魔しているのだ。
拳や足ではダメージを与えられないばかりかこちらの体が痛い。ジルベルタは嫌がらせに徹していた。
「坊主、ジェラール、ジル。合図したらガーゴイルから離れて盾を構えろ。ジルは走ってこっちまで逃げてこい!」
ジョンが叫ぶ。内容は言わない。ガーゴイルに言葉が理解できるかどうかは分からないが、分かられてしまったら事だ。
今まで横並びで普通の矢を放っていた冒険者達と、爆発の矢を持つ冒険者達が入れ替わる。扇状に距離を置いてガーゴイル二体を囲み、射線上に誰も入らないようにする。外すのは良くないがまだマシ。味方を巻き込むのだけは絶対に避けなければならなかった。
冒険者達が矢を番える。当たれば爆ぜる恐怖の矢だ。間隔を開けて扇状に広がり、ガーゴイルに向けて矢を引き絞る。
「いいぞ皆、逃げて来い!」
ジョンが三人に向けて叫ぶ。ある程度距離を取って貰わないと巻き込んでしまう。まず三人に声をかけ、ガーゴイルとの距離が開いた瞬間を狙って撃ちこむのだ。
「インパクト!」
最早何度目か分からない衝撃の魔術をアルベールは放った。少しは力加減が上手く行ったのかガーゴイルは大きくのけぞった。
「よし!」
アルベールは言うが早いか振り返り、並んでいる冒険者の端に向かって魔術による移動を行う。何をするのかは分からないが、矢を使う事だけは分かったからだ。
「どっせえぇーい!」
同時にジルベルタは斜め後ろからガーゴイルの足を蹴り上げた。自分も痛いが仕方がない。ジョン達の方を見やれば弓を使うのが見て取れた。自分は全力で走れば逃げ込める。しかしガーゴイルの正面で踏ん張っている騎士は無理だ。
後ろを振り返る余裕も無いし、何より全身鎧はクソ重い。ガーゴイルから走って逃げるのは不可能。だからこそ大勢を大きく崩すために思いっきり足を蹴り上げたのだ。
「ジェラールもとっとと逃げろ!」
足を蹴り上げられて尻もちをつく形となったガーゴイルをしり目にジルベルタとジェラールは駆け出す。ジルベルタは迷いなく列となった冒険者達の端に向かって。そして振り返ったジェラールもそれに倣いジルベルタの後を追って走った。
「今だ、撃て!」
ジョンは大声で叫ぶ。そしてその瞬間冒険者達は皆一斉に恐ろしい矢を放った。
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