第88話 理由があれば繋いでいいのかな

「ここなら、人はそんなにいませんし、練習にもってこいですね」


「そ、そうだね……」


(流れるプールは人気で人が多いから、こっちの温水プールまで移動したけど……実際、入ってみると温泉って気分になっちゃう。入ってる人もおじいさんやおばあさんが数人いる程度だし……)


「思井くんどうしたんですか? 始めますよ?」


「えっ、う、うん――」


「どうしたんですか? ピタッと固まって」


「い、いや……高嶺さん、手……」


「手? ああ、どうぞ、握ってください。握らないと怖いですもんね」


「そ、そーなんだけど……何て言うか……」


(えっ? 本当に良いの!? 高嶺さんと手を繋いで良いの!?

 高嶺さんとは何回か手を繋いだことはあるよ!? こ、恋人繋ぎだってしたことあるし……。でも、あの時は突然だったから意識する暇もなかったというか……それに、僕も変に興奮していたからと言うか……。

 高嶺さんが僕の腕に抱きついてくれた時もあったけど……あれだって、高嶺さん曰く、僕を守るためみたいな感じだったし……。

 で、でもでも。いつだって、理由があれば手を繋いでいたんだし、今だって浮くことを教えてくれるっていう理由があるから――)


「じゃ、じゃあ……握らせてもらうね……」


「はい」


「な、なんかゴメンね、高嶺さん」


「いえ。頑張って浮くようになれたら、あっちに戻りましょうね」


(流れるプールから温水プールに移動させたことも悪いとは思ってるけどそうじゃないんですよ! 僕は、教えてもらう立場なのにドキドキしちゃってるんです!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る